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ミーティングと1on1の条件 役割と仕掛け

 世良はロの字型に並べられたテーブルを少しずらして中に入った。

 かつて世良の部下だった佐々木も、こういう無茶ぶりは慣れたもので、すぐにテーブルに囲まれた中に入る。そして、腕を組んで少し首を傾げるような仕草をする。


「シューズお探しですか?」

 と世良。既にロールプレイングは始まっている。

「ええ・・・」

 と佐々木。まだ警戒している顧客を演じている。

「ランニング用ですか?それとも普段履きとか?ウォーキング用とか?」

 それを見て青田は「なるほど」と小さく呟き、すかさずメモを取る。

 『ランニングシューズコーナーでも、あえてランニング用途に限定しない』と。


「ランニングです」

 佐々木は答えた。

「拘りってあります?厚底とか薄底とかメーカーとか」

「いや、普通のでいいんですよ。最近のはよく分からなくてね・・」 

 それを見て所沢が「分かるな~あるあるだね」と青田に小声で声をかける。

 

「そうですよね・・・そうしたら、走る時は踵から着地します?それとも爪先かフラットかでいうと?」

「私は踵ですね。でも本当は良くないんでしょ?」

「そんなことないですよ。私ランニングセミナーもやってるんですが、普通に踵着地も教えてますよ」

「そうなの?!」

「ええ。爪先着地はそれ用のアキレス腱を作ってからじゃないと、距離が踏めないので」

 ここでも青田と所沢は二度三度頷く。

 『相手がランナーと分かったら、ランニング用語をあえて使って踏み込む』等メモしている。


「ですよね!やってみたんだけど、なんか、かえって足首痛くなってやめたんですよ」

「いや、そういう方、多いですよ。なので・・・」

 世良は少し商品を見繕う仕草を演じる。


「そう言う方は、無理に新商品から選ぶより、こういう型落ちセール狙うのが賢いです。いわゆる昔ながらのシューズ!っていうのがありますからね。例えば、この辺ですかね」

「うん。今履いてるのはこれに近いな」

 佐々木は一つを手に取るフリをする。

「サイズ出しましょうか?」

 と世良。

「はい。26.5あります?」

「多分あります。持ってきますね!・・・と、こんな感じです」

 そこでロープレは終わり、拍手が起こった。


「どうだ?自店と違うか?」

 と高田が木下に感想を振る。

「はい・・・お恥ずかしながら、こんなに親身じゃないです。そしてランニングの知識もカタログベースの話中心なので、こんなに生きた話しできる人は少ないです」

「少ないってことは、少しはいるってこと?」

「はい」

「じゃあ、そいつ中心にプロジェクト組んで、勉強会でもしたらどうだ?なんなら世良と佐々木を店舗に派遣しようか?」

「是非」

 そんな話が進み、ひと段落した所で青田が手を上げた。


「質問良いですか?」

「どうぞ」

 と高田。

「最初の声がけで定番なのは『よろしければサイズ出しますよ』だと思うんですが、世良さんはそれが最後でしたよね。そこにはどんな意図があるんでしょう?」


「なるほどね。良い着眼点だな。別にこれが正解ってワケじゃないんだけど・・・」

 と世良は考えをまとめながら話した。

「正直、自分の好みの問題だね。なんか『サイズ出しましょうか』って、もう相手が買う前提でしょ。その前の相談・・・というか雑談を気軽にしたいから、あんな話し方しているのかも」

「ああ、だから逆に『サイズ出しましょうか』がクロージングトークになってるんですね」

 と所沢。

「そうだね。そこはあんまり意識してなかったな・・・でもそう。サイズ出した人って9割がた買わない?だから『サイズ出しましょうか』で乗って来る人は、もう買うと決めてる人なんじゃないかな?やらしい話、声かけるなら、買おうかどうか迷ってる人の背中押した方が、売上は上がるでしょ」

「分かります!でも、やらしくないと思います!今の提案ならWin-Winなので」

「おう・・・、サクラみたいな意見ありがとう」

 青田と所沢の熱意に世良が苦笑いして答える。


「なんか発言、世良一派ばっかりだな。他に質問とかある者いるか?」

 世良の意図を察し、高田が周りに振るが、そこで会議室は沈黙になった。


「一ついいですか?」

 挙手をしたのは北嶋だった。

「どうぞ」

 と世良。


「今の世良室長のアドバイスや質疑、大変すばらしいと思います。私も様々な業態をコンサルティングしてきましたが、こんな現実的なオペレーションの話までする店長会議は見たことありません。そこで一点質問なですが」

 北嶋は一旦持ち上げるが、目は笑っていない。

 その質問の方が本題なのだろう。


「本来、こういうオペレーション指導と言うのは、誰の役割なんでしょう?また、指導やその後追いをする仕掛はどうなっているのでしょうか?」

 会議室は沈黙に包まれている。


「仕掛けと言いいますと?」

 世良は彼女が言わんとしていることは分かっているが、あえてすっとぼけて聞いた。

 目くばせ等は無いのだが、なんとなく「お前が何か言え」というプレッシャーを方々から感じたので、とりあえず口を開いた形だ。


「定例の店舗MTGとか、上長と部下の1on1面談とか、それらの内容を管理するシートや、指示・報告書なんかの流れです」

 北嶋は、何を常識なことを?と言わんばかりの口調。


「ああ、それは・・・」

 世良が苦笑いをする。

 それを見て青田は胸の鼓動が早くなる。


(ちょっと荒れるかも・・・)

 そう青田が思うとほぼ同時に世良が口を開いた。


「何も無いですね、そういうのは。過去に色々やったことあるけど、意味ないので止めました」


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