消えそうな顔
花実ちゃんは、消えそうな顔になる。
どうしようもなく。
たまにだけど、消えそうになる。
それは小さい時から、少しあった。
初めはお友達とけんかしたの、と言ってた時。
僕を抱きしめながら、言ってくれた。
それは悲しそうで、僕は心から同情していた。
でも、歳を重ねると、僕に言わないことも増えた。
…最近、友達と喧嘩した、って話はあまり聞いたことない。
なんていうか、漠然としたものの気がする。
もっと、霧のような。
どこか遠くで蠢いている。
そんなもののせいで、そんな顔になるのかな。
ふと、花実ちゃんの、窓辺に立ちながらの顔を見ながら考えていた。
花実ちゃんは、消えそうで。
どこか遠くで泣いてるみたいな、そんな顔。
それが嫌で。
僕は呟いた。
「…昔のように、抱きしめるとかでもいいんだよ」
「……それは……」
花実ちゃんは、少しこちらに顔を向ける。
目の奥の、力がない気がした。
琥珀の瞳のはずなのに、その時だけ。
割れそうな、ガラスだった。
でもすぐに、花実ちゃんは琥珀の瞳で僕を見た。
じっ…
まるで僕に何か、ついてるみたいだった。
変な顔。
笑いそうになる。
そうすると。
花実ちゃんはそっと、僕の顔に、触れる。
弱かった。
でもだからか、柔らかくて。
もう少し、触れて欲しかった。
「リーリの顔、柔らかいね」
「…まぁ。」
うつむいた。
なんか、見つめ続けると顔が熱くなりそうな気がしたから。ちょっと熱くなってきてたし。
…手で感じるかな。ばれてないかな。
ちょっと、花実ちゃんの方を見る。
花実ちゃんは、寂しそうな顔だった。
なんでか、わからなかった。
でも。
穏やかに、かすかに笑っていた。
夕日が照らして、輝く。
夕日から生まれた顔みたいに、輝いて光と混ざる、顔。
「…りーり」
柔らかすぎた。
声というには、降ってきたそれは、柔らかすぎて。
何で返せばいいのかわからなくなった。
僕が止まっていると、花実ちゃんはぽつり、言葉を落とす。優しかった。
夕日にかき消されそうなくらいに。
「…かわいいね」
それから、花実ちゃんはしばらくそのままだった。
僕は、言葉を失っていた。
顔が赤いのかとか、熱いのかとかも気にすることができなかった。でも、たぶん熱かった。
花実ちゃんは、ふふ、と息を吐く。
それから、部屋を出て行った。
どこか、余韻を残すみたいに。
足取りは軽い気がしたけど。
ゆっくり。




