クサナギ
「クサナギくんっていう子がいるの!」
花実ちゃんは、僕の手を握りながら、じっ、と見つめる。まるで確かめてるみたいだった。
「どんな子なの?」
「私の隣の席の子!サッカーがうまくて、勉強も得意なの!しかもカッコよくて、イケメン!」
「ふーん…」
夢の中で、花実ちゃんを救えないんでしょ?
でも。
「だから告りたいんだ〜」
「え、告白?!」
「そうなの〜。でもな…」
花実ちゃんの声が、消えかけた。
夕日の光が、花実ちゃんの横顔を橙色に染めていた。
でも、その色はあったかいのに。
なんだか、寒そうだった。
「でも…」
花実ちゃんは、少し笑った。
「クサナギくん、人気者だし。」
「うん。」
「私なんかと喋ってても、楽しそうじゃないし。」
「……」
「なんか、私、教室だと暗いし。」
最後だけ、すごく軽く言った。
なんでもないみたいに。
でも。
なんでもない言い方の時ほど、花実ちゃんは変だった。
僕は知ってた。
「クサナギくんは、他に似た子がいるんじゃないかな」
「…どういう意味?」
「ほら、サッカーできる、他の子、いると思うよ。」
静かになった。
しまった。
何となく、そんな感じになる。
花実ちゃんから目が離せなくなる。
花実ちゃんは、驚いた。
目を丸くして。
でも、それは一瞬だった。
夕日にまつ毛が輝く。
花実ちゃんは、消えそうな顔になる。
いや、なったまま。
なぜかはわからないけど。
でも。
やってしまったのかも、というのが、消えない。
花実ちゃんは、笑った。
すごく、悲しそうに。
夢みたいな、
ぼんやりしたような、
もうここにはいないみたいな、
そんな感じになる。
「……そっか。」
笑った。
でも、笑ったというより。
笑う形を作った、みたいだった。
「そうだよね。」
ぽつり。
「私じゃなくてもいいよね。」
え。
違う。
違うのに。
なんか、違う。
そういう意味じゃない。
胸の中が、急にぐらぐらした。
「……そうだよね。私、向いてないな。」
なにに?
告白?
恋?
学校?
わからなかった。
でも聞けなかった。
なんとなく。
聞いたら、本当に消えてしまいそうで。
なんとなく。
「…ごめん」
「え?」
「ごめん」
「…リーリ…」
「ごめんね、余計なこと言っちゃって。」
「……いいの」
花実ちゃんは、笑った。
でも、夕日の光に溶けてしまいそうな、
ぼわっとした輪郭の、顔。
「私、いいの。リーリが友達だから…」
いや、でも。
花実ちゃんは諦めきれてない。
だから?
僕は…
「……いいじゃん、その子、賢いんでしょ。好きならそれで……」
そう言って、僕は何も言えなくなった。
花実ちゃんの方をじっと見たまま。
花実ちゃんは、なんでか、とびきり悲しそうな顔。
夕日に溶けて、どこかにぼやけて消える。
そんな感じの、泣きそうな顔。
「…っ…」
何か言いかけて、何も。
花実ちゃんは、何も言わずに、部屋を出てった。




