ピクニック
その日は晴れで、僕たちはピクニックに行った。
と言っても、公園でサンドウィッチ食べに行くだけなんだけど。
「たまには外出たら良いじゃん」
「でも、お母さんたち行けないんでしょ…?」
「……リーリと仲良くしていいんだよ。」
「…そりゃあいつもしてるよ、ね、リーリ。」
「うん、安心してよ」
いつも僕たちは一緒。
それが、心地よく聞こえる。
花実ちゃんは外に勢いよく出た。
振り返りながら僕も出る。
お母さんは、難しい顔だ。
僕に離れろ、なんてことを言ったことがあるんだ。
そんなのおかしいよ。
僕たちはいつも一緒がいいのに。
夏の外は、暑い。
でも今は夕立の後だから、爽やかな風が吹いている。
雨や草のような湿った匂いが鼻に付く。
心地よかった。
花実ちゃんは手を繋ぎながら、しきりに僕に話しかけてくれる。
「リーリは何サンドウィッチが好き?」
「僕はチーズ!」
「私チーズあんま好きじゃないなぁ。」
「えー、いいじゃん。花実ちゃんは?」
「私ハム!」
「それ美味しいよねぇ」
花実ちゃんはバッグ型のカゴを持ってきていた。
木でできたそれが、時折風にゆられてきし、と音を立てる。
長い髪が、風にゆられてぶわ、とゆれたりした。
それは風そのものみたいに、綺麗な音を立てているようだった。
公園には小学校の同級生がいたみたい。だから、花実ちゃんはうつむいて暗い、いや、顔が見えないようにしてるから、顔に深い影が落ちていた。
「リーリ、夏休み終わりたくない。」
「なんで?」
「リーリと離れ離れでしょ?」
「僕もそれ、いやだよ」
なんだか、あたたかい空気が広がって、それがあまりにあたたかすぎたから、少し目をそらした。
花実ちゃんの方を少し、見る。花実ちゃんも、少し目をそらして、少し、ちら、ちら、と僕の方を見る。
「…リーリ、顔可愛いから、自信持ちなよ」
「……なんで、そんなこと言うの?」
「…だって、自信なさそうだし。」
「…うん。」
僕はちょっと、花実ちゃんの方に手を伸ばしかけて、ちょっとひっこめた。
「もう、何やってんの」
花実ちゃんはどこかムッとした顔をして、ちょっとそっぽを向く。
その顔でさえ、可愛らしかった。猫みたいで。
少し、それから言葉を交わしたけど、あまり覚えていない。あたたかくて、少しぼんやりしたような感じだったから。
それから、花実ちゃんは少し寝た。
ベンチの端で、かごを抱えたまま、こくり、こくりと頭が揺れる。風が吹くたび、髪の毛がふわ、と頬にかかっていた。
眠そうな顔なんて、前から見てたはずなのに。
なんだか、その日は少し違って見えた。
なんていうか……
すごく遠いところから来て、少し休みに来た人みたいだった。
それで。
少し眠ったら、またどこかに帰ってしまいそうな。
そんな感じ。
それが嫌で。
少しだけ、肩を触ってみる。
やわらかい。
あたたかい。
ちゃんと、ここにいた。
だから安心した。
爽やかな風が駆け抜けて、僕はふと空を見上げる。
灰色っぽい曇り空の向こうから、青空が少しだけ顔を出していた。
まるで破れた紙の隙間から、違う世界が見えてるみたいだった。
青々としていた。
写真に切り取ったみたいに、透き通ってる。
公園では、子供たちが時折笑ってて、優しい空気が漂っていた。
だけど。
遠くで、誰かが僕たちを見ていた気がした。
見上げても、誰もいない。
ただ、風だけが吹いていた。
花実ちゃんが、ぽつりと何か言った。
「クサナギくん…」
だれ?
男の子?
僕は花実ちゃんの顔から目が離せなかった。
クサナギくん。
クサナギくん…
その名前が、頭から離れなかった。
ずっと。




