海の魔物が出現する絶叫型魔動巨大ウォータースライダー? 5
前を向くと、パイ王女が呪いを消去した剣を腰のホルダーに付け右手に長槍を持って、アザレアちゃんとブルメリアちゃんの元へ駆け出した。
パイ王女の行動に、リカステさんが眼を見開いて立ち上がる。
「おい、ミムラスさんよー。いつでも、戦える準備をしておけ」
「リカステ殿、どうされました?」
「俺がこの施設に向かう時に、カトレアが言ってたんだ。俺達も戦いに参加しないと、第六関門からやべえってな」
あらら……カトレア先生、リカステさんにバラしちゃったんだ。
あの時は不測の事態で、魔物が予定していた魔物じゃ無くて、数も多くなりすぎたんだけれどね。
でもお陰で、この第二チームでもあれ位なら倒せると思ったんだよね。
リカステさんは既に、龍紳士システムの上級騎士スーツを纏っているわけだし。
それに、今回は俺と同じ魔動巨大ウォータースライダーの管理権限を持つユグドラシルがいるので魔物を操作する事が出来る。
だから、第一チームのように俺が気を遣わなくても大丈夫なのだ。
ただ今回は、この魔動巨大ウォータースライダー側では無く、パイ王女の武器に問題が有って予想よりも大幅に遅れて、出発してから既に四十五分経過したんだよね。
アザレアちゃんが、早めに身体強化を使用しなくて正解だったよ。
だって、第六関門からはリカステさんとミムラスさんが楽しめるよう、危険種のランクを調節したからね。
「……おいおい、待てよ。あれって、燐火水ワームじゃねーのか?」
リカステさん、遠くに触手がピョコンと海路上を出てきているだけなのに、よく分かりましたね。
リカステさんて、博学だけあって海の魔物も知り尽くしているのかな?
本当は、かなり深い熱水が渦巻く海底にいる魔物なんだけれどね。
あっ、クレマチスから連絡が来た。
「リカステさん、ちょっと失礼しますね」
俺はリカステさんに伝えて、一端別荘にテレポートした。
「おお」
そして、直ぐに有る物をアイテムボックスに入れて戻って来た。
「帰ってきました」
「リリー殿、お帰りなさい。リカステ殿、燐火水ワームとは、そんなに危険なのですか?」
「リリーちゃん、お帰り。ミムラスさん、知らねえのかよ?」
二人の話の内容からして、あまり聞き逃しはなさそうだ。
「済みません。海の魔物は、専門外でして……」
「奴は、深海近くのダンジョン位しか通常姿を現さねえ。
だが、稀に海辺の街を襲うやべーA級危険種だ。
A級危険種って言うのは納得いかねえが、滅多に出てこねえからかもしれん。
それに奴は、水で消せねえ燐火をばら撒いてくる。
こちらの炎による攻撃は全く効かねえし、中級程度の魔法も一切効かねえ。
それに、上級魔法も効果が薄い。
上級魔法で効果が有るのは、雷魔法だけだ。
武器による攻撃も、雷属性を纏わせねえと効果が薄い厄介な魔物なんだ。
ミムラスさん、武器に雷を纏えるか?」
俺はリカステさんとミムラスさんが話している最中に、ある物を作った。
「いえ、無理です。王女殿下も、雷は纏えません」
「そうか……なら、俺とリリーちゃんだけか」
因みに、リカステさんの龍紳士ビッグアックスは、カトレア先生の武器と違って、全属性を纏えるようになっている。
勿論、龍紳士アーマーに有る龍紳士トマホークもだ。
リカステさんが、なぜか俺の方を向いて笑顔を向けてきた。
恐っ!
でも、何だか俺の力を頼りにされそうなので基本的な事を伝える事にした。
昼食の時に伝えたのに、リカステさん忘れちゃったのかな?
「リカステさん、私とハイビスカスは基本的に見学です。なので、リカステさんだけですよ」
「リリーちゃん、ちょい待てくれ。俺は、聞いてないぞ! ……それに、何で小せえ海嵐の海豹を抱っこしているんだ?」
俺はリカステさんに、ちゃんと伝えたよ。
リカステさんは昼食の時に、パイ王女が隣に来ていたから、そちらに気を取られて聞いてなかっただけだよね?
