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第四話 営みをつなぐ橋 一

 西の国境は

 高き山々が

 連なっていた


 高所による

 自然の厳しさは

 人の侵入を

 拒むかのようであった


 けれども

 人は

 そのような場所でも


 畑を耕し

 獣を狩り

 魚を釣って

 日々の営みを行っていた


 人が通った所は

 道になり

 

 進みを

 阻む

 川や谷間には

 橋のようなものが架けられた


 そうして

 人は

 日々生きていく


 しかし

 自然は

 やさしくはない


 畑をくずし

 橋を流し

 すみかをも

 吹き飛ばす


 それでも

 人は

 営みを

 やめない


 そんな

 人の郷から

 離れた谷間に

 植物の

 ツタを

 使って

 架けた橋が

 あった


 その橋の

 向こうは

 厳しいが

 豊富な

 食べられる

 植物

 木の実

 獣

 がいた


 だから

 その橋は

 何度こわれても

 架け直された


 そのうち

 その橋は

 あまり

 こわれなくなった


 橋のたもとに

 誰かが

 常に

 供え物をするためか


 渡り終えたあとに

 必ず

 祈るためか


 理由は定かでないが


 時がたち

 その橋が

 人々の

 当たり前になった頃


 二つの

 新しい

 出来事が

 人々の口にのぼるようになった


 ひとつは

 その橋の向こう側に

 巨大な何かがいるといううわさだった


 姿を見た者はいないが、

 橋の向こうを荒らした者は

 必ず報いを受ける

 迷ったり困ったりした者は

 いつのまにか

 橋のたもとにもどされている

 

 といったはなしが、

 まことしやかに

 交わされていた


 そして

 もうひとつは

 もっと現実的なこと


 橋の向こうで

 少女が

 ひとりで暮らし始めた

 というものだった


 その少女を

 人々は

 みんな知っていた

 

 何年か前に

 両親を

 なくした少女だった


 幼い頃から

 美しく

 また

 働き者だったことから


 善意の者から

 打算を持った者まで

 多くの者が

 引き取ろうとしたが

 少女は断りつづけ

 一人で暮らしていた


 いつのまに

 橋の向こうで暮らすようになったのか

 誰も気がつかなかった


 それでも

 わざわざ橋を渡り

 しつこく、引き取り話をしようとする者は

 後を絶たなかった


 その日も

 畑から

 戻ろうとしていた少女に

 若者が

 しきりに話しかけていた。


 「なあ、おめえにとっては

  いいはなしだろう」


 だが、少女は答えない

 前を向いて足早に歩く


 「ちっ」


 いらついた若者が、強引に少女の手を取ろうとする


 そのとたん

 若者は

 腰が抜けたように

 その場にすとんとへたり込んだ。


 手足が

 口が

 派手に震えている


 少女は

 おかまいなしに

 歩いて自分の家に戻った


 家と呼ぶには

 あまりに

 みすぼらしいものだったが

 雨露さえしのげれば

 それでよかった。


 少女は中に入ると

 しばらく外の様子をうかがい

 それから

 家を出て少し小高く見晴らしのよい場所まで登って

 橋の方を見た


 若者が

 おっかなびっくり

 橋を渡って帰って行く姿を見て

 ほっと息をついた


 それから思い出したように

 家に向かって駆け出し

 家から供え物を持ち出すと

 一気に橋まで駆け下りた


 橋のたもとの集落側には

 無事渡って帰ってこられたお礼にと

 人々の供え物があったが


 こちら側にも

 少ないが

 供え物が置いてあった


 少女がそなえているものだ


 そこに持ってきた供え物を置くと

 そのまま手を合わせ拝んだ


 それから

 立ち上がると

 橋ではなく

 橋の下の川原をじっと見て

 いきなりぺこりと頭を下げた。


 その目は、そのまま同じところを見ている


 しばらく少女は動かなかった

 まわりの風もやみ

 せせらぎも音をひそめた


 「ほう われが見えているのか」


 少しおどろいた声がした

 いや声ではない

 少女の全身に響くような言霊のようなもの


 「やっぱり、私の目が変になってたんじゃないんだ」


 「ふむ その物言いだと

  もっと前から我が見えていたようだな」


 「うん だから

  こっちへきたんだ」


 「ほう」


 そのものは

 しずかに少女を見た


 「さっきも守ってくれた」


 「気づいておったのか」


 「うん、いままで何度も何度も」

 「でもどうして」

 「今は教えられん」


 「そっか」


 「あっさりしとるのう」


 「助けてくれたことに

  違いないのがわかっただけでいい」

 「なあ、何かしてもらいたいことはないか

  あたしを食いたいっていうんじゃかったら

  なんでもするよ」


 軽く笑ったそのものは


 「食べやせんよ

  それに 何かしてもらおうと思って

  しとるわけでもないのでな」


 「ふ~ん」


 少女は

 それから少し言おうかどうしようか迷ったように

 口を開いたり閉じたりしていたが

 

 「なあ、一緒に暮らさん」


 そのものは、大きく目を開いた


 「ふむ われが恐ろしくないのか」


 「ぜんぜんさ 人の方が恐ろしい」


 「ちがいないな」


 「ねえ どうよ」


 少女はじれったそうに聞いた


 「かまわんよ」

 

 「やった」


 少女は突然、橋の上から

 そのものの背中向けて

 とびこんだ


 「なっ」


 そのものが

 さきほどまでの落ち着きと

 打って変わって

 焦った声を出した


 しかし

 少女は

 身軽にその背中に下り立った


 「無茶をする」

 

 「これぐらい大丈夫だ」


 あきれる

 そのものに

 少女はにこっと笑った

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