海の魔物が出現する絶叫型魔動巨大ウォータースライダー? 1
魔動巨大ウォータースライダーのスタート地点にある大きな浮き輪に来ると、ハイビスカスがまだ寝ていた。
どうやら、胸の成長は止まったようだ。
ハイビスカスのホッペを触っていると、アザレアちゃんが声をかけてきた。
「リリーちゃん、この絶叫型魔動ウォータスライダーって時間どれ位かかるのでしょうか?」
時間?
通常1.5kmの場合は全体時間は約十分なのだが、今回は距離を三倍にして浮き輪が進む早さは倍にしている。
なので、何も無ければ約十五分で終了する。
先ほどは予想外の出来事が有ったが、カトレア先生とロベリアさんが龍人形姫の能力を使用したので、ほぼ予定通りの十七分で終了できた。
「スタートしてから、約十五分かな? でも、魔物を倒しながらになるので数分の誤差はあるかも」
「そうなんだ。アザレアね、強化魔法を初めから使うか中盤で使うか迷っていたの」
成る程ね。
第一チーム目の時間から考えると、アザレアちゃんの場合は初めから強化魔法を使用すると時間的にギリギリ最後までもつかどうかが微妙だ。
何故かって? にひっ! ……秘密である。
「ウォータスライダーの距離は4.5km有るし、進むスピードは少し早めの馬車が進む早さの二倍程度だけど魔物が出るから思う存分楽しめるよ」
アザレアちゃんと話していると、ブルメリアちゃんが顔を覗かせた。
「リリーちゃん? ブルメリアは、いざという時に身体強化魔法を使用しようと思いますけど、お勧めはどの辺りですか?」
浮き輪の早さは平均18km程度だから、クレマチスちゃんやハイビスカスちゃんと遊んだアザレアちゃんとブルメリアちゃんは、早さが全く物足りないかもしれない。
だけどこのウォータスライダーは不安定な浮き輪の上で魔物と戦いながら、上りと下りで最高スピードがかなり変わる場所も多いし、体感的には早く感じるかな?
昼食の時に伝えたけれど、お勧めと共に重要な事を話しておこう。
「うーん、そうねー。
暴風と高波の中で大きな浮き輪に乗ってのウォータスライダーだから、冒険者学校の闘技場と違って足場がかなり不安定なので、初めから気をつけて魔物を倒さないといけないかな。
それに魔物を倒さないで進むと、いつまでも追いかけてくるから早く倒す事も必要だよ。
それとアザレアちゃんの場合は時間が長引くことも考えて、強化魔法をかけるなら中盤をすぎてからの方が良いかもね。
ブルメリアちゃんは、最終地点が良いかも?」
そう伝えると、二人とも驚く表情をした。
あれ? 俺、変な事を言ったかな?
すると、アザレアちゃんが瞬きをして顔を寄せて来た。
アザレアちゃん、顔が近いよ。
「リリーちゃん、それってかなり大変ですよね。王子達、よく無事に戻りましたよね。でも、アザレアの本気を見せられそうです」
アザレアちゃんの喜ぶ表情に続き、今度はブルメリアちゃんが顔を寄せて来た。
ブルメリアちゃんも、顔が近いって。
「ブルメリアも、今から楽しみです」
二人とも、根っからの体育会系気質のようだ。
凄く喜んでいるけれど、王子達の事を伝えておかないとね。
「そうそう、王子とエレモフィラ君とバレリアン君は魔物相手に結構苦戦していたよ。可愛い子猫ちゃんの、悪戯のせいなんだけどね。でもお陰で、カトレア先生達は沢山の魔物と戦えたから生き生きしてたよ」
「「うわー! 楽しみー」」
二人の声が、揃った。
Zクラスの男の子達、頑張らないと女の子達と実力差がどんどん離れちゃうよ?
