大食いの汚名
「おまえそんなに食うんか?」
振り返った亮子の目に同僚の山川の姿が飛び込んできた。
大きなガタイにスーツ姿。
もしゃもしゃの茶髪頭は相変わらずで、スーツに似合わない。
山川には屋船さまは見えてないようだ。
『私の事話してもいいわよ』
…そんなもの信じて貰える訳がない。
「タッチパネルで間違っちゃって…」
誤魔化したが、信じてもらえたかは別問題だ。
『誘いなさい』
屋船さまの口調が厳しくなる。
なぜだか断れない。
「助けると思って一緒に食べてくれる?」
「俺は良いが…わかった。店員に言ってくる。」
山川はチラリとテーブルを見た。
水のグラスが二つある事を確認したようだが、亮子は気づかなかった。
『ふーん』
屋船さまが亮子の隣に座りなおす。
ちゃんとグラスをカトラリーも移動させた。
そしておもむろに、食べ出した。
「腹減ってるんか?食うの早いな」
水のグラスとカトラリーを手に山川が前に座った。
「あ、うん」
…もう冷や汗タラタラもんだ。
「じゃ遠慮なく頂きます♪」
はたから見たら二人…実は三人で食事が進んでいった。
亮子には味なんかさっぱりなのに、
屋船さまは「美味しいわね」と声をかける。
思わず「そうですね」と返事をしてしまう。
「何がそうですなんだ?」
トマトを口に放り込みながら山川が聞いた。
『言霊の話をしなさい』
「山川さんは言霊って知ってます?」
「言った言葉に力が宿るって奴だろ?」
亮子はチラリと屋船さまを見る。
『そう、言った言葉が現実を引き起こすってことね。
自分の事を信じてくれるかお聞きなさい。』
「え?…それって…」
「なんだよ、俺がそんな難しい事知ってるのが不思議か?」
「いやそうじゃなくって…あの…あのですね…。」
「なんだ?」
「…いきなりで悪いけど、私の事…言う事信じてくれる?」
「信じるも何も信じてるから、こんな奇妙な陰膳に付き合ってるだろ。」
…陰膳に見えたんだ。
屋船さまがコロコロと笑う。
『彼良いわね。私は亡くなった人なのねぇ~』
「んで 何を信じろって?」
「陰膳じゃないのこれ」
「全部を食う気だった?」
「違うの…いるのここに見えないけど、食べる人」
「俺以外に?」
「そう」
「じゃ、自分の分ちゃんと食え。」
「え?」
「見えなく人が食べるように
おまえはおまえの分をちゃんと食え。
そんな痩せっぽっちじゃ倒れるぞ。」
『やっぱ良いわね彼。大事になさい』
そう言って屋船さまはフッと消えた。
『貧乏神の話は今夜ね』
そう言い残して。
やっぱり休みはなくなってしまう予定になった。




