おチビ
掃除屋さんの朝は早い?
朝の開店前清掃が朝からのシフトの人は
もう4時には目を開けているだろう。
掃除屋さんの夜は早い?
夜間清掃の人は帰って休んだら
あっという間の出勤前なんだろう。
夜間清掃の人には、定休日という感覚が少し違う。
その日の汚れを、その日のうちに清掃する仕事だからだ。
目覚めた亮子は
「寝坊した!!」と飛び起きた。
…一瞬、自分の居場所を見失った気がした。
「どこここ…」
ゆっくり覚醒していく頭。
「…山川さんちだった。」
シーツと枕カバーを外し、
布団を畳んで押し入れにしまいながら、
やっと亮子は一息ついた。
「顔洗ってこよう。」
洗濯物とタオルを手にドアを開けようとノブに手を伸ばす。
カチャリ
ノブは回るが、ドアが開かない。
「え、なんで?閉じ込められた?」
ノブを回しながら身体でドアを押す。
ほんの少し隙間が空いた。
でも、それ以上は動かない。
何かドアの外側に重い物が置いてあるようだ。
「山川さん!!荷物どけて~山川さん!!」
亮子は大声で叫んだ。
ドタバタと走る音がした。
「うわー」
ドドドドッン
派手に重い音がした。
「痛てて…うわ!!なんだこれ!!」
叫び声が聞こえた。
「山川さん!!何?どうしたの?」
亮子が叫ぶ。
またダダダッと音が近づく。
「お前か!!」
「そこを退けよ!!」
「亮子、ちょっとまて小山が動いた」
…小山??
カラカラと笑い声が響く。
『御使いどのは、亮子殿が好きなんだなぁ』
「毘沙門!!笑ってないでなんとかしろ!」
「…おい、小山動けよ!」
…小山って…おチビちゃん?
「おチビちゃんそこに居るの?
そこ退いてくれないかな?」
亮子はドア越しに声をかけた。
「うわわわ!」
ドシンとまた音がした。
押し続けていたドアがいきなり軽くなり、
亮子はトトトッとドアと一緒に一気に廊下に出た。
ドアを閉めると目の前には、
廊下いっぱいに広がる自分の背丈程ある白い背中。
「おチビちゃん…」
ギリギリ振り向いた黒点の顔。
埃立つほど振られる尻尾がドタンドタンと廊下を叩く。
「亮子大丈夫か?」
心配そうな声が届く。
「うん、大丈夫。
おチビちゃん、一緒にお部屋に戻ろうか」
ミシっと音がして小山が立ち上がった。
「ちょちょ!待て。俺を踏む気か!」
「待っておチビちゃん…ゆっくり行こう。」
亮子は笑いが込み上げて来た。
ドタバタと音がするのは、
山川が廊下から移動したのだろう。
ミシミシッと音をさせながら、
おチビが移動する後ろを亮子はついて行った。
そしてお爺さんの部屋へ入るところで、
惨状を目にしたのだった。
「そこで待っててね。洗濯して片付けてからまた来るから。」
おチビは大人しく、チャブ台を乗り越えて丸くなった。
「…爺さん怒るだろうな。」
外れた襖には大きく穴が空いている。
でもそれよりも、
横に立った山川の髪の毛があちこちに跳ねている姿が、
また可笑しくて、亮子は笑った。
小山のおチビは、
亮子が笑うと丸くなったまま尻尾を振った。
…同感ですとでも言うように。




