幻と
キッチンは整然としていた。
まるで何も使ってないかのように。
いや…調理道具も磨き上げてある。
だかうっすら埃をかぶっているようなので、
今ではほとんど料理もしていないのだろう。
流し台の下には
餌鉢なのか
乾いた白い皿と
同じく白い陶器のボウルが僅かに水が残って
並んでいた。
テーブルの下には空のダンボールが転がって居る。
小さな毛布も転がっていた。
「何か飼っていたのでしょうか?」
キッチンの入り口がら覗き込みように
管理人が呟く。
「そう…かもな。」
山川はじっとテーブルの下を見つめる亮子を見ながら答えた。
3人はリビングへ戻った。
部屋の様子から実花子が慌てて出て行ったように見える。
亮子は黙って、リビングの散乱したものを片付け出した。
ゴミはゴミ箱へ
猫用品はまとめて部屋の隅に置いた。
ほとんどに散らかった洋服は、値札がついたままだ。
綺麗に畳みクローゼットへ入れる。
クローゼットの中も、何かを探しているように
引き出し半開きでごちゃごちゃしていたが、
亮子はそっと閉めて行った。
そしてクローゼットの扉を閉める。
たったそれだけでリビングが落ち着いた。
寝室もベッドすら使用したと思えないほど
整然としている。
管理人はベッドの下を覗く。
「何もいませんね~」
キッチンへ戻った。
山川は後をついて来たが
管理人はキッチンの入り口に立っていた。
「やっぱり何もいませんね。」
亮子の視線はテーブルの下とキッチンの出窓を交差する。
そして出窓に向かって言った。
「ここも片付けていいでしょうか?」
「も、もちろんです。」
管理人が代わりのように答えた。
…山川が無言で、そっと亮子の右の手を握った。
「大丈夫なのか?」
「…はい。多分…。」
「俺は何をすればいい?」
「…冷蔵庫の中を片付けてもらえませんか?
食べれるものとそれ以外のものに分けて
それ以外は処分して下さい。」
「わ、私は何を…」
おずおずと尋ねる管理人。
「ゴミ出しと 良ければゴミ袋の用意をお願いします。」
「わかりました!」
管理人はリビングの溢れたゴミ箱から袋ごとゴミを抜き、
亮子がまとめたゴミ袋と一緒に外に出て行った。
「ゴミ袋用意して来ます。」
バタンと玄関の扉の閉まる音聞こえ、
亮子の肩から少し力が抜けた。
握ぎられた右手を軽く握り返す。
「何かいるんだな?」
「…はい…片付けながら様子を見ます。」
「わかった。無理はするな。」
名残惜しそうに手を離し、冷蔵庫へ向かった。
亮子はテーブルの上を片付けを始めた。
今日買ったと思われる食材を山川に渡す。
山川は冷蔵庫の中からほとんどの残菜をゴミとして出し、
どこかららひっぱり出したタオルで拭き上げて居る。
亮子が玄関脇からハンディ掃除機を発見し床を除塵して行く。
大きく膨らんだゴミ袋は、廊下に出し管理人が運んで行く。
亮子は床やテーブルに染みついた臭いを、
台所洗剤で拭きげ、一息ついた。
その瞬間、テーブルの下の黒い固まりが
亮子の腕の中に飛び込んで来た。
「見つけたぞ!」
山川が亮子前にすっと立つ。
低い声がキッチンの入り口から響いた。
管理人の真っ赤な顔が
亮子の腕の中を睨んでいた。




