ミーティングと1on1の条件 誤解とバランス
(さて、どんなキャラクターで入ろうか?)
北嶋との面談に向かう道中、世良は思案した。
「先程は失礼しました」
というのも違うだろう。あの内容で謝るのは、逆に失礼に当たりかねない。真っ当な議論をぶつけ合っただけという体裁の方が、彼女のプライドを傷つけないはずだ。
かと言って「先程はありがとうございます」というのも白々しい。
ありがたくなんて全く思ってないことは、一目瞭然だからだ。
こうなるなら、会議が終ってから一言二言でも話しておけばよかった。
等と考えている内に、指定の居酒屋についてしまった。
入って待ち合わせであることを告げると、個室に案内される。
4人がけのテーブル席だが、男性4人はキツいだろうというぐらいの広さ。2人ならばゆったり使える。
そこに北嶋は1人でウーロン茶らしきものを飲んでいた。
「どうも、お疲れ様です。暑いっすね」
散々迷ったものの、世良は結局どうでもいい挨拶を交わす。
「いえ、こちらこそ急にすみません」
会議室では見せなかった笑顔で北嶋が迎える。
「何事かと思いましたよね?」
「ええ。でも、そういう扱いよく受けますから」
「頼られてるんですね。さすが裏ボス」
「なんすか?それ?」
「会議の帰り際、店長達にそう呼ばれてましたよ。ご存知ない?」
「初耳です。。」
本当に初耳だった。
「無自覚なんですね。益々頼もしい」
予想に反して北嶋は上機嫌だ。まだ酒は飲んでいないというが、それがホントかな?と思うぐらい先程と様子が違う。
「少し飲みませんか?飲みにケーションは否定派?」
北嶋はテーブルのタブレットをドリンクメニューにして差し出す。
「そんなことはないですが、自分、酒が入ると計算出来なくなります。数字の話します?」
「いえ、全然!そう言えば今日の趣旨、話して無かったですね。壁打ちに付き合って欲しいんです。意見交換したいだけ。だから少しぐらい回った方が、遠慮無く話せるでしょ」
「なるほど。であれば」
と、世良はレモンサワーを注文し、北嶋の「それ2つで」というオーダーも受けた。
ついでに軽くツマム物もいくつか頼む。
「ホントにね。おっしゃる通りなんですよ」
ドリンクが来て、軽く乾杯すると同時に北嶋が口火を切る。
彼女の経験でも、コンサルタントとして入り、業務改善のプロジェクトチームを組んでも手応えが無いことが多々あると。
「確かに私たちが現場を知らないのは認めます。ただ、見せても貰えないんですよね。。。視察に行くと、明らかに見せても良い現場と、インタビューしても大丈夫な優等生スタッフを選んでアテンドされますから」
バラバラとツマミが運ばれてくる。
取り分け等は気遣い無しでと先に取り決めをしていたので、それぞれが適当に取りつつ、北嶋は話しを続けた。
「そうしてミーティングをしても、優等生発言だらけの無難な改善策が出来上がる。現実的かどうかと問うと『後は現場で何とかしますから大丈夫です』って。これって、もう風化、形骸化させる気満々ですよね。納得してないなら文句を言って・・・せめて、相談して欲しいんです。一緒に考えたいのに、みんな言うんです『ありがとうございました。おかげでヒントを頂けました』って。全く思ってないくせに!」
世良が軽く吹き出した。
それをチラリと見て北澤が言う。
「ホント、今日の世良さんみたいなこと言う人っていないんですよ。だから、こちらにもリアルなノウハウが溜まらない。これも構造的欠陥ですよね・・・」
「そういうことか。はははははっ!」
世良が声に出して笑った。
北嶋はキョトンと世良を見る。
「いや、すみません。北嶋さんって思ってたよりこっち側なんですね」
「そうですか?思いはありますが、そちら側に行くには、なかなか壁が超えられないですよ」
「ああ、現場とかコンサルとかの意味じゃないです。考え方の方向性が共感できるという意味で『こっち側』です」
「なるほど。それなら同意です。だからお話がしたかったんです」
北嶋はレモンサワーを空け、追加を考えてる。
同じくグラスを空けた世良は、ウィスキーの注文を入れた。
「ロックですか・・・強いんですか?」
と北嶋。
「いえ、逆です。私は軽いお酒って量を飲んじゃって逆に回るんで、こういうのをチビチビ舐めてた方が翌日に来ないんですよ。一杯で長持ちするからコスパもいいでしょ」
「なるほど。じゃあ私も。ここでデザート頼むのは邪道ですか?」
「良いと思います。自分もバーボン飲むとチョコかアイス食べたくなります」
「じゃあ、二つ頼んじゃいます」
「是非」
北嶋は手際よくタブレットを操作する。
「しかし私もコンサルタントのことを少し誤解してたかもしれません。何事もバランスですね。なんか、ちょうど、先日トレーナーとして指導したお子さんを思い出しました」
一通り注文が終わると、空いたグラスや皿をテーブルの脇によけながら世良が言った。
北嶋は世良が言わんとすることの意図が読めず、一瞬首を傾げつつも聞く姿勢を取る。
「元々走るのが苦手だったそうです。それが走り方教室に何度か通ったらコツを掴んで、親御さんから見ても見違えるほど速くなったと」
「へぇ、そんなに効果があるんですか。でも、その走り方教室ってのは世良さんが指導したわけじゃないの?」
「はい。別の教室です。速くなったと思って喜んでいたら、ある日お子さんが言い出したそうです。運動会が憂鬱で出たくないと。それも徒競走が嫌だと。それが親御さんからの私への相談でした」
「面白い。ミステリーみたいですね」
北嶋が前のめりで興味を示した。




