おしまい
「なんだかんだで収まったわね」
「元はといえば、ヴィルヘルム、お前が余計なことをしなければよかったのだろう」
「な~に、アル坊のくせにわたしに文句があるわけ? わたしは、突然倒れるようにして寝た弟子を心配して原因を探っただけよ」
明日香とリュートが部屋で仲良く過ごす中、廊下では数人が集まって何やらコソコソと話をしている。
「あのまま寝かせていた方がよかったのかもしれませんね。リュート様と、話が噛み合わない様子は夢を現実と感じていた証拠です」
「あら、ジュハだって楽しんでいたじゃない」
「お、俺はあんなこと……」
「リュートを呼んじゃってつまらなかった」
「本当よね~。あれは、アスカの頭にあった乙女ゲームっていう素敵なものをわたしが構築したお遊びなのに。洒落がわからないわ」
ヴィルヘルムが肩を竦めて見せるが、ジュハの怒りは収まらない。
「何がお遊びですか! 俺たちの魔力を奪って作った分身に色々させて」
「あれは、確かに分身だけどわたしが何かさせたわけじゃないわ。個々の深層心理が作用しての自主的動きよ」
「違う! 俺があんな貧相な女をどうにかしようという心理などありえない」
間髪入れず、今度はアルベールが否定する。
「僕はもうちょっと大きくなっていたかったな」
「話がわかるのはロウだけね。でも、もうおしまい。レンちゃんが登場しちゃったし、アスカは目覚めたからね。それにしても、乙女ゲームって興味深いわ」
ヴィルヘルムは偶然知った明日香の世界のゲームに興味津々だ。
「まぁ、わたし好みの身体の子は少ないけど……」
「ヴィルヘルム、アスカは夢だと思っているんだ余計なことを言うなよ」
「わかってるわよ。レンちゃんにも殺されたくないし。わかった? これは約束よ、特にジュハ」
指名されたジュハは苦い顔をする。
「主人に隠し事……でも、そうしないと俺の愚行が……いや、違う! あれは分身が――」
「細かいことはいいじゃない。黙っていた方がみんな幸せなの」
「みんな幸せがいい!」
無邪気に叫ぶロウを見て、ジュハも渋々納得する。
「じゃあ、これは、アスカが見た夏の夜の夢ってことよ」
廊下に集まった面々は頷きあい、それぞれ散っていった。
「本当に変な夢だったんだ」
「疲れていたのだろう? 夏の夜は寝苦しい、うなされたんだろう」
「夏の夜の夢……私の世界に妖精が悪戯する話があったなぁ」
「ははっ、じゃあうなされたのは妖精の仕業か?」
レンリュートが明日香を後ろから抱え、二人は密着して話を続けている。
妖精に似ても似つかない、今回の事件の犯人たちを明日香は知ることはなかった。




