表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はなみの夢  作者: 彼岸
35/40

そのカフェ

夕暮れは、もう近づく。

おばさんは、さっき出て行った。

どこか、スーパーに出かけたらしい。

…今だよ。

だけど花実ちゃんは、何かを待つようにしばらく動かなかった。

顔をじっと、おばさんを送った時のはにかむみたいな作り笑いから変えないまま。

「花実ちゃん」

ふと、話す。

話すというよりは、呼びかけるみたいに。


「そうだね」


花実ちゃんは、なんてことないね、とでも答えるように、かばんをまさぐりだして。

僕に顔を向けた。

作り笑いみたいにはにかんで。

そして少し落とす。

髪がさら、と落ちて、軽い飴細工のように光る。

そこからさらら、と爽やかな音がして、影ができる。

黒いカラスの羽がくっついたみたいに、ゆれた。

「いくよ」

花実ちゃんの首がかく、とゆれた。

ぐっ、と顔が上がって、明るく笑った顔が見えた。

どこの絵画の女の人より、綺麗。

もっと見せて欲しかったけど、僕から顔を隠すように、顔を落としかばんを背負う。

びょん、と弾けるみたいに立ち上がる。

引っ張られたみたいに急だった。

僕もそれにつられるみたいに立った。


そのカフェは海沿いをずっと行くとある。

海が青々と輝く。

白み始めた空がどうしようもなく儚くて、思わず目を背けて花実ちゃんを見る。

砂浜は広く、どこまでも広がってるみたいで、どこかで止まってしまうのだろう。

それでも砂の色が穏やかで、あたたかかった。

花実ちゃんは、僕を抱きしめたまま、その場所でずっと止まっていた。

あたたかい感触が心地よいけど。

花実ちゃんは、顔を赤らめたりしないまま。

ただ、僕の顔を見た。

静かに。

目の奥は、海の底のように深くて、優しく穏やか。

口に微笑をたたえる様が、聖母マリアそのもの。

沈みかけた日に照らされた顔は、太陽から発せられた光から生まれたみたいに、淡く光っていた。

どこか儚い空のように、どうしようもないような何かをはらんでいた。

「リーリ、やわらかいね」

「やっぱり、リーリを抱きしめると気持ちいい」

その言葉があたたかすぎて、なのか。

僕は何も言えなかった。

ただ黙って花実ちゃんの顔を見つめていた。

でも、花実ちゃんの顔がゆれるように悲しげに歪んだ。

なんでなのかはわからなかったけど、ただ僕の頭を撫でながら、悲しい顔。

「似合わないよ」

気づいたら、そうやって言ってた。

「…そうだね、リーリ。これからカフェだもん。」

それから僕たちは、抱きしめ合うのをやめて。

また、歩き出す。

空が高くて、綺麗だけど。

その中で僕たちは小さかった。

まるでこれからは何もできない、みたいに。


そのカフェは現代的な造りで、僕たちはテラス席に案内された。

テラス席は、圧巻だった。

目の前には、どこまでも広々と広がる海。

どこまでも、遠く、遠く。

小島が浮かんでいた、ぽつり。

その近くに、船がぽつ、と浮いていた。

すぐにどこかへ行ってしまいそうな。

そんな船。

僕はいつの間にか、少し泣いていた。

なんでかよく説明はできなかったけど。

とにかく広い海が、穏やかすぎたのかもしれない。

さざ…とどこかで遠く音がして、それが静かな気分にさせてくれた。

海の潮の、少し濡れた匂いが、少し鼻にくっついて、それが癖になった。

カフェで僕たちは、チーズケーキ三種盛りと、抹茶ラテを頼んだ。

それがくるまで、僕たちは話をした。

「学校、僕も行きたいな〜、行けるよね、お父さんお母さんに話せば」

「ん…きっと、行けるよ」

どこか暗いような、上の空で花実ちゃんは言った。

学校の話はやめておこうかな。

「ねぇ、このメニューのカレー、美味しそうじゃない?」

「…ね、ほんと!カレーはカレーでも、エスニックじゃないね。」

「どんな味なんだろ〜」

「頼んじゃう?」

「それは食べ過ぎだよ〜」

爽やかな海風が吹いていた。

こうしてるうちに、チーズケーキと抹茶ラテがきた。

味はもちろん、美味しい。

まろやかなラテとチーズケーキがなぜか合う気がする。

抹茶ラテが入った、味のあるお茶碗を両手で持ちながら、ひと息つく。

「リーリ、口に抹茶ついてる〜」

「ほんと?取らないと〜、どのへん?」

「右の方、あー、もうちょっと左」

「わかりづらいって〜!」

「ごめーん」

この他愛もない時間が好きで。

夏休みが、少し終わってほしくない気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