整える
台所で水飲んでいると、
山川が戻って来た。
手には大きな懐中電灯と丸めたタオル。
…もう片方には…どう見ても籠。
「歩きにくかった~」
ドンと籠をテーブルに置く。
亮子が籠を覗くと、笹の葉の上に
川魚、胡桃やら…アケビ?に栗?…緑色の小さな実…猿梨?
季節感が全く感じられない食材が入っていた。
「…どうしたんですか?」
「風呂から上がったら、脱衣場の前にあった。」
『山の神からの贈り物じゃ。…それと湯屋権現からもだ』
山川の頭の上で毘沙門天さまが答えた。
「…だ、そうだ。」
「なぁ、湯屋権現ってなんだ?」
『湯の神…癒しの神、無病息災の神と呼ばれておる。』
「それがどうしてこんな…?」
『湯屋を浄化してくれたお礼だそうじゃ。』
「湯屋を浄化って…あっ!亮子…掃除したのか?」
「…あ、うん…つい。」
「あははは、お前もか!」
「…え?山川さんも?」
「…ついな…どうせ濡れてるしと思って。
浄化にはならんだろうが…ついででやってしまった。」
ぷっと亮子は噴き出した。
「…あはは、私も同じ、ついでだからって…」
照れくさそうに笑う山川を見て、
亮子はなぜだか安心した。
…同じだ。
…作業した後は落ち着いた自分。
…私と山川さんのやった事は綺麗にするだけじゃない、
心も整えてくれる必要な作業だったんだ。
「…なんとか落ち着いたな。」
山川はそう言って亮子の頭をポンポンと叩いた。
「巻き込んでしまってごめんなさい。」
「俺が好きで巻き込まれたんだ、
……大型犬になったのはまいったがな。」
楽しそうに笑う山川の耳が赤い。
…確かにおチビの洗濯は楽しかった。
「今日はもう休もう。明日は店も定休日だから、
ゆっくりこれからの事も話せるし、
爺さんも帰って来るだろう。」
「はい…そうさせてもらいますね。」
おチビを迎えに行こうと、お爺さんの部屋へ向かう亮子を呼び止めて山川が言う。
「悪いが、あの小山とは寝れないからな。
客間はドアだから、俺も流石にドアは外せない。」
「あああ、そうじゃん。
モフモフと寝れるチャンスだったのに。」
思わず亮子は言ってしまった。
慌てて口を押さえるがもう遅い。
呆けた顔の山川を無視して
慌てて客間に向かった。
大笑いの声が背中を追って来た。
ドアをパタンと閉めて亮子はずるずるっと座り込んだ。
…恥ずかしい。
その夜…
小山が大きく動いて、襖を突き破り
亮子の部屋のドアの前で丸まっているなど
神さまましか知らなかった。




