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はなみの夢  作者: 彼岸
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センセイ

それから、少し。

花実ちゃんは、前よりも僕と一緒にいるようになった。

食事の時も。

前は、階段から見てるだけだったけど。

今は一緒。

「これ、美味しいでしょ?」

「美味しいよ!なにこれ?」

「スクランブルエッグ。ママの得意料理。」

「ママ、美味しい。」

お母さんは、少し難しい顔をしながら、こちらを見てた。いつもなら、ムッとするところだった。


でも、何か違う。


僕じゃない。

花実ちゃんを見て、難しい顔をしている。

「お母さん、何でそんなに難しい顔するの?」

お母さんは、何も言わない。

難しい顔を保ったまま、少し寂しそうに笑う。

その顔は、花実ちゃんそっくり。

まるで、消え入りそうな、あの顔に。

だから、少し胸がギュッとなった。

「ママはちょっと神経質なんだよ」

「あ、そうなの?」

「そうだよ〜。まぁ、食べよ。」

そういえば。前から、花実ちゃんは色んなことを話してくれた。

僕だけに、って言いながら。

長いこといる。

やっぱり。

僕だけが、花実ちゃんをよくわかってる、ってことなんだよね。お母さんよりも。お父さんよりも。

お母さんには、話さないことも、話しかけてくれた。

先生が厳しい、なんて、言わないんだ、

僕以外の誰にも。

僕は、あの柔らかい、あたたかい笑顔で、花実ちゃんが言ってたことを思い出す。

「やっぱりリーリだけだよー、友達は。」

「僕だけ?」

「そう!みんなに言えないことも、リーリなら言える!」

その時の花実ちゃんの笑顔は、誰よりも優しかった。

「だってさ。」

花実ちゃんは、パンをちぎりながら言った。

「友達って、一人いれば充分じゃない?」

「え?」

「いっぱい作る意味、よくわかんない。」

笑いながら。

なんでもないことみたいに。

「リーリいるし。」

それだけ。

たった、それだけだった。

でも。

お母さんが、その時だけ。

ほんの少し、目を伏せた。

僕は、胸がきゅっと、縮む。

あれを思い出すと、いつも。

なんでだっけ。

なにか、忘れている気がする。


スクランブルエッグは、柔らかくて優しい匂いがして、感触も柔らかくて、雲みたいな。

でも、それはどこか寂しかった。

すぐに食べ終わってしまうような感じがして。


お母さんは、少し寂しそうな顔で言う。

「リーリ、最近食事もするんだね。」

「いや、前もしてたよ。」

「…」

「私の2枚のパンの一個、毎日食べてたよ」

「だよね…」

「食べ物くらい、あげなよ」

「…はなみ。」


でも、お母さんは、その何かを言えなかった。

ただ、少し寂しそうな顔のまま、つぶやいた。

「リーリ、先生に挨拶にいく?」

「え、センセイ?」

「うん。お医者さん。」

あ、お医者さんの方のセンセイ、なんだ。

最近花実ちゃん、変なセンセイの話ばかりすると思ったら。

「前言ってたね。花実ちゃん。本音でお父さんお母さんと話そうね、って言う変なセンセイのこと。」

「そうだよー、リーリがいいのに。」


その時、ふと気がついた。

お母さんは、その時。

一番悲しそうな、何とも言えない表情をした。

なぜだろう。

僕には、その理由がわかる気がした。

でも。

やっぱり、夢の中から救えるのは、僕だけな気がする。


「へー、可愛いですね、リーリくん。」

「そうなんです。リーリとなら仲良くできますし、私このままでいい気がします。」

「花実さん、学校のお友達とは?」


「まぁ…」

花実ちゃんは、少し。

作るように笑った。


「でも、別に。」

少し考える。

「やっぱり、リーリです。」

センセイが、少し黙った。

「学校のお友達とは違うの?」

「違います。」

即答だった。

「絶対違う。」

お母さんが、ほんの少し肩を動かした。


「…ただ、夏休みが明けたらね…」

「…私、リーリと学校に行きます。だって、同い年ですよ?まだ行けてないなんて、ちょっと変ですし。それに可愛いから、誰も変だなんて言いませんよ。」

センセイに、花実ちゃんは、少し尖ったような声で話していた。

「…最近、階段で食卓を、見守るだけだったけど、リーリは、食事もするようになったんですよ。」

お母さんは、少し心配そうに話した。


え、それは家族として嬉しいんじゃ…

僕が振り向くと、お母さんは笑った。

やっぱり、嬉しいんだ。

でも、どこか寂しそうな。

僕は、少しうつむく。

…そうなんだ。


「なるほど…まぁ、それは悪くないですね。花実さんの問題は、友達や仲間をつくれない、ってことなので。」

「センセイ…やっぱり薬を飲んだ方がいい気がします。」

「それもそうですね。寝られてますか?」

「いや…寝られてはいますけど、変な夢を見るって。」

「うーん、不安が夢になってるのかもしれませんね。」


そんな、そんなんじゃない。

あれは、ただの夢なんかじゃ。


「でも、食事も食べれてますし、本当に"友達はリーリだけ、って言ってる"、ただそれだけですものね…」

「そうですね。だから今は心配し過ぎることはないですよ。ただ。」

センセイは、少し声を落とした。

「…リーリさんは、生まれてから家にいるんでしょう?だから、一応幼なじみであることは否定してはいけませんよ。」

センセイは、爽やかな見た目だった。

女の人で、さらっ、とした髪。

さらっ、と花実ちゃんを夢から救ってくれそうでもあった。

でも、それができるのは僕だけ。

ただ、センセイには、なんだか少し胸が温かくなるような気持ちを覚えた。

幼なじみなの、認められたからかな。


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