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はなみの夢  作者: 彼岸
36/40

夢見

花実ちゃんは、ずっと景色を見ている。

綺麗な景色を、まるで心に刻むように。

目がそれを語っていた。

気がついたら、夕暮れがそこにあった。

海は白く透き通るような色に照らされていた。

音がないくらい、穏やかな海。

夕日はそれすらも包み込むように空の上から海へと手を伸ばす。

光が水面を撫でる。


なんとなく。

そろそろカフェを出ようと感じた。

理由はない。

でも、どちらかが示し合わせたわけでもなく。

ただ、花実ちゃんは、どこか。

まだ心が夕日の中にあるみたいに。


帰りは、なぜか僕はぼーっとしていた。

ケーキを食べてお腹いっぱいになったからなのかな。

ぼーっとしながら僕たちはなぜか、車道沿いを歩いていた。

周りには家があって、少し先には林のようなところがある。

ここからもおばさんちに帰れるけど、遠いんじゃないかな、とだけ思っていた。

夕暮れはもう更けていて、あたりは暗くなってきていた。のろのろと歩く僕たちの影は、車道をせかせかと走る車のスピードに置いてかれたみたいだった。

おばさんはまだ、買い物なんだろうか。

いや、そろそろ家に帰ってくるはず。

そうしたら……

僕はふと、思いついたみたいに言った。

「花実ちゃん、おばさんにばれちゃうね」

「…」

「怒られちゃうかな?まぁ優しそうだけど」

「…りーり、」

突然、花実ちゃんが止まった。

振り返る。

固い顔。

目の奥だけがゆれていた。

すると花実ちゃんは、まるで悲しいものでも見た、みたいになった。

「…きれいなところ。」

「…行こうね。」

僕は答えた。

花実ちゃんは、嬉しそうな表情になった気がした。

でも、目の奥はぶるぶる震えていた。

口元は、はにかむというより、なにか漏れそうに。

ふるふる、震えている。

なんだろう。

思う間もなく、花実ちゃんは僕に抱きつく。

柔らかいあごが頭に触れる。

震えているあごは、やわらかすぎて。

雪のように溶けて消えそうだった。

腕がきつく体をしめつけたけど、僕はそれに応えるみたいに抱きついた。

…きついっていうよりは、しがみつくみたいだった。

僕もしがみつくように抱き返していた。

「…大好き。」

花実ちゃんは、ふっと言葉を吹きかけた。

それが当たって、何か唱えられたみたいに動けなくなる。

…いや、抱きついたままになる。

その言葉の意味を、僕はあまり考えられなかった。

ただ嬉しくて。

どうしようもなくしがみついていた。

花実ちゃんは、突然一歩踏み出した。

いや、何歩か歩み出す。

僕にしがみついたまま。

僕は、花実ちゃんに動かされるみたいに足を動かす。

それで良いような、そんな気がしていた。

温かいものに浸されていたから。


車の音が近くなった。

ざぁあぁあ…

耳元で聞こえた気がした。

道路に歩み出していた。

はっ、と僕は息をのんだ。

振り向きざま、動けなくなる。

何かいう前に。

キキーッ!!

大きな鉄の箱のような何かが近づいていた。

すぐそこだった。

風がひと吹きした。

トラック。

それがわかって、叫ぶか叫ばないかで。

目の前が真っ暗になった。

花実ちゃんの大きな手に包まれていた。

どこかでどんっと、鈍い音がした。

それから意識が途絶えた。


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