親指姫?
「もしかして、他も隠しちゃったの?」
「ごめんなさい…もう返します。」
またパチンと手を叩く。
タオルが戻ったかどうかはわからないけど、
ホッとしたような姫さんを見たら、
怒る元気も失せた。
とりあえず、他の巡回清掃を済ませたからだと思い
「じゃ、これからはやめて下さいね。」
と言いつつ洗面台へ向かう。
お客様が来る前に洗面台を磨かないと行けない。
洗面台の中を軽く洗い、
消毒薬をスプレーしながら磨く。
鏡の水ハネ後も同様に磨いて行く。
鏡前の棚は、お客様の荷物を乗せることが多いので、
濡れていてはいけない。
乾いたタオルで丁寧に拭きあげる。
次は便器だ。
お客様が次々に入って来られる。
「いらっしゃいませ、空いている所をご利用下さい。」
そう言いながら、手前の一番使用度の高いところから
汚れをチェックしながら、ピンクのタオルで拭く。
酷い汚れはブラシで擦る。
夜間と違うのは、お客様の視線。
決してスポンジで便器の中に手を突っ込めない。
「その手で他の場所も触れてる?」
などと言われないように、便器の場合は特に、
専用のピンクの手袋を使い捨て手袋の上に
重ねてはめ、ブラシで擦るのだ。
仕上げのたび、手袋を外し乾いたピンクタオルで
水分を取るように拭く。
便座が濡れていては絶対にいけない。
12個室を全て終わった後、
清掃用具庫の洗面でタオル類や消毒薬ボトル、
そしてピンク手袋を洗い カートの中へ仕舞う。
その際にタオルの数も確認する。
それからやっと使い捨て手袋を外し手を洗う。
清掃用具庫のなかで小さくため息をついた。
目の前には親指姫
棚の上から申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「あなたは??」
「座敷童と昔は言われておった時もあった」
「昔は??」
…座敷童と言ったら家に幸福を呼ぶと言われる神様だったはず。古民家などに居ると言われているけど。
「忘れられるとな、神だって消えるんじゃ」
「でもここにいるじゃない?」
「…今は貧乏神じゃ」
「はぁぁ??」
なんでまたここにも?!
「…妾は…どうしても忘れて欲しくなかったんじゃ。」
「諦められんかったら…」
「…それで貧乏神??」
「寂しゅうって寂しゅうて、
人に見てもらいたくて…
気づいたら…こんな姿でここにおった。」




