職業病は落ち着く
ちゃぽん
亮子は手足を伸ばしてお湯にゆっくり浸かっていた。
山川に言われた事を無視して掃除もしてしまった。
…いや職業柄?責任上?
山川に申し訳なく思っていたのが一番だが。
…どうせ服は湿っちゃったし、ついでよ。…ついで。
まず、壁やら鏡や洗い場に飛び散ったおチビの毛を洗い流すように、シャワーで全体に流していく。
脱衣場のロッカーから取り出した、
フロアースクイジーで端から排水口に、水を流していく。
柔らかめのデッキブラシで壁のタイルを磨き、
床も同様にブラシで擦って行く。
隅の方は手作業だ。
…結構腰に来るなコレ
それから5つの洗い場のシャワーやカランをスポンジで洗う。
もちろん鏡も忘れない。
1箇所づつシャワーで洗剤を丁寧に流し落とす。
それからタオルで鏡を磨き
カランを拭き上げ…シャワーヘッドの詰まりを確認しながら
シャワーも拭きあげる。
「これは床に着けっぱなしだとダメな奴」
シャワーホースは床の密着しないように、
水栓に一巻きかけるようにしてヘッドを整えた。
最後に排水溝の掃除だ。
上から下へとスクイジーをかけながら
汚れを寄せ集めて排水口に溜めながら
同時進行で、
「ここ見逃しがちなのよね。」
湯船に浸かった視線の先…
カランの下側の汚れは意外に目立つ。
しゃがみ込んで裏側まで拭きあげて行く。
…さすが掃除屋さんの家だけあって
酷い汚れは見当たらない。
排水口のゴミという名の
おチビの毛をまとめてビニール袋に入れ、
脱衣場のゴミ箱へ入れた。
汗だくになったが、気持ちは落ち着いた。
…色々ありすぎだったもの。
濡れた洋服をこちらも袋に入れて、
タオルを持ち湯屋へ入る。
身体と髪を洗ったあと、髪をタオルで巻いた。
湯船につかないように…
使用した洗い場と桶を軽く洗い流し
湯温を調整しながら湯船に浸かった。
「ふわぁぁ~」
手足をゆっくりと伸ばしと力が抜けて行く。
湯屋は蒸気で真っ白になっている。
曇った窓ガラスをそっと開け外の空気を取り入れた。
「気持ちいい。」
夜風が火照った亮子の頬を撫でて行く。
…一度に色んなことがありすぎた日だった。
まさか山川の家で、
まったりと温泉に浸かっているなんて…
一瞬、実花子の顔(昔の)が過ぎった。
…山川には会わせたくない。
なぜか亮子はそう思った。
…取られるのが嫌??私が??
パシャンとお湯を手で掬って、顔に叩きつける。
…そんな事よりおチビちゃんのこれからよ!!
ウチのアパートでは無理。
子猫サイズなら隠せたかもしれないけれど、
あの大きさは…
「まずドアから入れないわね。」
なんだか亮子は可笑しくなった。
一生懸命に身を小さくして入ろうとするおチビと
広がる訳でもないのに、
ドア枠を引っ張る山川を想像したからだ。
「…ふふ、コメディ漫画だわ。」
その時、山から大きな声が聞こえて来た。
「くそ熱いじゃないか!」
ジャバジャバと大きな水が出る音も聞こえて来た。
…山川だ。
また亮子の顔が火照り出した。
「…亮子~風呂、最高だぞ~」
…声大きいし。
パシャン。
亮子はまた顔にお湯を叩きつけた。
…火照った顔はそのままだった。




