11時間目
『寮ー自室』
煌々と照らされる倉庫の中、加奈はようやく目当ての物『キーアイテム』を見つけ出しそれを片手にベッドの上で転がっていた。本当だったら今頃交流会に出て美味しい料理を食べていた筈だったのに。
いや、もしかするとネストの連中に恐れ慄いて味すらしなかったかもしれないけれど。
ひっそりと月の光が差し込む廊下をひとり。駆け走ったとき。聞こえた明るい喧騒に背を向けた自分にふっと漏れた笑いが部屋に響く。響いたそれは加奈の鼓膜を寂しげに揺らした。
「けどこれ無事見つかったし良かった…」
そういって軽く頭を振り古ぼけた日記を取る。『失踪事件』が引き起こされた原因。それがいま加奈の手の中にあった。人当たりの良い先生をあそこまで狂わしたもの。恐ろしい、それが。
『平井さあん最後の講義ですよおお!耳をかっぽじって聞いてくださいねえ。これはこれはこれはこれはっ!パラキート大先生の日記から教わったんですううう!』
ループした中で何度も何度も何度も聞いた名前。だけど実際一度も目にしたことのない日記。
『死人に口無しですもんねえええ?冥土の土産に可愛い生徒には教えちゃいますよおお』
二度目。死ぬ直前にようやく聞き出したその在り方。そのとき人は、人を殺す前に口が軽くなることを熱くて痛い暗闇の中で知った。
ふいに、手のひらがくっきりと見えて。
「……っ!?」
感じた予感に咄嗟に加奈は喉に手を回す。体を流れる血液が、一瞬で沸騰したような痛み。
「っ…、っっ!」
助けて、きっと声なき声でそう言った。息をしようと藻掻く口から零れるのはひゅーひゅーと耳障りな音だけで。肺が苦しくて、身体が焼けるように痛くて。ぬるりと額から顎を大粒の汗が雨のように止まらない。手のひらから日記が落ちた。
呆気なく落ちたそれは沢山の人間を狂わせた忌むべきもの。そのくせ覚えたての魔法でも燃えてしまいそうな脆くて古くさい日記。こんな単なる紙切れの集合体が加奈を始めにした数人もの生徒の命を奪った事実が酷く可笑しくてたまらず、喘ぐ唇がにぃと孤を描いた。
(こんなに苦しいのにまだ笑えるんだ)
一番落ち着くと決めた淡いシーツを足先が蹴り上げて。生理的な、意味もない空虚な涙がぼろぼろと流れ落ち汗と混じったそれらは喉に回した爪の先にまでとうとう滲ませる。目の縁に溜まった滴がまた一つ零れたとき、開いたページの一番初め。狭まった視界に飛び込む題名の下にはこう記されていた。
『禁じられた実験が再開することのないよう祈る。愚かなパラキート』
生理的に溢れ出る涙に視界が歪んでるのに何処かはっきりとその文字だけは、見えた。キーアイテムは回収した。もう失踪事件はおこらない。大丈夫。そう繰り返し言い聞かせて加奈はまたひとつ、泣いた。




