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はなみの夢  作者: 彼岸
33/40

幾度も

「リーリ」

耳元で声がして、思わず声を立てた。

「うなされてたよ」

「…花実ちゃん…?」

横を見る。

紛れもない、花実ちゃん。

雨上がりの土みたいに、髪が濃く濡れていた。

「風呂の前にも行かずに、寝てたんだよ」

飴色の髪を触りながら、花実ちゃんは琥珀の色のビードロで、僕を見つめる。

白い肌は、おしろいを塗ったみたいにきめ細かくて、桃のような赤みがさしている。

「…花実ちゃんだ…」

「そうだけど、どうしたの」

「ほんもの…」

「寝ぼけてんの」

僕は一気に嬉しいような。

胸の奥から広がるあたたかさに圧倒されて。

勝手に体が動いていた。

思わず花実ちゃんに抱きついた。


「…なに、甘えたかったの?」

「違うよ〜…」

「そんなに悪い夢でも見たの?」

「うん…」

甘くて。

あったかくて。

とても柔らかいのが、心地よかった。

久しぶりに食事にありついたみたいに、はしゃいで。

僕はしばらく抱きしめていた。


でも僕は、突然はっとして、手を離した。

「…」

「…え、なに?どうしたの?」

「…ほんと、だよね」

「まだ寝ぼけてんの?」

「…ほんと、かな…」

部屋はやけにあたたかくて、いつもと違うような感じがした。

花実ちゃんも、いつもより綺麗すぎた。

お風呂上がりだったから、にしては。

いつもより、きめ細かい光が体中から差してるみたいな、そんな輝きがあった。

それが妖しく光るような、そんな気がした。


「…いたたっ!」

ほっぺに鋭いものが走る。

「寝ぼけてるから、これくらいやらないとね」

「つねりすぎだよ!」

「でもこれで、目が覚めたでしょ」

あ、よく考えたら、ほんとだ。

これ、夢じゃない。

僕は思わず息をついた。

「…そういえば最近!様子おかしかったよー」

「…え、そんなに?」

「そうそう!ずーっとぼーっとしてたっていうか、上の空って感じだったし。」

「え、そんなんだったっけ?」

「そう、私が話してもあんまり返事が返っさてこないから、疲れてるのかと思ってたよー。よく寝てたし。」 

「ほんと?」

ふと、僕はあることを忘れてることに気がついた。

「今日、何日だっけ?」

「今日は8月30日だよー、めっちゃ特徴的な日なのにー、疲れてるなら早く寝たほうがいいよ!」

「え?!もう!?」

まさかそこまできてるなんて、思ってもなかった。

いつの間にか何日も経ってたなんて。

「私明日、親戚の家に行かなきゃ、ってお母さん言ってて。お父さんも行かせないと、って」

ぽつりと、花実ちゃんが呟く。

「リーリも行けるんだって!でもさ…」

暗い声になった。

憂鬱そうだ。珍しく。

「でも親戚の家で療養って…病人じゃないよ、私。」

どこか悔しそうな声でもあった。

「…やっぱ、明日、抜け出しちゃお!」

花実ちゃんは、明るく言った。

「素敵なカフェとか、いいじゃん!私行ってみたいとこあるんだ〜」

秘密基地を見つけたみたいに、花実ちゃんは話す。

その顔が明るくて、明るくて。

なんでかわかんないけど、思わず泣きそうになってきた。花実ちゃんはiPadで調べながら、時折僕を見る。

「…あれリーリ、どうしたのその顔」

「…なんでもない、嬉しくて」

「良かったー!ここ見てよ、駅前のところ」

そこは海沿いの駅の近くの、和風のカフェ。

美味しそうなスイーツの写真が目を惹く。

海が一望できる、開放的な良いところだそう。

「たらカフェっていうらしいけど、お父さんも良かった、って言ってて、良さそ〜」

「いいじゃん、行こうよ!」

明るい声がぽんぽんと弾む。

外は真っ暗で、静かなのに、この部屋の中だけ場違いみたいに、明るく騒がしかった。

それが僕にとって、幸せで。


僕ももしかしたら、夢の何かに狙われてるような気はしてた。

でも、花実ちゃんと一緒なら、それは大丈夫な気がしてた。

きっと。

犠牲、という言葉の意味もよくわかってないのに。

それは誰にも否定できないように思えた。


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