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はなみの夢  作者: 彼岸
31/40

百度

僕は、また。

この夢を見ていた。

花実ちゃんと手を繋ぎながら、寝たはずだった。

なのに。

そこには花実ちゃんはいない。

ただ、薄暗い車の中で、お母さんがぽつぽつと。

霧のように降ってくる雨に合わせるみたいに、話す。

「…花実ちゃんは、入院なの」

「なんで?」

「…病気で。」

「いつまでかかるの?」

「…私たちが百度、病院に行ったら、きっと。」

心なしか、その声だけ強かった。

「今は何回目?」

「…五十二回目」

お父さんは、いない。

なぜか、車の中にいなかった。

この前は、五回目。その次は、十三回目。

次は、次は…そして今。

五十、と言っていた。

十刻みで日にちが進んでいる。

…この夢を見て、たぶん数日は経ってる。

今が何日かわからなくなってるけど、おそらくあと数日は続く。

夢の中、異様なくらい大きな病院の前に、車を止める。

大きすぎて、空に壁がぶつかって歪んでるような、建物。

そこで意識が一旦途絶える。

舞台の暗転みたいに真っ暗になる。

次に意識があるのは、病室の前。

ドアに大きな窓が付いていて、そこから見えた。

花実ちゃんは、点滴の管まみれで、部屋中がその管で覆われている。花実ちゃんが真ん中にいることがかろうじてわかるくらいの、管。

お母さんだけが、管をかきわけるように、入っていく。

時折、花実、と呼びかけながら。

僕はなぜか、動けない。

動きたい。

でも、体を動かせない。

どうにもできないのが、嫌だった。

「…花実…助かって…」

花実ちゃんの近くに来たお母さんは、一番近くの管を避けながら、言った。

それから、花実ちゃんの胸に手を置いて、目を閉じる。

祈るみたいに。

なんでそうするのか、わからなかったけど。

そうするしか、ないみたい。

突然。

体が前のめりになった。

動けるようになったんだ。

扉に近づいて、ドアノブに手をかける。

扉が動かない。

どうしよう。

あたりを思わず見渡した。

廊下には誰一人いなくて、そこに記入済みアンケートのようなものが落ちてるだけ。

これじゃないかな。

なんとなくそんな気がして、拾ってみた。

それは、花実ちゃんの診察シートみたいなやつだった。

年月日が黒い墨汁みたいなもので塗りつぶされている。

花実ちゃんの写真が載ってる。

僕と写ってる、笑顔が可愛いやつ。

でも、名前が載ってない。

まだ書いてないみたい。


………… 13歳

病名:夢見病

詳細:夢を見て、それに侵食される病気。

所見:これにかかると最後、助からない。


だんだん、名前の部分が浮き出てきた。

水からぼやけるように浮かぶ。

僕はそれに目が釘付けになる。


金山花実


そんな。

予感は当たっていたみたいだった。

花実ちゃんは、何かに狙われてたんだ。

だったら。

救わないと。

花実ちゃんのいる部屋の扉を、必死でこじあけようとした。手に力を思いっきり入れる。

ききき。

そう音がした、だけ。

開かない。

「花実ちゃん!!目を覚まして!!」

思わず叫んでいた。

きぎっ…

音が変わったけど、扉はびくともしない。

「目を覚まして!!夢の中なんだよ!!はなみちゃん!!」


自分の大声で目が覚めた。

なんで言ったかわかんないような言葉で。

「…うるさいなー…」

花実ちゃんが横で不機嫌そうにもぞもぞと動く。

それでなんだかほっとする。

「…リーリ、最近寝つき悪すぎでしょ、毎回でかい声出して起きるじゃん」

「うん…さすがにいやだなぁ」

「でも、明日は流石に叫ばないでよ〜」

「わかってるって…」

ほっとした。

これで良かったんだ。

きっと。

下からトーストの匂いがして、僕たちは下の部屋へと下っていった。

バターの甘い香りが漂ってくる。


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