ありがとう
「ほら」
車に乗ると山川がオレンジジュースのペットボトルを渡す。
「え?いいの?」
「この間 ゴチになったからな。好きだろオレンジ。」
「うん、ありがと」
滑るように車が走り出す。
亮子は密閉された空間が苦手だ。
人がたくさん乗っているバス。
帰省シーズンの電車。
息ができなくなる気分になる。
すーっと窓ガラスが開く。
外気が心地よい。
黙って横の山川を見た。
…なんで??
山川は何も言わず自分のコーヒーを口にして、
運転している。
「ちょっと寄りたいとこあるんだが
付き合ってくれるか?」
「いいけど。」
「今日出勤したから明日は休みにしといたぞ」
「えーーまじ!!シフト穴開かない?」
「大丈夫だ。教育も終わったからな。」
「やった~ありがとう」
車は市街地を通り過ぎ、
高速に入る。
「ね…どこまで行くの」
窓は細く開いたまま風切り音がうるさい。
「閉めていいか?」
「あ、もう大丈夫。」
オレンジ色の街灯が飛び去って行く。
たった一区間の高速らしくETCゲートを出て
暗い山道へ入って行く。
砂利の駐車場に着く。
「少しあるけど大丈夫か?」
「うん…どこここ」
「行けばわかるさ」
駐車場には幾台かの車が停まっている。
また山川が手を差し出す。
今度はじっと山川を見る。
「暗いぞ」
薄暗い足元を照らす街灯しかない細い道。
矢印の看板が見える。
「わかった。」
山川の大きな手が心強く感じた。
道は石畳になっているのか
それろも硬く固めてあるのか歩きやすいが、
小さな段差がところどころにあった。
川のせせらぎの音が近づいて来た。
その瞬間
「…ホタル??」
小さな甘い光が宙を飛び交う。
ゆらり ふわり…
時々ツィーっと横切る。
葉に留まっている光の点滅。
山川が手を差し出しじっとしていると、
二つの光が手のひらに留まった。
「重ねてみろ」
亮子は黙って空いている手をそっと
山川の手に重ねた。
二人の指の隙間から黄色の光が細く点滅している。
「…綺麗」
そっと手を外して山川はホタルを放った。
亮子はしゃがんで葉の間から見える光に目を向けた。
…思わず両手で口を押さえた。
葉の間から見える対岸の岸辺に
足を川に突っ込んでいる…
ミズさまと
頭をポッポと燃やしているうすさまが
こっちを見て手を振っていた。
ミズさまに触れようとするホタルを
頭を燃やして牽制しているうすさまに
思わず亮子は微笑んだ。
今…ここの水辺は
ホタル達が浄化しているのだろう。
ここを眺めている人達は
今ここでは…綺麗な心なのだろう。
亮子は山川を見上げた。
「ありがとう…」
…連れて来てくれて…




