浄化
「バカかおまえ」
夜間清掃に出勤したら開口一番に
山川に言われた。
「連休だったんだろ帰れ」
「どうしても用があってさ」
「用が済んだら帰れな」
山川はそう言いつつマシンを動かしながら仕事へ向かった。新人教育らしい。
山川は清掃員ではなく社員だ。
本来はサラリーマンのように8-17時の定時のはずだが
時々こうやって夜間清掃の教育や
点検のために色々なシフトに入ることもある。
よりによって今夜がそうだったとは…
「タイムカードちゃんとつけよ!!」
大声で振り返って山川が叫んだ。
清掃屋さんも人件費節約で
清掃ロボットの導入が進んでいる。
でも使う人間はアナログだ。
いくらロボットの性能が上がっても、
使用する人間の性能が上がってるわけではない。
それに最終的に「綺麗、汚い」を判断するのは人だ。
特にトイレや洗面台などは、人の手でないと
清掃は難しい。
ロボットに使われる人には
なりたくないなと感じる亮子だった。
亮子は例の風除室に、ワイパーとタオルを持って向かった。
案の定 屋船さまが浮いている。
ガラスの外にはあめちゃんが情けない顔で張り付いていた。
「貧乏神さまは?」
『外の唐変木に張り付いてるわ』
「外せないんですか?」
『【君のような人と一緒にいたい】なんて闇雲に言っちゃうから、貧乏神が【居たくない】と思わない限り無理ね』
「…言霊」
『神さまの言うことは絶対だからね~
まぁ、浄化してやってよ。困るのは本人だし』
「良いんですか?」
『貧乏神が浄化されれば良いんだけどね。
貧乏神だって…とりついた人の行動や気持ちで浄化されるのよ。』
『取り憑かれた人が小さな事でも幸せだと感じれば
感謝をし続けていけば…貧乏神が幸せを感じれば浄化され
福運となるのにね…』
『人は欲が多いし、良いも悪いも神さまのせいにして神頼みするからね~』
亮子はお年始を思い出す。
毎年毎年 幸福を願ってお賽銭を投げる。
『神さまに頼む時はね。【私は◯◯を頑張ります。見てて下さい。】とか、【これをやって幸せを感じてます。ありがとうございます。引き続き頑張ります。】って願うのよ。』
…宝くじが当たりますようとかは邪道か。
『うーん、当たるように何かを頑張るって願えば良いかもね』
…徳を得るためには、徳を積むって事ね。
それでもいつも通りに、神社で願ってしまうんだろうと思った亮子だった。
ガラスに水を噴きつけ、ワイパーで手垢を消していく。
ワイパーの汚れをタオルで拭きながら清掃を続けた。
最後はガラス下の桟を拭き上げて終了だ。
内側の汚れが綺麗に落としていく内に
今度は外側の汚れが目立つようになってしまった。
結局ガラスは両面を一度にやらないと
綺麗にならないなぁと実感した。
「終わったか?」
山川が声をかけて来た。
「うん 気になってた手垢が取れた」
「帰るぞ」
「はい片付けたら帰ります。」
「だから帰るぞ、送るから」
そう言い残し山川は去っていく。
『見込みありね。』
あめちゃんに縋りつかれて居る屋船さまがウフフと笑った。




