スライドドア
『あら?貴殿は私が視えるのね~』
鈴を転がすような声とはよく言ったもんだ。
コロコロと口元に手を当てて、
小首を傾げる姿が 可愛らしくもあり美しい。
…居るのがオストメイトでなければだ。
「失礼ですが、水波能売神さまですか?」
『そう、ミヅと呼んでも良いわよ。」
…既に、うすさまとの会話はバレてるらしい。
それよりも…だ!!
「ミヅさま、ご入浴中でしょうが、
そこ、清掃したいんで出てもらえませんか?」
『まぁ、綺麗な水だったからつい入ってしまったわ。
貴殿らの掃除が丁寧なのね~。』
…それは嬉しいお言葉だか、そのまま出るのはマズいって!
「ミヅさま!!」
亮子は、新しい綺麗な白タオルで
立ち上がるミヅさまをくるりと包んだ。
「女の子なんですからね!」
タオルに包まれた小さなミヅさまは、
顔だけちょこんと出している。
釵子につけられた鈴がチリンとなった。
そっとオストメイトの棚の上に座らせる。
…一見 タオルがなければお雛様みたいだわ。
『…ありがたや、このタオル…暖かいぞえ』
亮子は無視を決めて、
たったとオストメイト清掃を始めた。
手を躊躇なく突っ込み、洗剤とスポンジで磨く。
ボタンを押し、水を流しながら濯ぐ。
スポンジには穴を開けゴム紐が通されており、
手首に通してある。
洗い流すと同時に、スポンジを流さないようにするためだ。
オストメイトは一体式なので、
排水が詰まったら、壁をぶち抜いて、
排水トラップを剥き出しにしないと詰まりを直せないのだ。
金属部分を含め 消毒で仕上げていく。
『手早いの』
真っ赤な顔のうすさまが、
チャンスとばかり、ミヅさまの横に座っていた。
…雛人形だな。
思わずクスリと笑いが込み上げて来た。
「ミヅさま、どうしてこんなところで入浴してたんですか?」
片付けをしながら亮子は聞いた。
『…最近はの、外の水が美しくないのじゃ』
公園、田園の水路、噴水…
水辺は多々あれど、それに接する人の心が
水を汚してしまっていると言う。
うすさまがそっと、ミヅさまの肩を寄せた。
『…感謝がないのじゃ…それに…』
「それに?」
『ここにはうすさまがいらっしゃるから…』
ボン!
うすさまの髪が真っ赤に燃え上がった。
「ちょっと!警報が鳴るから…火はやめて!」
『…おぉ、すまぬ』
みるみる火は治ったが、顔は耳まで真っ赤だ。
…はい、ご馳走様です。
亮子はとっとと、次の清掃場所に向かう事に決めた。
スライドドアの取手を消毒薬で磨き、
そっと振り返る。
ニ神は、向き合い手を握っていた。
…タオルは後で回収しよ。
普段なら開け放しておくスライドドアを、
亮子はそっと閉めた。
……恋の邪魔は、しない方がいい。