でも、今回の魔物はウンディーネの眷属やシルフの眷属からも収集した海の魔物だ。
なので、もしかするとアザレアちゃんとブルメリアちゃんも苦戦するかもしれない。
それに博識なリカステさんの、知識にない魔物がいる可能性が有る。
まあその分、リカステさんは新武装になったので力押しすれば問題は無いと思うけどね。
Zクラスの女の子と男の子とで、カトレア先生とリカステさんを分けたのは正解だったかもしれない。
性格が、先生達と被ってないからね。
リカステさんは浮き輪で待機しているので問題はないが、パイ王女とミムラスさんがワイバーンの所に戻って何か持ってきたようだ。
ミムラスさんが荷物を持って、俺の所にやって来た。
「リリー殿、お待たせした。武器を厳選していたのだが、どこに積めば良いか?」
「後方に荷物を置く場所が有るので、そちらにどうぞ」
俺は、ミムラスさんを荷物置き場に案内した。
荷物置き場の隣の長椅子に、まだハイビスカスが寝息を立てていた。
可愛いけれど、そろそろ起こさないとね。
「ハイビスカスちゃん、そろそろ起きてね」
「……リリママ、おはよ?」
ハイビスカスが小首を傾けて、まだ眠そうな顔で起きてきた。
お昼は過ぎているので、本当はこんにちはだけど、おはようで良いか。
「ハイビスカスちゃん、おはよう」
あれ? そう言えばハイビスカス、話せているよね。
もしかして、龍人形姫のドラシルシステムとリンクしなくても言葉が話せるようになったのか。
成長したからかな? 胸と、髪だけだが……。
「リリママ、おなかちゅいたよ」
そう言ってハイビスカスは、俺の元に来た。
胸と髪だけだが、急激に成長したせいかもしれないな。
アイテムボックスから食べ物を取り出そうとすると、ハイビスカスは自身の親指を吸いながら俺の胸元に顔を寄せて触ろうとして来た。
「……ハイビスカスちゃん? 食べ物あげるから、そこは触らないでね」
「あい」
食べ物を出したが、ハイビスカスが親指を吸ってまた俺の胸を見つめて来た。
なので、危険を感じて直ぐにアイテムボックスからミルクを出した。
すると、食べ物よりもミルクを飲みはじめた。
昼食は少し食べ物を食べていたのに、まだ中身は赤ちゃんなのかもしれない。
若しくは、ハイビスカスのママと間違われたのか?
いやでも、大きさが全然違うよ?
でも取りあえずは、今度から暫くハイビスカスの食事はミルクにしてあげよう。
だって、また俺の胸を見つめられても困るしね……。
ハイビスカスにミルクを与えていると、皆が浮き輪に乗り込んできた。
「リリーちゃん、準備を終えて皆乗り込んだぞ」
リカステさんが、第二チーム全員が浮き輪に乗り込んだ事を知らせてくれた。
「はい、分かりました。では、出発です」
ウォータスライダーを浮き輪が進み出すと、進み出すにつれて波と暴風が吹き荒れてきた。
「これは、凄い施設だな。我が国に、このような風や波をおこせる施設は無い」
ミムラスさんが、そう呟いた。
アザレアちゃんとブルメリアちゃんと違って、パイ王女やミムラスさんの力量が不明なんだよね。
「そろそろ、第一関門です。今回は陸地ではなく海の魔物が出てきますので、皆注意して下さいね」
「「はい」」
「ふふ」
アザレアちゃんとブルメリアちゃんの顔つきが、変わった。
恐らく、海の魔物と聞いて戦術の構成を変えたのかもしれない。
今まで陸地や空の魔物は、闘技場で数え切れない程倒してきたからね。
だけど、海の魔物は初めてだ。
Zクラスの生徒と違って、パイ王女は槍を持って笑顔を見せていた。
魔物に対して、よほど自身があるのかもしれない。
リカステさんは、ウォータスライダーの先を見つめ腕を組み直していた。
ミムラスさんは、持参した武器を整理していた。
恐らく、パイ王女がいつでも武器を変更出来るようにしていたのだろう。
その様子を見ていると、浮き輪の舳に何かが乗ってきた。
でも、パイ王女やアザレアちゃん達は気づいていない。
ミムラスさんも、武器を整理して何も見ていない。
そんな中、リカステさんが指をさす。
「お前ら、舳を見ろ。魔物の触手だ。直ぐに、武器を構えろ!」
リカステさんの指摘に、アザレアちゃんとブルメリアちゃんが武器を構えた。
パイ王女は、余裕の表情である。
先ずは、アザレアちゃんとブルメリアちゃんの出方を見るようだ。
「僕は、次に来た魔物を一人で相手にするよ。だから、その魔物は君たちに任せるよ」
「「はい」」
アザレアちゃんとブルメリアちゃんはパイ王女に返事をし、武器を構え触手の本体が現れるのを待つ。
出てきたのは、シーアネモネ擬きだった。
シーアネモネ擬は、磯巾着に擬態した海のスライムだ。
スライムと同じようにコアが中に有るのだが、スライムと違って幾つもの触手で攻撃してくる。
そして触手で捕らえた者の動きを封じ、粘液を出して衣服などを溶かすのだ。
でも生憎、俺が創った水着は溶けない。
なので、そこまで恐れる魔物ではないのだ。
ただ、牙や眼が有るので見た目が気持ちが悪い。
俺の世界にいた綺麗な磯巾着とは、似ても似つかないのだ。
「「キャー!」」
アザレアちゃんとブルメリアちゃんは、生理的に無理なようだ。
そういう俺も、気持ちが悪い。
俺が、選んだんだけどね。
だって今回は海の魔物限定にしたし、第一関門に相応しい低レベルの魔物で且つ、海の中以外でも活動可能な魔物は限られるからね。
「うっ!」
パイ王女も、若干引いている。
そんな中、リカステさんだけが平気なようだ。
「お前ら、何をしている! さっさと、シーアネモネ擬きのコアを攻撃せんか! 粘液を飛ばされ、服を溶かされるぞ! 裸に、なりたいんか?」
その言葉を聞き、アザレアちゃんが手を翳し魔法を詠唱短縮する。
「クリムゾン ファイア ボール!」
ゴォー! ジュ!
