アネモネの花園
「ねぇ、リーリ。最近おかしいね」
「なに?」
「ちょっと、ぼうっとしてるみたい。」
「そう?花実ちゃんもじゃん。」
「そっかな…」
「そうだよ」
花実ちゃんはいたずらっぽく笑ってから、
ぽつり。
呟くというより、落としたみたいに。
「……ねぇ」
「何?」
「わたしたち、似たもの同士だね」
「……どうしたの、急に」
「いやさ、わたしたち。」
「…うん、」
「お互いがいて良いんじゃん」
「うん…」
「…でさ、最近バテてるでしょ」
「まぁ…そうだね」
花実ちゃんは、僕を少し引き寄せた。
肩を抱くように。
優しく柔らかいのはいつものことだけど。
どこか優しすぎるのが、消えそうなくらいに。
「もう…運命?」
「ウンメイ?」
僕は思わず、その聞き慣れない言葉を聞き返す。
そう、と言うように、花実ちゃんはうなずく。
夕日がもう沈みかけていて、薄暗い部屋。
でもわずかに残った夕陽が花実ちゃんの顔に飛び散るように、きらめく。
それは花というよりも、サーチライトが当たるみたいな、鮮やかすぎる、明るすぎるものだった。
優しいはずの光が、一瞬、暗い汚れをはらむようにゆらめいた。だけど僕は微笑んだ。
嬉しかったんだ、と思う。
いや、泣きそうだった。
でも嬉しさのあまり、それがかき消されるくらいに。
「そうやって言ってくれるなんて。嬉しい。」
どこか震えていた。
でもそれは隠し切れないくらいに、
嬉しくて。
うれしかった、はず。
「ねぇ、リーリ。」
ぽつり、と呟く。
花実ちゃんは、気づけばすうっと、
僕に吸い込まれていくみたいに抱きついた。
僕のからだはやわらかくなって、
花実ちゃんへと透き通るみたいに。
やわらかくて。
思わず目を閉じた。
目の奥が熱くて。
なぜだか。
「ねぇ。いつか、どこか遠くへ行こう」
「どこへいくの?」
「…綺麗なところ」
「それ、最高」
気がつけば僕は、笑っていた。
さっきは気づいていなかった。
でも、声を立てて。
ころころ、ころろ。
気がつけば、笑い声が部屋中に広がっていて。
それが、あたたかいから。
花が一面に咲いているようだった。
なんの花かは、わからなかったけど。
それは何よりも美しい花だろうと思えた。
僕は風呂の前に立っていた。
まさか入れない。
でも。
いつか入れてくれるような。
そんな感じが、最近花実ちゃんからする。
柔らかい肌がどんな色をしているかなんて。
なんだか考えるだけでも申し訳ない。
でも。
ちょっとくらいなら。
触れてみたいかもな。
そうやって思うけど、僕は結局風呂にはその日も入らなかった。
風呂はまだ、早すぎるよ。
だけど、花実ちゃんとお風呂の扉一つを分けて、
一緒にいられること。
それが何よりも温かくて。
「リーリ、風呂入れないのざん…」
「わぁあ!!??」
「ちょっと、扉抑えないでよー!」
「なに裸で上がろうとしてんの!?」
「耐性ナシじゃん!」
「あるわけないでしょ!?!?」
「ちょっとなさすぎー」
イタズラっぽいけど、どこか興味ないみたいな感じ。
花実ちゃんは、なぜかどうでもいいみたいで。
それが、なんだか変で。
でも。
それは花実ちゃんの……
…好き、って、こうでも良いのかな。




