居場所は
「ところでじゃ」
まだ写真を眺めている西洋人形を見やっ童ちゃんが言う。
「お主は何という名なのじゃ?」
見られた!とばかり
アルバムを閉じ、しっと棚に戻した。
しれっとしたすまし顔で
西洋人形が 「キャロライン」と答えた。
「うわ!名前まで可愛い!」
「我もそう思うぞキャロ」
「キャロ?!?!」
「どう思う童?」
「キャロでいいと思いまする。」
「私は許可してない!」
「良いのじゃよ、我や童の方が格上ゆえ、
お主は気にせずとも良い…」
扇子で口元を隠しながら、肩を振るわせて話す屋船さま
…絶対に面白がってる。
「不思議なもんじゃな、妾が触れると
この家具も使えるようになるんじゃな」
妾ちゃんが楽しそうに笑う。
触れると
点灯するライト
水の出る洗面台
画面が映るテレビ
…のどかな田園風景と大きな庄屋のような家
「ここは童がおった家じゃ、今じゃ
ジジババしかおらんのだろうて」
「行けば良いのじゃ童」
「お主は自由に行けるのじゃよもう」
屋船さまが言う。
「良いのか?」
「色々なところに行くが良い…
それが今のお主の生き方じゃ」
童は亮子を見上げた。
「…亮子殿…またここに戻って来ても
良いのじゃろうか?
迷った時や泣きたい時に…」
「もちろん、童ちゃんの居場所は童ちゃんが決めればいい」
童ちゃんはじっと小さなテレビを見つめた。
そしてフッと消えてしまった。
…さよならは言わない。でも急に寂しくなったのは事実だ。
ドールハウスの照明も落ちた。
もう本当にただの無機質な玩具になってしまった。
亮子はそれを持ち上げ、窓辺の出窓のそっと置いた。
「さてキャロ、お主はとっとと
唐変木の奴のところへ戻してやろう」
急に声が低くなった屋船さまが言った。
「キャロ、お主には自己がない。
他責で生き抜いてしまった貧乏神は
童のような生き方にはすぐにはなれぬ。」
「…帰りたくない」
「なんじゃ?もっと大きな声で言うてみよ」
「…帰りたくない!!!」
キャロは涙声で叫んだ。
「ここに居たい!」
「それは無理じゃわかっておろう、亮子殿のは
童も我も加護しておる」
「へ?!」
素っ頓狂な声を上げる亮子。
「我らだけでない…他にもじゃが…モゴモゴ」
小さな声でモゴモゴ言う屋船さま。
キャロは俯いた。
「どうしたらいい?」
「どうしたいのじゃ?」
「わからないけど…誰かと居たい…誰かの役の立ちたい。」
「ではその誰が見つかるまで、奴のそばにいるが良い。
ただし、亮子殿が良ければ
ここにも来れる良うにしてやろうぞ。」
「お願いします。」
「亮子殿。」
キャロが小さく呼んだ。
「なに?」
「……ありがとう。」
亮子は首を傾げた。
「何が?」
「全部。」
しばらく考えてから、
亮子は笑った。
「変なの。」
そして立ち上がる。
シンクに残ったグラスを洗い、
テーブルを拭き、
ドールハウスの位置を少しだけ整える。
いつもの癖だ。
「ねぇキャロ。」
「なに?」
「ここに来るなら。」
「うん。」
「次は掃除手伝ってね。」
沈黙。
屋船さまが吹き出した。
キャロは呆然としている。
「……それ、お礼を言った相手に言うこと?」
「だって居候でしょう?」
「ひどい!」
「働かざる者食うべからず。」
「神様なんだけど?!」
「知ってる。」
亮子はケラケラ笑った。
キャロは頬を膨らませる。
その様子を見ながら屋船さまが呟く。
「もう居場所になっておるのう。」
窓の外では夜風が揺れていた。
誰かが帰って来る場所。
誰かがまた来たいと思う場所。
それは案外、最初からここにあったのかもしれない。
亮子の了承もないまま
全ては筋書き通りのように決まっていた。
ふと山川の声が聞こえた。
「言いたくなったら言え。」
今まさにそんな気分だった。




