夏の終わり
かなかなかな…
どこかから聞こえる。静かな、セミのなきごえ。
夢の中で言ったこと。覚えてくれてるかな。
ふと、そう思う時がある。
でも。花実ちゃんは、その時まで。何も言わなかった。
「リーリ。」
夢の中で呼んだみたいな声。優しくて、静かで。
少し、消えそうな。
僕は椅子から降りた。
花実ちゃんは、椅子の前に立っていた。
夕日の光が横から差していて、髪の毛が茶色く透けていた。なんだか、触ったら、光ごとほどけて消えてしまいそうだった。
「…なに?」
「あの、ね」
かなかなかな……
遠くで、鳴いてる。
「……なんでも」
花実ちゃんは言いかけて、止まる。
少し笑った。
でも、笑う前の顔は、泣きそうだった。
「……いや」
少し間。
そして。
「……私、リーリのこと、好き。」
「え」
風が吹いた。
花実ちゃんの髪がふわっと浮いて、頬にかかった。
心臓が、どくん、とした。
何かが、胸の中で転がったみたいだった。
「だから、もう少し一緒にいたい。学校も、家でも」
花が咲いたみたいだった。
ぶわっ、と。
赤くて、やわらかくて。
白い花まで一緒に広がって。
胸の奥が、あたたかくなる。
でも。
その花は、僕の方じゃなくて。
何かを隠すみたいにも見えた。
「……僕でいいんだね?」
思わず言った。
聞こうと思ったんじゃない。
勝手に出た。
花実ちゃんは、ちょっとだけ目を丸くして。
それから笑った。
優しく。
優しすぎるくらいに。
「……リーリじゃなきゃ。」
その瞬間。
ぷるるるる、と。
胸の奥が震えた。
嬉しい、のかもしれない。
でも。
なんだろう。
"リーリじゃなきゃ"なのに。
"僕が好き"とは、少し違う気がした。
でも、考えたくなかった。
「あの」
「なに?」
頬が熱かった。
耳まで熱かった。
「……抱きしめたい」
少し恥ずかしくて、下を向いた。
笑われると思った。
でも。
「……いいよ」
静かだった。
花実ちゃんの顔が近づく。
近くて。
近すぎて。
目を閉じたら、髪が触れそうで。
ぎゅっ!!
「わっ」
思ったより強かった。
痛いくらい。
でも僕も負けないように抱き返した。
やわらかかった。
あったかかった。
ずっとこうしていたかった。
「…ほんとは、もっとこうしてみたかった」
花実ちゃんは、ぽつり、僕の頭に吹きかけた。
「…ごめんね」
そうだ。
花実ちゃんは、小さい頃はもう少し触ってくれた。
でも、きっと照れ臭くなって、できなくなっちゃったんだ。そう思うと、なんだか少しかわいそうだった。
「…いいよ」
「僕、いま嬉しいから…」
夕日の光が、とろけるみたいに二人を包んでいた。
世界がオレンジ色になって。
なんだか。
このまま二人だけになれそうな気がした。
どこかに行ってしまいそうな。
……その時は、それが幸せだと思ってた。




