行き先
エレベーターの扉が閉まると、
二人同時にふぅとため息を吐いた。
「なんだったんだありゃ…」
「…わかんない…ただ怖かった。」
『アレは餓鬼だな…』
迦具土神さまが、山川の肩から言う。
「ガキ?子どものようには見えなかったが。」
なんの気なしに山川は答えている。
「気味が悪かったなぁ…で、腕の子は黒猫か…。」
「…こっちもわかんない…。」
『その仔は犬神…山神の仔の方じゃがな』
奥津比売命さまが呟いた。
『餓鬼は犬神を自分に憑けたかったんだろう』
今度は奥津日子神が続けた。
『同じ犬神でもこちらは山神の使いの犬神…狼の仔じゃ』
『憑くわけもないな』
「まぁ、飼ってやるか。
……いや、うちで飼えるか?
無理なら里親を探してやろう。」
チンと音がして扉が開いた。
早足で二人は管理人室の前を通り過ぎようとした。
「…あの…それ鈴木さんとこのペットでしょうか?。」
「…はい彼女から飼えないので引き取りました。。」
亮子は身を固くし腕に中の仔を守るように抱きしめた。
「よかった~近所から苦情が出る前に
引っ越しするって聞いては居たんです。」
管理人のおばさんは柔和な顔でホッとしたように言う。
「失礼ですがご主人は?ペットの事をご存知で?」
「ええ知ってますよ。鈴木さんから相談されていたので、
まーしばらく見逃してくれって言い放っただけですが。」
ケタケタと笑いながら、おばさんは話した。
実花子のゴリ押しのような会話が
聞こえて来るようだった。
奥から男性が現れた。白髪頭のおじさんだった。
「そうなんです、鈴木さん…結構強引でね。」
こめかみをポリポリかきながらおじさんが言う。
山川はジプロックを取り出して管理人夫婦に渡した。
「こちらをお返しします。」
「鈴木さんのですね。わかりました。預かり証要りますか?」
「いえ大丈夫です。」
亮子がきっぱり断った。
「この子を頂きに伺っただけなので。」
山川が今度は亮子の腕に手をかけ促した。
「行こう」
まるでもうここのは用がない。
いやここから早く抜け出すのが先だと言うように。
エスコートのように背をそっと押しながらマンションの入り口へ向かった。
自動ドアが開いたと同時に
チンという音が聞こえた気がしたが、
二人とも振り返らなかった。
外の空気を思いっきり吸い込む。
息苦しさが抜けて行った。
「帰ろう。」
夕陽はもう沈みかけている。
逢魔時…紫に染まりつつある空を見ながら
亮子も答えた。
「うん、帰りましょう…おウチに…。」
三神が同時に拍手した。
腕の中の仔犬(猫ではなかった)が
黒から白っぽく変わって行く。
「白い仔犬だったんだな…。」
覗き込みながら山川が言った。
指先で頭をコチョコチョ撫でた。
「お前も一緒に帰るんだぞ。」




