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掃除屋さんは心も綺麗?  作者: 黒米 紅子
貧乏神VS貧乏神
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そして貧乏神は…



神様には、希望なんて不要なのだろう。


神様は神様として、ただそこに在る。


感謝され、愛され、讃えられ、

敬われる。


そして、人に必要とされなくなれば、

いつか消えていく。


それが神様というものなのかもしれない。


けれど。


神様だって、心がないわけじゃない。


傷つくこともある。

寂しくなることもある。


人間が「祟られた」と恐れるのは、

もしかしたら神様を傷つけてしまったことを、

どこかで感じているからなのかもしれない。


消えるも残るも神様次第。


そう言っていたのに。


神様をこんなにも人間臭くしているのは、

結局、人なのだ。


キャロの般若のような怒り顔と、

その奥にあるさおりに対する切なさを見ながら、

亮子はそんなことを考えていた。


この貧乏神は、

心が折れてしまうほど長い年月、

人を思いやりすぎたのだ。


自分が傷つくことより、

人が傷つくことの方を見ていられなかった。


きっと貧乏神になる前は、

付喪神になるほど大切にされ、

愛されてきた人形だったのだろう。


愛したい。


愛されたい。


数え切れないほど泣いてきたのに、

今もまた怒りながら泣いている。


亮子は山川から見られないよう

柱の影からキャロを手招きした。


「キャロ」


そして亮子はそっと、キャロの頭を撫でた。


「どうしたい?」


ゆっくり、ゆっくりと撫でながら尋ねる。


「さおりの側にいたい」


「見守ることしかできないよ。

手助けもできない」


「それでも」


キャロは俯いた。


「見ていたい……。

笑ってる顔が見たい」


『行けば良い』


屋船さまが静かに言った。


『それがお主のやりたいことなのじゃ』


『誰かのためではなく、自分のために』


童ちゃんも真剣な顔で続ける。


『自分で決めるのじゃよ。

妾のように、行き先も決めて良いのじゃ』


『行くもよし、戻るもよし』


引きつったような笑顔で、

キャロは頷いた。


『……怖いけど、あの子を見てる』


『うむ。

まだあの子が館内にいるうちに行け』


屋船さまが扇子を閉じる。


『外へ出てしまえば、妾の保護も届かなくなる故な』


キャロは小さく頷いた。


そして亮子に向き直る。


『……また……着替えに来る』


「うん」


ポン、と小さな音がして、

キャロの姿が消えた。


『……ありがと』


声だけが、しばらくその場に漂っていた。


「妾も行ってくる」


田舎家へ戻ったはずの童ちゃんは、

いつの間にか元の着物姿に戻っていた。


『ドレスで戻ったら、えらく泣かれてな』


童ちゃんは苦笑する。


『服の一つも与えなかったと……

だから出て行かれたのか、と』


『言葉が通じぬので説明もできず、

「服を用意します」と言うのでな。

しばらくは好きにさせようと思うておる』


今度は嬉しそうだった。


『ジジババがおるうちは、側にいてやろうと思うておる。

そのあとは、その時に決めるわ』


『それが良い』


屋船さまが微笑む。


『童……くれぐれも恨むでないぞ。

人は先に逝く者じゃ』


『あい、わかった』


童ちゃんは亮子に向き直り、

深々と頭を下げた。


『ありがとう。

それでも妾は、またここへ戻ってくるであろう。

亮子殿……良いじゃろうか』


「頭、下げないでください」


亮子は笑った。


「童ちゃんは私の癒しよ。

好きにしてていいの。


あなたは、あなたでいればいい」


そう言って、

小さな頭を指先でそっと撫でる。


ゆらゆらと、

泣き笑いの童ちゃんが薄れていく。


透き通っていく身体の向こう側に、


縁側で縫い物をするおばあちゃんと、

その姿を眺めているおじいちゃんの姿が、

一瞬だけ重なって見えた。


必要とされるから、居場所になる。


でも。


居場所は、自分で作れる。


自分が、そこに居たいと思うから。


青い草の香りが、

ふっと漂った気がした。

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