肩が触れる度に、パイ王女も反応していたしね。
だけどこの子の事は、安全って伝えておかないとね。
この子は人を襲わないように設定してあるので、問題は無いのだ。
「リカステさん、この子は倒したら駄目ですよ。
海の魔物を検索中に、可愛いこの子を見つけたので、私の癒やしの為に第六関門から私の近くに現れるよう設定していたのです。
決して、職権濫用では有りませんからね」
因みに、ハイビスカスはと言うと俺の隣で海禍のメデューサのデザートを食べている。
実は呪いの説明をしている間に、同時にテレパシーでクレマチスに連絡を取り、ハイビスカスのママに本物の海禍のメデューサを海に行って獲ってきてもらっていたのだ。
だって、ハイビスカスが「コリコリ、あまあま、だいちゅき!」と言って機嫌良く歌っていたのに「リリママ、でないよ?」と言って再び指を吸い出した。
なので、先ほどハイビスカスのママから捕れましたと連絡が有ったので、「リカステさん、ちょっと失礼しますね」と言って瞬時にテレポートし、海禍のメデューサをアイテムボックスに入れ、「帰ってきました」と伝え再び浮き輪に戻って来て早速料理をしハイビスカスにデザートを出したのだ。
そしてギリギリ海嵐の海豹が出現する場所に間に合い、ハイビスカスにデザートを与え、胸を吸われるかもしれないと言う自身の危険を回避し、只今小さな海嵐の海豹を抱っこしてモフモフを満喫中だったと言うわけだ。
別にミルクを与えても良かったのだが、ハイビスカスが凄く楽しそうに歌っていたからね。
因みに、海嵐の海豹は本来海の暴れん坊で、嵐を呼び幾つもの船を沈めたA級危険種である。
でも、この子は人には危害を加えない俺の癒やしなのだ。
「まあ、いいけどよー。俺一人で、この数を倒すんか? って言ってる、場合じゃねえな……」
そうですよ。
例えA級危険種が四体いても、その上級騎士スーツを纏っているんですからリカステさん一人でも問題は無いはずです。
それにリカステさん、こちらを見るより触手に捕まりそうになっている、パイ王女達を助けてください。
「イヤー、水着がベタベタ。粘液で、ヌルヌルしているわ。アザレアは、もう怒りました! 炎の槍で、燃え尽きろ!」
ヴォォォ!
「ファイアー ランス!」
ギュルギュルゴォォォォォォ!
バグッ! ゲップ!
アザレアちゃんが放った炎の槍を燐火水ワームが大きく口を開けて食べた。
「えっー! ファイアー ランスが、効かないよ」
ヒュン! ニュルニュル!
「ヒャン!」
そして同時に触手が襲いかかってきたが、アザレアちゃんはその触手をどうにか躱した。
「ブルメリアちゃん、そっちにも触手が」
しかし、躱した先で目にした触手がブルメリアちゃんの方に向かっていたのだ。
ニュルニュル!
ブォォォ! ズルッ ズルッ ズルッ!
「火属性を纏わせた、戦斧が弾かれる。何ですか? この、ヌルヌルは?」
ブルメリアちゃんは炎を纏わせた戦斧で触手を攻撃するが、ヌルヌルした粘液で力を逸らされ弾かれていた。
ヒュン! ニュルニュル!
「えっ? ひゃっ、危なかった。アザレアちゃん、ありがとう」
その時、アザレアちゃんの声に反応し姿勢を低くして触手の攻撃を回避出来た。
「キャー! パイ王女、後ろにも触手が」
しかし、回避して眼にした先にパイ王女の背後から近づく触手が見えたのだ。
ニュルニュル!
「喰らえ! 槍無双!」
シュ――――――――!
「くっ! 僕の槍無双が……。それにしても、可愛い水着がベトベトだよ」
パイ王女は、槍で素早く突き刺そうと技を繰り出すも、触手には刺さらず粘液で回避されていた。
ヒュン! ニュルニュル!
そして技の終わりの隙を見せたその時、後ろから迫り来る触手をブルメリアちゃんの声でギリギリ回避に成功したが、思わず可愛い声を漏らしていまう。
「キャッ……ブルメリアちゃん、知らせてくれてありがとう。助かったよ。だけど、僕らの攻撃が効かない……」
一瞬手で口を押さえて恥じらい、その隙を触手に狙われた。
「おらあ!」
ザシュ!
その瞬間、リカステさんが疾風のように現れパイ王女を捕縛しようとした触手を切り裂いた。
リカステさん、やるね。
武器に耐性があるのに、パイ王女を襲ってきた燐火水ワームを、豪腕だけでいとも簡単に切り裂くとは。
武器の恩恵は有るとはいえ、鉄の大戦斧だけで今まで魔物を倒してきただけは有るよ。
「よそ見してっと、掴まんぞ」
触手を切り裂いたリカステさんは、パイ王女に優しく声をかけた。
「はい……」
返事をするも、リカステさんを見つめるパイ王女の双眸は少し潤んでいた。
そんなパイ王女を見つめたリカステさんは、俺の方を振り向いた。
「リリーちゃん、ちぃーとばかし大技やってみるが障壁をお願いできるか?」
「ひゃ、ひゃい!」
リカステさんの顔に、思わずチビリそうになったがギリギリ耐えた。
それほど、恐ろしい顔だったのだ。
それに、シルちゃんが味方に衝撃が行かないよう計算してくれているよ?
