ミーティングと1on1の条件 構造的欠陥
「意味ない・・・ですか?基本的なことだと思いますが」
北嶋は世良の真意を測りかねて行った。
「基本的ですけどね。だからそういうの、今時はどこもやってるけど、どこも上手くいってないでしょ」
「そんなことは無いと思いますが」
「じゃあ、ウチと同じ業態で上手く行っているチェーンの事例を教えてください。不勉強ながら私は見たことないので、教えていただければ参考にさせていただきます」
世良はあくまで挑発的だ。
このスイッチが入った様子を見て青田は冷や冷やする。
「分かりました。資料を集めておきます」
憮然とした表情を隠すように北嶋が答えた。
「ありがとうございます」
世良は明らかな満面の作り笑顔で一礼し、北嶋との話を区切る。
「ちょっと話していいですか?」
続けざまに世良は高田と水野に了承を得て、店長に向けて話し始めた。
そういう体だが、実際は北嶋に向けて話しているのは言うまでもない。
「今話した通り、私の経験上ミーティングや面談に『こうすれば良い』はありません。みなさんが必要だと持ったものをやればいいと思っています。ただ、逆に『これは良くない』というのはあります。そこを少し私の経験を共有させていただきたいと思います」
「面白いな。やれやれ」
高田が煽る。
「はい。まず、ビジネス書やセミナーに影響を受けた上長がやれというミーティングや面談は、だいたい失敗します」
「いきなりブッこむな」
と高田。
高田が笑っているので店長達も笑う。
「すみません。ついでにもう一つブッこみますが、なぜなら世に出ている成功事例には嘘が多いからです」
そこで世良は一旦言葉を切って見渡す。
水野が頷いているので、世良はそのまま続けた。
「私、前職はIT系でした。あの業界は様々マネジメント技法が語られてますが、表裏が激しい業界です。私も様々実態とは別の外向け資料作りました。ありもしない会議や面談をやった体にする議事録や報告書を書いたり、全て終わった後で『これで見える化しました』という進捗表を書いたり」
「それ、何の意味があるんですか?」
所沢が質問する。
「発表する為だよ。『ウチはこういう管理を行って万全の品質を保ってます』ってアピールしたり、新役員が『こういう改革をして業績上げました』ってアピールしたりね。実際は業績は現場が必死にやって上げてました」
「サービス残業とか?」
「ノルマの追い込み?」
「自腹切る?」
「ここだけ質問するなよ・・・もう過去で他社だけど、まだ時効じゃないから、それは言えない。みんなも叩けばホコリぐらい出るだろ。。。」
ここで笑いが起きる。
ショップの店長をやったことある人間であれば、大なり小なり経験がある部分だからだ。
「えー、話を戻します!なんでしたっけ?そう失敗。繰り返しますが、ビジネス書の通りにミーティングや1on1やっても大抵失敗します。何故なら、これらには構造的な欠陥があるから」
世良は『構造的欠陥』を強調して話した。
「構造的な欠陥とは?」
北嶋が食いついた。
「現実には出来る人がいないんです。ビジネス書は相当優秀な人前提で書かれてますからね。理科で言う理想気体とか、『ただし摩擦は0とする』みたいなもんです」
世良は即答する。
「例えば・・・」
と世良は参加メンバーを見渡し、空気を読みながら例を考える。本音ではコンサルに対する文句を言いたいところだが、あまり北嶋を追い詰めても良いことは無い。
「私は、社長、高田専務、水野常務と個人面談、要は1on1をすることはあるんですが、それぞれ全く別物です」
「何だよ。変な告げ口するなよ」
と、高田。
「多分大丈夫です!えー、高田専務と面談する時は、正直雑談になることが多いです。キチッとした目的に基づいて話すことはまずありません」
「おい!でも・・・まぁそうだな」
「ただ、一番本心を言うのは高田専務に対してです。アイデアが浮かぶのも高田専務との会話ですね。また愚痴も言います。その中には会社批判的な内容も有ります。これは高田さんに対しては何言っても良いと言う信用があるからです」
店長達が頷く。
「水野専務と話す時はむしろドライです。数字の話を主にする。そしてウチではない他社事例や、経営的な一般常識を聞くことが多いです。だから私にとって『経営者の頭で見たら、自分はどこが足りない』というのを確認や相談する為の時間ですね」
「なるほど、そう考えてたんですね。確かに私にはグチや会社批判は言いませんね」
と水野。
「最後に社長ですけど、正直、社長から何かを得ようとは思っていません。3人の中では一番決定権を持っているので、やりたいこと、やるべきことを提案します。社長に相談することはまずないです。何故なら社長はウチの機微を分かっていないから。別にこれは社長が悪いんじゃないですよ。来て数か月の人に理解できるほど、会社とは単純じゃないからです」
「いいんじゃない。社長もそれは分かってるぞ。むしろお前はそういう役割を期待されてる」
と高田がフォローを入れる。そして続けた。
「要は、会社役員レベルでも、一人で世良の面談を全方位で賄える人はいないってことだな。自分らも出来てないくせに、それを店長に求めるなと」
「口悪いっすね・・・でも、そういうことです。今のは面談の例ですが、一対多のミーティングは更に様々なスキルが必要になります」
店長達が大きく頷く。
「もちろん全てを負わせる必要はありません。それはミーティングや1on1の役割と範囲を明確にすればいいのでは?」
と北嶋。
「どういう範囲がいいのでしょう?先のロープレレベルまで含めたら店長の守備範囲は膨大です。そこが一番知りたいのに、本を読んでも、社外セミナー出ても『具体的な内容は、現場のみなさんが考える』って結論なんですよね。だから是非、同業他社の事例があれば知りたいです」
世良の回答に対し、北嶋は無言。
それを見て更に世良は続ける。
「少なくとも、先の木下店長の店の数値を見て、接客スキルに原因があることをイメージ出来ない人間が、現場のミーティングに口出しても売上なんて上がらないですよ。それが分からない人間がただ『しっかり分析して、対策を考えて、分かりやすくまとめて報告しろ』とだけ言うのが、私が前職で散々見てきた『管理』です。それが大っ嫌いだったから、弊社では私はこの場でロープレまで実演します」
と世良。
「世良さんのロープレ好きってそれなんだ」という所沢の呟きに青田が強く頷いた。
「もちろんミーティングや面談自体は重要です。でもとても形骸化、陳腐化しやすい業務だということを忘れてはいけませんし、そして現実に上手く出来る人なんてほとんどいないことを前提にするべきです」
「お前にミーティングが上手い人間なんていないって言われたら、ぐうの音も出ないな」
高田の言葉に軽く笑いが起きる。
貼り付けていた空気が少し緩和するのをみて、世良は自分の意見を締めにかかった。
「自分は上手く出来ないけど下には他所からの理屈で『こうあるべき』と適当に教える負の連鎖が続き、みんな分かったふりをしている・・・これがリアルに現場で起きている『管理』です。だから安易に『こうあるべき』を作ってしまうことに意味が無いというのが先の私の意見です」
皆が北嶋に注目する。
北嶋は世良を見て、高田、水野を見て、店長達を見る。
そして、一息ついた後で笑顔で言った。
「参りました。世良室長が求めるレベルの情報は探しても出てこないでしょうね」
意外な降参に、店長達はリアクションに困り目を逸らす。
青田は小さく拳を握っていた。




