オストメイト
亮子はため息を吐きながら、
隣のブースのバリアフリートイレの清掃へ向かった。
ここはオストメイトと
折りたたみ簡易ベッドが設置してある。
ひと昔前なら「多目的トイレ」や「多機能トイレ」とか
「優先トイレ」など呼ばれていた。
でも今は
バリアフリートイレとか
アクセシブル・レストルームとか
マルチパーパストイレとか言われる。
「結局、ぜーんぜん優先されないから
格好よい名前になったのにねぇ」
…横文字で言えば良いってもんじゃないはず。
亮子は一人苦笑しながら、新しいタオルを手にした。
【一般の方はご遠慮下さい】などと書けば
クレームに繋がってしまいかねない。
いっそのこと、バリアフリートイレの
専用スペースとか専用ゾーンにしてしまったら?
便座周りの手すりを消毒しながら
亮子は思った。
一般トイレは
全く別場所にしちゃえばいいのに。
ブツブツ言ってるのが聞こえたのか、
「昼間なんか高校生っぽいカップルで
平気で入ってますよね~」
「何してんの?って感じですよね~」
いつの間にか、久美子が合流して来て言う。
亮子は久美子のビルメンカートを見る。
案の定、カートにモップを立てて入れてある。
それは正しい。…が
「久美ちゃん、使ったモップ付けっ放しの移動は
危険度高いからやめておきなよね。」
その汚れたモップを上に、立てて移動して来たのだ。
万が一、そのモップが
壁とか商品に触れたら、アウトだ。
監視カメラはほぼ死角がない。
…弁済で済めば良いけど、場合によったら
チーフの管理不行き届きになってしまう。
そりゃすぐ使うから「ま、いいや」なんだろうけど。
…世の中、自己優先が多すぎる。
「あー、はーい、女子トイレやって来まーす。」
ちょっと機嫌を損ねたのか、そそくさと
女子トイレの清掃へ向かって行った。
一通り清掃終えて
残すオストメイトを洗おうとスポンジを持ち直す。
ふと、うすさまを見ると
真っ赤な顔でモジモジしている。
「どうしたの、うすさま」
声をかけた瞬間、直立不動になる。
…空中で直立不動できるんだね
真っ赤な顔を両手で隠す。
でも指の間は空いている。
……何やってんの?
……見たいのか隠したいのか、どっちなの。
うすさまを無視して
洗剤を手にオストメイトへ向かう。
「……え。」
シンクの中に、小さな誰かがいた。
湯船に浸かるように、
溜まり水へ肩まで浸かっている。
……薄衣で。




