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第一章 全員未読の文学部ダイアローグ

「じゃあ、右端のあなたから順番に自己紹介していって。名前と学科ね。ほら、そこの気だるそうに座ってる君から」



「俺は、普通科の思川唯おもいかわ ゆいです。宜しく」



「はい、次。その隣の、やたら背筋がピンとしてる君」



「私は、情報学科の網野結あみの ゆいです。宜しくお願いします」



「次は俺だな。建築学科の架橋奏かきょう かなでだ。宜しく」



「最後は私ですね。商業学科の売野累うりの るいです。宜しくお願い致します」



「はい、オッケー。これでちゃんと四人揃ったわね。まずは文学部設立、おめでとう。いやぁ、それにしても全員クラスも学科もバラバラなのに、よく同時に申請書なんて出しに来たわねぇ。……ところでさ、提出された書類を見たんだけど、四人とも小説家になりたいからって書いてあるじゃない? 先生、自慢じゃないけど理系というか生物学担当だから、あんまり文学とか分からなくてさ。参考までに聞きたいんだけど、皆さんは普段、どんな小説が好きなの? 純文学派? それともライトノベル派?」



「読んだことない」



「え?」



「私もです。一冊も読んだことがありません」



「俺もだ。生まれてこの方、小説なんて文字の塊を読んだ記憶は一秒もねえな」



「え? 私もですが。小説を嗜むような時間的リソースは持ち合わせておりません」



「…………は? ちょっと待って。今、四人全員が同じこと言った? 聞き間違いじゃないわよね? あなたたち、小説を一度も読んだことがないのに、なんで小説家になりたいなんて書類に書いたのよ……? 怖いんだけど! 理由を一人ずつ説明しなさい!」



「大学まで進学しないと、哲学論文の発表の場が無いからです。この高校という狭い閉鎖空間において、小説というパッケージを踏襲すれば、在学中であっても私の思想を社会にドメイン展開できる、つまり実質的な論文発表が可能であると考えました」



「え、あ、はい……。論文発表のための偽装工作ってこと? ……じゃあ、情報学科の網野さんは?」



「私は、AIを駆使して新しい文化の可能性を追求したいと考え、文学を選びました。最新の自然言語処理モデルを用いたテキスト生成における、コンテンツ制作の自動化と最適化、およびそのマネタイズの検証が私の研究テーマです。私が書くのではなく、私が組んだシステムに出力させます」



「システムの話になっちゃった! プログラミング部に行きなさいよ! ……えっと、建築学科の架橋君は? 君はなんで図面じゃなくて原稿用紙に向かおうとしてるわけ?」



「建築ってのはな、法規・予算・機能、そして物語を内包とした最高の芸術なんだよ。だが、既存の二次元の図面や三次元の模型だけじゃ、その空間が持つ物語性を百パーセント完全に表現しきれねえんだ。空間の強度を補強し、言語化という名の基礎工事を行うために、俺は文学というツールを選んだんだよ」



「だから図面を引きなさいって言ってるでしょ! 基礎工事は現場でやって! ――はぁ、もう嫌だ。最後の売野君、君のその完璧な営業スマイルの裏には、一体どんな恐ろしい動機が隠れてるの?」



「恐ろしいだなんて心外です、数土先生。私は至って真面目ですよ。小説家をメディアミックス、すなわちアニメ化やゲーム化を前提とした初期のビジネスモデルとして捉え、ローコストでIP(知的財産)の開発を行えば、将来的に非常に高いROI(投資対効果)が期待できるからです。私にとって文学とは、極めて打率の高い投資対象に過ぎません」



「ビジネスの話になっちゃったじゃない! コンテンツビジネスの立ち上げじゃないのよ、ここはただの部活! 文学部!」



「ですが先生、我々は全員、小説家になるというゴールに向けて、それぞれの専門アプローチを開始しようとしているだけですが?」



「そうですよ。アプローチの手法が異なるだけで、目的は一致しています」



「手法っていうか、そもそも全員スタートラインの手前で盛大にバグってんだよ! 小説を読んだこともない四人が集まって、一体何を書くっていうのよ! あー、もう無理! 先生にはちょっと、いや、生物の遺伝子組み換えより遥かに難しい話だから、これ以上はついていけないわ!」



「あ、先生、待ってください。活動内容の承認のハンコは――」



「あとは四人で勝手に活動内容書と活動計画書を組み立てて、明日の朝までに職員室の先生の机に提出しといて! じゃあ、あとは若い四人で仲良く頑張ってね! 先生は帰るから!」



「……行っちゃいましたね、数土先生。ずいぶんと工程管理の杜撰な顧問のようだ」




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