無駄?
「ヒトヒトマルゴ到着」
ブツブツ呟く亮子は憂鬱を隠そうともせず、イートインを見回した。
やはり綾子はいなかった。
このまま来ない可能性もあったが
あの綾子の事だ。
「ごめーん遅れちゃった。テヘヘ」
とふざけた笑いと共に現れるに違いない。
亮子は休憩中とわかるように制服の上から私服の上着を着ている。
「はぁ…」
洗面台周りと、ドリンクコーナー周りを清掃したい。
あと小一時間でここの巡回なのだが、
30分前倒しでも良いじゃないか。
いる来るか
来るかどうかもわからない「待つ人」では居られなかった。
「待つだけの無駄な休憩はやめよう」
亮子は大慌てでバックヤードに戻り、
そこに置いておいたダストカートに上着を投げ入れ
イートインの清掃へ向かった。
…元々綾子との待ち合わせ時間を信用してなかったのが丸わかりだが。
ドリンクコーナーの受け皿を外し、隣の流しで消毒薬と
水につけておく。
その間にドリンク機の表面の汚れを
マイクロクロスと消毒薬で丁寧に拭きあげる。
それから、つけ置きしていた受け皿を丁寧に洗い、
こちらも繊維が残らないように、
不燃紙のクロスで拭きあげる。
「お客様が並んでいないくて良かった」
お客様が並んで居た場合は、
鍵付きのドリンク機下から予備の受け皿と
素早く交換しつつ拭きあげをしなくてはならない。
たった3分待たせてしまえば、
10分も待たされたと思うのが、
待ってる側の言い分だが、それは正しい。
…人の体感時間なんてそんなものだ。
それから亮子は、チラチラとイートインの様子を
見ながら洗面台の清掃を始めた。
現代は清潔に関する意識が高くなり
より食事の前の手洗い等がされるようになり、
洗面台の周りも中も水はねが多い。
思っている以上の跳ね飛んでいるのだ。
ペーパータオルを補充し、
テーブル拭き用のカウンタークロスを補充する。
汚れたカウンタークロスを回収してから清掃を始める。
この手順を逆にしてしまうと、
「汚れた手で(使い捨て手袋をしていても)ペーパータオルに触れた。不衛生」とクレームが上がる。
自分のことは見えてなくても
人の事はよく見えるらしい。
手洗い石鹸を補充し
洗面台の清掃と消毒が終わり、ゴミ箱のゴミ回収をしたところで声がかかった。
「えー仕事してるじゃない。休憩中じゃないの?」
時間は11:42分
綾子時間はやっぱり綾子時間だった。
「ゴミ捨てて来ないと休憩にならないから。」
亮子がムッとしたような声で返事をすれば、
「あまり待たせないでね。忙しいのよね」
「待つ時間って無駄な時間じゃん。」
どの口が言うか…と綾子の言葉を無視し、
ダストカートを押してバックヤードへ向かった。
この先の綾子との会話も
無駄な時間に感じられない事を
祈りながら。
上着を着て戻って来た亮子に
小さく手を挙げて合図する綾子。
既にコーヒーをチョイスしてセットされている。
「亮子はブラックで良かったでしょ?」
「相変わらず人に聞かないね~」
つい言ってしまった。
…今はもうカフェイン断ちをしているのだが。
昔の亮子を引きずっている綾子に
げんなりした亮子だった。