紅蓮の炎の固まりが、一瞬で一体のシーアネモネ擬をコアごと蒸発させた。
俺の水着だから溶かされることは無いのだけれど、一般的な事をリカステさんは伝えたのだと思う。
流石、リカステさん。
この程度の海の魔物は、知っているんだ。
「ブッ!」
アザレアちゃんの放った魔法を見て、リカステさんが思わず吹き出した。
「アザレアちゃん、少し加減せんか! 低レベルの魔物相手に、強力な魔法を使いすぎだ!」
カトレア先生と違って、男子生徒を教えているリカステさんは堅実な戦い方を教えようとしているようだ。
カトレア先生は、基本的に惜しみなく技を出すからね。
技のレパートリーを言えば、カトレア先生とリカステさんでは三倍以上違う。
カトレア先生が技で対処するのに対して、リカステさんは力で対処するので、元々戦闘姿勢が違うとも言うけれど……。
「ひゃひゃ、ひゃい! リカステ先生、ごめんなさい」
アザレアちゃんは、魔物よりもリカステさんの顔の方が怖いようだ。
ブルメリアちゃんと抱き合って、震えていた。
それとも、さっきカトレア先生に通報した事で、リカステさんに怒られるとでも思っているのかもしれない。
でも安心して、リカステさん女の子には凄く優しいからね。
それに、眼を瞑ると分かるのだけれどリカステさんの声は怒っている声では無い。
寧ろ、指導している声に聞こえる。
つまり、あの顔と言葉使いに恐怖を感じるのだと思う。
そう言えば、さっきシルクから作り置きや食材を使って良いかテレパシーが有ったけれど、何に使うか聞かなかったよ。
まあ、沢山有るから良いけれどね。
ミムラスさんはと言うと、一歩も動じなかった。
感心しているのか? それとも、当然だと思っているのかは不明である。
因みにハイビスカスは、「ありぇ、まぢゅーい」と言って俺の膝を枕にして横を向いた。
そう言えば、火山島は海に囲まれている。
ハイビスカスのママは、海の魔物を捕ってきてハイビスカスに与えていたのだろうか?
でも、海が縄張りならそれは考えられる。
それに、先ほどハイビスカスに俺が与えた食べ物は陸上にいるオークの肉だった。
もしかすると、炎龍達は海鮮料理が好きなのかもしれない。
ハイビスカスが不味いと言った、シーアネモネ擬が第二関門から第三関門まで数を五倍に増やして続くのだけどね。
つまり、第二巻門で五匹。
そして、第三関門で一気に二十五体に増えるのだ。
「次は、僕の番だね。僕も今の魔物は少し遠慮したいが、仕方あるまい」
パイ王女が槍を構えると、浮き輪の舳に触手が一気に乗った。
同時に、シーアネモネ擬が五体姿を現した。
その瞬間、パイ王女が動く。
シュ――――――――!
「槍無双!」
早い。しかも、無駄が無い。技が洗練されている、とでも言うのか?
シルクから聞いた、月の雫小隊の騎士達とは明らかに技の切れが違うようだ。
それに、リカステさんが何も言わずに腕を組んで頷いていた。
つまり、リカステさんも認める無駄の無い動きと言うことか。
ミムラスさんは、その光景を無言で見つめていた。
「よし!」
パイ王女はそう言って、後ろを少し気にしていた。
恐らく、リカステさんの評価が気になったのだろう。
でも、次の第三関門から第五関門までは一気に増えるよ。
最後までお読み頂き、本当に感謝しています。
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葵「クレマチスちゃん、ハイビスカスのママと風龍の指導ご苦労様ですの」
クレマチス「みっちりと、――様の恐ろしさを教えてきました。これで、もう
迂闊な事はしないと思います。今、恐怖で震えているので炎龍と
風龍には、心を癒やすためアロマテラピールームに行かせました」
葵「そうですのね。ですが、クレマチスちゃん? 名前の所だけ伏せられても、
分かりますわよ?」
スノー「ぅにゃん?」
葵「スノー様、何でもありませんの。それよりも、一度リリー様の別荘に戻り
ますわよ」
クレマチス「はい、葵様」
スノー「はいぅにゃん」
別荘に扉を開くと、葵が以前カフェバー&レストランで、リリー様を驚かせ
て叱られた、露出の少なすぎるエプロン姿でカトレア様が料理をされていた。
ですが、あのエプロン姿は邪道ですの。
されるなら、何も付けないのがベストですの!
葵「……カトレア様、それは邪道ですの。どうせするのでしたら、はだ……
むにゃむにゃ」
シルク「葵ちゃん、シィー!」
ロベリア「葵ちゃーん、なーいーしょーなのー」
葵「ロベリア様が、一枚噛んでいますのね。――――フムフム。そういう事
ですの。でしたら、僭越ながら葵も協力しますわ」
こうして、悪戯好きのチームが生まれたのである。




