第十話 みちが あい わかれる ところ 一
彼女は、
橋を渡っていた。
橋の途中で
二つに分かれている
珍しい橋だ
約束の時間より、少し早い。
けれど足は、重かった。
会えば、また同じことになる。
言葉はすれ違い、
気持ちはからまっていく。
もう終わりにした方がいいのかもしれない。
でも、約束を破れば、
本当に終わってしまう気もした。
家からやってきた道
これから彼に会いに行く道
そしてもう一つの道
道は三つに分かれていた。
彼女は
橋の真ん中で立ち止まった
そのとき――
小さな音がした。
振り向くと、
一羽の小鳥が橋の端に落ちていた。
車に触れたのか、
羽がうまく動いていない。
彼女は近づく。
手を伸ばしかけて、止まる。
(今、行かないと間に合わない)
(でも、このままでは、この子は)
橋の上に、風が吹いた。
ひとつではない。
それぞれの橋の方向から
三つの風が、
すれ違うように流れていく。
彼女の髪が、静かに揺れた。
そのとき、小鳥が目を開けた。
まっすぐに、彼女を見る。
責めるでもなく、
助けを求めるでもなく、
ただ、そこにいるという目。
彼女は、しばらく動けなかった。
やがて、
ゆっくりと息を吸い、
スマートフォンを取り出す。
「ごめん、少し遅れる」
送信する。
それから、
両手でそっと小鳥を包む。
小さな体は、
まだあたたかかった。
そのとき、
ふっと、風がやわらいだ。
三つに分かれていた流れが、
一瞬だけ、重なる。
彼女は気づかない。
橋の上を、
みえない風がそっと通り、
橋の下では、
水が静かに整えられていたことを。
彼女は歩き出す。
遅れるけれど、
行く。
迷ったけれど、
選んだ。
橋の上では、
みちは三つに分かれていた。
けれど彼女の中では、
ひとつに重なっていた。
雨が降りはじめた
小鳥を胸に抱き
彼女は走り出した




