貧乏暇なし?
「何を言うか!妾は良い目など遭っておらぬ」
西洋人形が姫さまを睨みつける。
「今だってそんなに大事にされているじゃない。」
「それは亮子殿だからじゃ。」
屋船さまは亮子の肩にそっと座った。
黙って親指貧乏姫さまの話を聞いている。
姫さまは、自分の着ている服を
ロッカーの鏡の前で見ながら寂しそうに言った。
「妾は寂しかったのじゃ。今まで妾と戯れて来た者たちが、どうしても先に逝く。」
「そのうちに妾の存在すら気づかない者ばかりになって行った…。妾は忘れられたくなかった」
「手足がだんだんと薄くなって自分でも見えなくなっていくのじゃ。」
鏡の前で腕を上げおろししてみる。
亮子は思わずロッカーの鏡を
磨いた。
ピカピカになった鏡の前の姫さまは
今にも泣きそうになっている。
「だから、悪さもした。気づいて欲しくて…。
でも誰も気づいてくれんかった。」
「…毎晩、泣いた。とうとう自分でも自分の姿が
見えんようになってしまったのじゃ。」
「大丈夫。今はちゃんと見えるよ。」
亮子がツンツンと姫さまのリボンを突っついた。
姫さまは亮子を見上げた。
「亮子殿に叱られた。
悪い事も、亮子殿に褒められたくて
良かれって思ってやった事も叱られた…」
西洋人形貧乏神は、固まったまま
親指貧乏姫さまを見ている。
「…そして許された」
「だから今ここにおる」
静かにそう言う。
「お主は、泣いた事もあるまい。
もちろん褒められたくて何かをする事もあるまい。
ただ、そこにふらふらとおるだけじゃ。」
「…やめて…」
絞り出すように西洋人形貧乏神が呟く。
屋船さまが言う。
「貧乏神に暇などないのよ。
本来なら、関わった人に良かれと思ってやる事なす事
裏目に出ても、感謝されなくとも
ひたすら相手の為になりそうな事を成そうと
それが悪循環でもやってしまうのよ。」
「貧乏暇なし?」
「あら、ほんとにその通りね。」
うふふと屋船さまは笑った。
「それでもその人が そんな中でも小さな感謝を持てれば、
貧乏神は福の神になっていく…。」
「そんな風に思わなかったらどうなるんですか?」
親指貧乏姫さまが言う。
「消えるだけじゃ」
…それってもしかして
「ねぇ、あなたもお着替えしよ!」
「な、何を急に言うの?!」
「その服 洗濯もしてないでしょ?
不潔よ不潔!それに暑苦しそうだし。」
「そうね。亮子さん、私と一緒にお買い物しましょ。」
屋船さまが扇子をポンと打つ。
西洋人形貧乏神さまは
亮子のロッカーの棚に座られられ
動けなくなっていた。
「や、やめて!離して。」
「やめてと言われてやめる悪人はおらんぞえ。」
したり顔で親指貧乏姫さまが言った。
「亮子殿参ろうぞ、妾の事は童と呼んでおくれ。」
…そっか、もう座敷じゃない童ちゃんか。
3人?はロッカールームを後にした…
ロッカールームを出たところを
山川に見られているとも気づかずに。