まあでも、パイ王女達のことが心配になったのだろうけれどね。
「良いですよ。存分に、やり合ってください」
俺は少し震えながら、引きつった顔でそう答えた。
アザレアちゃんとブルメリアちゃんがパイ王女と共にこちらにやって来ると、俺は障壁を張った。
「雷龍モード オーライ」
すると、龍紳士ベルトから音声が流れた。
カトレア先生も可能だが、リカステさんの場合はドラシルシステムと心情で繋がるようにしている。
なので、シルちゃんがリカステさんの心情を受け取って答えたのだろう。
その瞬間、リカステさんが天を仰ぎ見た。
「うおぉぉぉぉぉ! 雷よ! 俺の前に平伏し、轟け!」
リカステさんの頭上に、転送された雷が無数に降り注ぐ。
ピガァガァガァガァガァ!
キィィィィィィン!
その雷をリカステさんが纏うと、マントに雷龍が描かれた。
後ろから見ると、まるで雷の神が宿ったかの如く神々しい姿である。
リカステさんは、龍紳士ビッグアックスに自身の纏う雷の一部を纏わせた。
「龍紳士 サンダー スパーク!」
ズシュッ キィーン バチバチバチバチ!
龍紳士ビッグアックスから放たれた雷の斬撃が、全ての燐火水ワームを切り裂くと、切り裂かれた燐火水ワームの頭上に、転送されてきた雷が止めをさすかのように無数に降り注がれる。
ピガァガァガァガァガァ! ピガァガァガァガァガァ! ピガァガァガァガァガァ!
刹那、燐火水ワームは塵となり光りとなって消え去った。
これこそが炎龍と風龍の鱗を取り込んで、ドラシルシステムが解析して擬似的に創り上げた雷龍のブレスと同等の力だ。
今は上級騎士スーツなので、擬似的に創り上げた雷龍のブレスと同程度だけど、龍紳士アーマーを纏うと、この力も一気に向上するため雷龍のブレスの攻撃力を遥かに越えることになるんだけれどね。
ズドドド ズドドド ズドドド ズドドド ズドドド ズドドド!
「「キャッ!」」
あまりに激しい閃光の後に一瞬遅れて轟音が響き渡り、アザレアちゃんとブルメリアちゃんが思わず可愛い悲鳴をあげた。
「キィッ!」
パイ王女も一瞬悲鳴をあげかけたが、口を押さえて耐えたようだ。
「リカステ殿は、雷の神か? Aランクの私とSランクのリカステ殿には、これ程までの差が有るのか? やはり、私ではパイ王女の教師として力不足か……」
ミムラスさんが驚愕した顔で、そう呟いていた。
成る程、ミムラスさんはAランク冒険者の資格を持っていたんだ。
でもね、Sランク冒険者の全てがこんな力を持っているとは限らないよ。
だから、ミムラスさん。気を、落とさないでくださいね。
……恐っ! リカステさん、急に振り向かないでください。
雷の邪神かと、思いましたよ。もぉー!
でっ? リカステさん? 何で、こちらに戻ってこようとしているのですか?
まだまだ、リカステさんのステージはここからですよ。
最後までお読み頂き、本当に感謝しています。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カトレア「やったー! やっと、サンドイッチが完成したわ」
シルク「ゲプッ! お菓子じゃないから、胸焼けしたわ」
カトレア「料理も終わったことですし、エプロンを外しても良いわよね」
ロベリア「だーめーよー。カトレアちゃーん、リカステが戻って来てー、食べ
終わるまでよー」
葵「リカステさんが帰ってきましたら、先ずは……お帰りなさいませ、
ご主人様ですの!」
ロベリア「エヘヘー。トレーで運んで来たらー、脇を絞ってー小首を傾けてー
可愛く笑うのよー」
葵「そして仕上げは、美味しくなあれー美味しくなあれー、萌え萌えチュッ!
ですの」
カトレア「葵ちゃん? リカステ相手に、それは遠慮したいのだけど……」
ロベリア「だーめーよー、カトレアちゃーん。そうしないとー、エヘヘー」
カトレア「ロベリアちゃん、水着引っ張らないで! 分かったからー」
こうしてカトレアはロベリアと葵の悪戯に、ドップリ嵌まったのであった。




