神さまの遣い
「おチビじゃなくなっちゃった…。」
「驚いた!本当はお前こんなにデカかったのか。」
白い身体をブルブルっと幾度も震わせ、
水気を飛ばすたびに、山川と亮子がびしょ濡れになっていく。
「うわ!おいやめろ!」
「きゃー。」
山川はバスタオルを仔…いやもはや狼の背にかけ
ゴシゴシと拭いていく。
亮子も同じように、頭の先から拭いて行った。
タオルを交換するたびにに、
身体を震わせるが、飛んでくる水滴は少なくなって行った。
毛がふわふわに逆立っていく。
「真っ白なのに」
「額には黒点がまだあるんだな…」
「ねぇ…」
亮子は黙って扉を指差した。
「あそこ通るかな…。」
「両方の扉を外せば出れるか…。」
山川は扉を外そうとした。
その時、その扉をすり抜けて神さまが飛び込んで来た。
『ほう、これは…』髭を摩りながら
山川の肩に乗った迦具土神さまが言う。
『…なんとまぁ立派になったことか…。』
『お綺麗でございます。』
『見事じゃ』
亮子に肩にそれぞれ乗って奥津両神も頷いて居る。
『良い仕事をしたな。』
山川の頭の上に立った毘沙門天さまが
山川と亮子を労うように呟いた。
…確かに立派になったけど、
立派すぎてここから出れないじゃないの!
「こいつをここから出したいんだが、
…その…神さま達、出してやれないか?」
扉を外そうと悪戦苦闘して居る山川が言った。
『悪いが我らには無理じゃな』
迦具土神さまが言う。
『湯屋権現が結界を張っておるのでな、
自力で外しておくれ』
「なんだよ~なんでもできるのが神さんじゃないのかよ。」
結局、山川と亮子は汗だくになって扉を外し
さらに入り口の扉も外しやっと元おチビを外に出した。
「俺、露天で汗を流してくるから、
お前はここで入っておけ」
やっとの思いで扉をハメた山川が言う。
「でも外は真っ暗…」
「懐中電灯を持っていくし、俺の庭みたいなもんだから大丈夫だ。何より早くさっぱりしたいだろ?」
亮子は反論する気持ちも萎えていた。
お爺さんの部屋で丸くなって居る小山(もちろんここも襖を外した。)のような元おチビを見て頷いた。
「ありがとう…そうさせてもらう。」
…ついでにお風呂掃除もしてこよう。
「風呂場の掃除はしなくて良いからな!
明日できる事は明日でいい!」
山川はタオルと着替えを手に台所口から外へ出て行った。
「余計な事をせず、ゆっくりして来い。
話の続きは落ち着いてからだ。」
懐中電灯の丸い光が
ゆらゆらと闇に吸い込まれて行った。
『亮子殿』
奥津姫が声をかけた。
『彼には毘沙門天が付いて行きました。
大丈夫ですから…』
『仔の事は我らに任せって寛いてくるが良い』
奥津彦神さまもそう話した。
…安心して良いんだよね?
やっと亮子は一人で考える時間をもらえた。




