夢見
花実ちゃんは、ずっと景色を見ている。
綺麗な景色を、まるで心に刻むように。
目がそれを語っていた。
気がついたら、夕暮れがそこにあった。
海は白く透き通るような色に照らされていた。
音がないくらい、穏やかな海。
夕日はそれすらも包み込むように空の上から海へと手を伸ばす。
光が水面を撫でる。
なんとなく。
そろそろカフェを出ようと感じた。
理由はない。
でも、どちらかが示し合わせたわけでもなく。
ただ、花実ちゃんは、どこか。
まだ心が夕日の中にあるみたいに。
帰りは、なぜか僕はぼーっとしていた。
ケーキを食べてお腹いっぱいになったからなのかな。
ぼーっとしながら僕たちはなぜか、車道沿いを歩いていた。
周りには家があって、少し先には林のようなところがある。
ここからもおばさんちに帰れるけど、遠いんじゃないかな、とだけ思っていた。
夕暮れはもう更けていて、あたりは暗くなってきていた。のろのろと歩く僕たちの影は、車道をせかせかと走る車のスピードに置いてかれたみたいだった。
おばさんはまだ、買い物なんだろうか。
いや、そろそろ家に帰ってくるはず。
そうしたら……
僕はふと、思いついたみたいに言った。
「花実ちゃん、おばさんにばれちゃうね」
「…」
「怒られちゃうかな?まぁ優しそうだけど」
「…りーり、」
突然、花実ちゃんが止まった。
振り返る。
固い顔。
目の奥だけがゆれていた。
すると花実ちゃんは、まるで悲しいものでも見た、みたいになった。
「…きれいなところ。」
「…行こうね。」
僕は答えた。
花実ちゃんは、嬉しそうな表情になった気がした。
でも、目の奥はぶるぶる震えていた。
口元は、はにかむというより、なにか漏れそうに。
ふるふる、震えている。
なんだろう。
思う間もなく、花実ちゃんは僕に抱きつく。
柔らかいあごが頭に触れる。
震えているあごは、やわらかすぎて。
雪のように溶けて消えそうだった。
腕がきつく体をしめつけたけど、僕はそれに応えるみたいに抱きついた。
…きついっていうよりは、しがみつくみたいだった。
僕もしがみつくように抱き返していた。
「…大好き。」
花実ちゃんは、ふっと言葉を吹きかけた。
それが当たって、何か唱えられたみたいに動けなくなる。
…いや、抱きついたままになる。
その言葉の意味を、僕はあまり考えられなかった。
ただ嬉しくて。
どうしようもなくしがみついていた。
花実ちゃんは、突然一歩踏み出した。
いや、何歩か歩み出す。
僕にしがみついたまま。
僕は、花実ちゃんに動かされるみたいに足を動かす。
それで良いような、そんな気がしていた。
温かいものに浸されていたから。
車の音が近くなった。
ざぁあぁあ…
耳元で聞こえた気がした。
道路に歩み出していた。
はっ、と僕は息をのんだ。
振り向きざま、動けなくなる。
何かいう前に。
キキーッ!!
大きな鉄の箱のような何かが近づいていた。
すぐそこだった。
風がひと吹きした。
トラック。
それがわかって、叫ぶか叫ばないかで。
目の前が真っ暗になった。
花実ちゃんの大きな手に包まれていた。
どこかでどんっと、鈍い音がした。
それから意識が途絶えた。




