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第六章 廊下に落ちていた異文化と、持ち主の要件定義

「で、小説が分かる奴って、この学校のどこに隠れてるんだよ。いつまで畳の上で腕組んでりゃいいんだ?」



「焦る必要はありませんよ、建築学科さん。需要があるところには、必ず供給のヒントが転がっているものです。ほら、これを見てください」



「おい商業学科、なんだそのやたらカラフルで、男の骨格が二つ密着している表紙の冊子は。建築のパース図にしてはパースが狂ってるようだが」



「先ほど私が廊下で拾ったんですよ。見てください、このテキストの構造を」



「どれどれ……。……なるほど、文字の塊が明確な物語としての形式を保っているな。これは哲学論文でもソースコードでもない、純然たる『小説』のパッケージだ」



「タイトルは『放課後の実験室、狂おしい遺伝子の融合』。ジャンルはデータ分析の結果、いわゆる『BL』と呼ばれる、特定のターゲット層に対して高い利益を誇る文芸コンテンツに分類されます。地の文とセリフの比率、動線計画が完璧です。AIの出力のような無機質さもありません」


「おい、この『先輩の強固な胸筋に背後から荷重を掛けられ、俺の構造計算は一瞬で崩壊した』ってところ、文章の強度、空間のスケール感がハンパねえ! これを書いた奴、絶対に基礎工事のやり方を熟知してやがる!」

「つまり、この本の持ち主、あるいは製作者は、我々が求めている小説の構造と秩序を完璧に理解している人間である可能性が極めて高い。この優秀な人材を部内に引っ張ってこない手はありませんよ」



「しかし、どうやってその持ち主を特定するんだ? 名前は書いてないぞ。この閉鎖空間において、このような特殊な思想パッケージを公に紛失したとなれば、持ち主は社会的承認を恐れて名乗り出ない確率が極めて高い」



「問題ありません。表紙のサークル名から、これが先月開催された同人誌即売会のものだと特定。さらに、この作品の独特な生物学的アプローチに基づく独自の隠語のデータパターンの解析を進めます。四人のマンパワーを市場調査に分散させれば、本日中に特定できます」



「よし、工期は今日の放課後いっぱいだ! 全員、現場へ突撃するぞ! その小説の神様を絶対に見つけ出すんだ!」


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