自分にとって
「おねえちゃん」涼子がインフォメーションを通り過ぎる時
背中越しに声が聞こえた。
振り返ると、小さな女も子が、店員さんに手を引かれグシャグシャの顔で
さおりに飛び付くところだった。
「よかったわ」
ふと親の姿がないことが気になったが、
涼子は、清掃業務に戻った。
いつものように。トイレの清掃と消毒をする。
残念ながら、マナーの良いお客様ばかりではなく
今日は
洗面台にカップラーメンなどを流されており
大ごとになっていた。
水分だけならまだマシだが
洗面台は流台と違い排水口もパイプも細い。
亮子は張り付いた残債を、手袋をした手で丁寧に取り除き
それから不燃紙で細かいのもを取りながらふきあげる。
排水口をやっとの思いで取り外し、
見える範囲の残債を取り除き、パイプユニッシュ流し込み
その間に洗面台の周りを消毒して拭き上げて行く。
案の定 排水口を詰まっていた。
水を流せば汚い水がたまり
チョロチョロと少しづつ水位が下がって行くだけだ。
汚れた溜まり水になってしまった。
故障中の札をのせ
小さなラバーカップを用具庫に取りに行く。
「やられたなぁ」
小さくマスクの下でボヤいた。
ラバーカップとガムテープ手にし
亮子が戻ると 童とキャロが仲良く洗面台を
覗き込んでいた。
「汚いから触れちゃダメよ」
実際のところ浮いているのだから
触れてはないのだか、つい年長者ぶって言ってしまう。
どちらかと言うと見かけによらず2人が年長者だ。
ミズさまとうすさままでやって来ていた。
『浄化できるのか?』
…浄化ではなく清掃…いや詰まりの解消だ。
『溜まり水は澱みゆえに…』言葉濁しミズさまが言う。
『だから詰まらせるなと言うておるのに…』
うすさまが腕を組んで怒っている。
オーバーフローにガムテープを貼って
おもむろにラバーカップでボコボコと溜まり水を動かす。
不思議なもので、ラバーカップは押す事で
つまりを治すのではなく、引く力で解消させる。
溜まり水がない状態ではあまり効果がない。
ゴボゴボと音がし始め、溜まっていた水が流れて行った。
ラバーカップをその場で洗い流し
ガムテープを外し、また水を流す。
「よし!行ったわ」
『ほう』
小さくミズさまが手を叩いた。
洗面台には澱んだ水はたまらない。
が…やはり流れは若干良くない気がする。
ここから先の配管の詰まりは清掃の仕事ではなく
設備の仕事となる。
再度、パイプユニッシュを流し込み
故障中を貼って様子を見る事にした。
周りに汚れが残ってないかを確認し
気になる箇所を全て消毒で仕上げる。
タオルの面を変えることを忘れない。
片付けを済ませて、トイレを出る際には
ミズさまに感謝されてしまった。
『亮子殿、感謝でおじゃる』
…仕事しただけなんだが、亮子はなんだかくすぐったくなった。
神さまにとって浄化であろうが
自分にとって清掃は…生活の糧である仕事なのだ。
トイレ前のインフォメーションに通りかかると
怒鳴り声が聞こえて来た。
「さおり!何やってんのよ。梨沙をほっとかないって約束したでしょ!」
まりかの顔が
「お前が言うか?」と言っていた。
さおりの母であろう女性が
ベビーカーごしにさおりを怒っていたのだった。




