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ミーティングと1on1の条件 最新技術と枯れた技術

「まぁ、ミステリーと言うほど複雑ではないんですけどね」

 そう言いながら世良は自分の携帯を取り出し、何やら検索する。


「かつては才能の世界と言われた短距離走の世界ですが、今はだいぶ原理が解明されてきました。もちろんトップレベルには依然才能が大事ではありますが、50m走で1秒程度なら練習で上げることは出来ます。その時に今よく教えられるのはこれなんですね」

 世良は動画サイトに上がっているものから選んで北嶋に見せた。


「地面は踏むだけ。踏んで跳ねる感覚。後ろに蹴らない。そんな感じです」

「蹴っちゃダメなんですか?最後にしっかり蹴りなさいって教えられましたけどね」

 北嶋は差し出された動画を見ながら言った。

 そこには『良い走り方』と『ダメな走り方』が紹介されており、地面を引っ掻くように後ろに蹴るのは無駄な走り方だと解説されている。


「そこなんですよ。結論から言えばダメじゃないです。今回のお子さんも改善したのはそこでした」

「やっぱり蹴るのが正しかった?」

「どっちも正しいんです。ケースバイケースなんですよ」

 世良は一呼吸置く。


「こういう走り方を研究したり指導している方の多くは陸上畑です。それも現代の整えられた環境と道具を基準にしている。その観点ではこの理屈は何も間違っていません」

 北嶋が首を傾げた。

「すみません。回りくどいですね。一言で言うと、これ、乾いた土のグランドを普通の運動靴で走ると滑るんですよ。特にコーナーが曲がれない。そのお子さんも徒競走の練習でよく転んでしまって苦手意識が出来たそうです。小学校の校庭って結構狭いですからカーブも急なんですよ。だからスピードを出して曲がるのって、けっこう難しい」

「ああ、なるほど」


「ここで否定されてる『引っ掻く、後ろに蹴る』と言われてる動作は、実はスパイクを地面に噛ませる動作でもあるんですよね。これはこれで意味があるんです」

「車で言えばオフロード仕様ってことでしょうか?蹴らない走りは舗装路での最高速仕様で」

「いい例えですね。付け加えるならオフロードかつ、コーナリングや急加速、急停止を考えたセッティングです」

「だから球技出身者がその走りをするのは、意味があるのか。そう考えると、ちょっとこれ、感じ悪いですね」

 北嶋は動画のある説明部分を一時停止して差し出した。


 それは、蹴る走り方の説明部分で、テロップに「球技出身者に多い走り方」と書かれていた。

 世良は黙って頷き、話を続ける。


「だから、その子には『走り方教室での走り方は直線の武器。コーナーは別の武器を使おう』と教えました。結果は5人で走った組で2番だったと先日報告頂きました。元々かけっこは苦手な子だったので上出来だと親御さんも満足されてましたね」

「すごい。さすがです」

 北嶋は音を立てず拍手の仕草だけする。


「たぶん、ここでいう昔教えられてた『蹴る走り』というのが、今日で言う現場のノウハウ。『跳ねる走り』というのがマネジメントなんだと思います」

「あっ」

 ここで北嶋は、世良が言わんとしていることに気付く。


「どっちも大事なんですよ。でも、元々やってたことを否定され、それで転んだりすると『ほら見たことか』『そんなの教科書の中でしか通用しない』と拒否反応が出る。でもね、実は『蹴る走り』側だと自覚している人でも、実際足が速い人は跳ねるテクニックも使っているんです。本人が意識していないだけ。そこを分析して教えることは進歩です」

 北嶋は聞くと同時に何かを考えている様子。

 そして言った。


「ただ、進歩側も自分たちが万能ではないことも自覚が必要と。古いとされているノウハウも、真意が解明されていないだけで、有用な場合もある。もっと言えば、言語化してないというだけで相手を下に見てはいけない。無自覚に進歩側の能力を既に持っている人もいる」

 北嶋の言葉に世良がニヤリと頷く。流石彼女は理解が早い。


「結局、ミーティングや面談が上手いってのは、才能なんでしょうか?」

 北嶋が話題を仕事に戻す。


「環境もありますが、才能による部分は少なからずあると思ってます。店長達はそれらの研修は一通り受けてますからね。それでも差があるのが実情で」

「環境とは?」

「見本と経験です」

「世良さんは何を見本にしてます?」

「自分は・・・前職で様々なプレゼンに参加してたのと、接客で学んだ傾聴と話術、高田専務の仕事的考え方なんかが根底にあります」

「確かにそれは研修でどうこう出来るレベルじゃないですね。。。下手にマニュアルにしても芯を食わなそう」

 北嶋が腕を組んだ。


「ええ、だから、そういう人材は育てるより見つけてスポットを当てる方が現実的だと思ってます。別に店長がファシリテーターをやる必要はない。実際、高田専務含めたミーティングに参加する時、だいたい自分がファシリテーターやらされますから」

「フラッシュですけど、ファシリテーターって役職があってもいいかもしれませんね。役職はやりすぎかな?社内認定みたいなの。持ってれば多少給料上がるぐらいで。そして・・・すみません。メモ取りたい」

 北嶋がノートPCを取り出して起動する。

 そして、カタカタとキーを打ちながら話した。


「ミーティングや面談の中身を管理するのはナンセンスなのは理解しました。ただ、ノータッチというのも性善説過ぎる・・・だから・・・」

 北嶋は、独り言とも問いかけともつかないようなことを呟きながらキーを打つ。

 そして、目を瞑り、中指をテーブルにトントン叩く。これが彼女の考えている時のクセのようだ。

 しばらくすると指の動きが止まり、北嶋は目を開いて言った。


「模擬ミーティングや模擬面談のコンテストを定期的にやるというのはどうですか?」

「なるほど。発掘、見本、認定、全てに利用できそうですね」

「実現性は?」

「正直、自分が提案しても『面白いね』で終わるでしょう。でも、コンサルタントの方が言えば無下に出来ないかも」

「任せてください!そういう役割ですから。これ、もう少し詰めたいんですけど時間いいですか?」

 北嶋は時計を見る。

「喜んで。なら自分も」

 と世良も自身のノートPCを取り出す。

 そして言った。


「スイッチ入れたいので、コーヒーとアイス頼んでいいですか」

 北嶋は答えた。

「二つで!」


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