絶叫型魔動巨大ウォータースライダー? 3
俺は皆にさり気なく触れて回復を行い、再びハイビスカスのもとに戻って来た。
すると、ハイビスカスが腕にしがみ付いて来た。
少し離れただけなのに、ハイビスカスは甘えん坊さんだな。
でも、妹みたいで可愛い。
そう思っていると、
「リリママ? かお、あかーよ?」
と言って、ハイビスカスが俺の顔を覗き込んできた。
俺は思わず、頬に手を当て後ろに下がった。
もしかして、そんなに顔が赤くなっていた?
いやいや、そんなことは無いはずだ。
ハイビスカスの、気のせいだよ。
それに、ウィリディスム王子が転倒しそうになった所を助けただけだからね。
「ふえ? ハイビスカスちゃん、何でもないの」
しかし、動揺して変な声を上げてしまった。
すると、ハイビスカスが小首を傾け近づいてきた。
どうしたのかな? と思っていると、ハイビスカスが俺の胸に顔を埋めてきた。
そして、なぜか顔を横に向ける。
ハイビスカスちゃん、角が顔に当たりそうで怖いんですけど……でも、もしかすると甘えたいのかな?
そう思って、ハイビスカスの頭を撫でていると可愛い顔を向けて来た。
「ドキドキ、してりゅ?」
「あははは」
心音まで聞かれた俺は、もう笑うしか無かった。
この身体の持ち主の影響なのか、若しくは王子の特殊能力なのか、中身が男の筈なのに不思議な感情である。
俺は不思議な感情を振り払う為、ハイビスカスを抱きしめて気を紛らわせる事にした。
これで、よし。ハイビスカスを抱きしめたら、落ち着いた。
ハイビスカスも安心したのか、寝息を立てだした。
なので、ハイビスカスに張っている障壁を強化して外から聞こえる音も遮断した。
これでゆっくり……眠れるのか? この激しい揺れの中で?
まあ、炎龍の赤ちゃんなので激しく動く場所でも問題は無いのであろう。
逞しいよ。ホントに。
それより、そろそろ第十一関門なのだがなぜだか変な胸騒ぎがする。
虫の知らせ?
……いや、さっきの王子との絡みででは無いよ。ホントだよ。
なので、俺は再びコソコソとウンディーネとシルフに連絡を取ることにした。
『こちらリリー。ディーネちゃん、ルフちゃん、管理室の管理お疲れ様。カトレア先生達と王子達も、ウォータスライダーに出てくる魔物に凄く楽しんでくれているよ。予定通り、第十関門も突破したしね。それで、まもなく第十一関門に行くのだけれど異常は無いかな?』
俺は自信の胸騒ぎを押さえつけるようにして、ウンディーネ達に連絡を取った。
『こちらディーネです。リリー様、大変です。レモン様が……ガタガタ! ミィミィー!』
……えっ? 何で、ケットちゃんが騒いでいる声が聞こえるの?
『ディーネちゃん? レモンちゃんが、どうしたの?』
あれ? ウンディーネは、通信マイクから離れたのかな?
何も、言ってこないよ。
だけど、マイクの音は入ったままだ。
『ガシャン! ミィー! ミィー! バタバタガッシャン! ケットちゃん、そこを踏んだら駄目だよー!』
しかも、ケットちゃんが走り回って騒いでいる音が聞こえる。
それに、レモンちゃんまでバタバタと走っているよね?
ウンディーネは、どうなったの?
『こちらルフです。リリー様、ケットちゃんを抑えきれません!』
シルフがやっと通信に出てくれたけれど、かなり慌てている。
これはもしかして、想定外の事態が起こった?
そもそも、何でレモンちゃんが管理室に向かったの?
『ミィミィミィー! ケットちゃん、そんな所歩いたら駄目ー! ふえーん。レモンが、リリーちゃんに怒られるよー』
いや、怒らないから。
レモンちゃん、安心して。
だけど、状況を確認しないと。
『……ディーネちゃん、ケットちゃんが何をしているの? 正直に、言って』
『ハー、ハー。済みません、リリー様。レモン様が私達の事を心配して、管理室に会いに来てくれたのですが、管理室の前にあるウォータスライダーの水しぶきがケットちゃんに……』
そうか、ウンディーネとシルフが全く顔を見せないからレモンちゃんが心配したんだ。
昼食の時にでも、二人の顔を見せてあげれば良かった。
なら、心配させた俺が悪いな。
それに、周りの音とウンディーネやシルフの声で状況がある程度理解出来た。
『それで、ケットちゃんがパニックを起こして管理室の中を走り回っていると……』
『はい。
それで、ウォータスライダーの魔物を出現させる設定が滅茶苦茶になりました。
ガラガラガッシャン! ミィミィミィー!
……済みません、途切れましたので続きをお伝え致します。
ドラシルシステムとも切断され、防ぎようがありません。
リリー様、どう致しましょうか?』
うっ……そこまで酷い状況になっていたんだ。
管理室は調整だけで無く、眼で状態を確認出来るようにガラスに覆われているからね。
恐らく、強烈な水しぶきがガラスに降りかかる度に、ケットちゃんが慌てて逃げているのだろう。
今回は暴風と波が高い設定にしているから、無理も無い。
しかし、ドラシルシステムと切断されたのは非常に不味い。
俺が今すぐ行ったとしても、ドラシルシステムの設定にユグドラシルも必要だ。
それに、
『緊急時のリセットは出来るけれど、何も出現しなくなるよね?』
『はい。その通りです』
やっぱり、そうだよね。
いや、勘考すると全て俺の不注意が招いたものだ。
それに、ユグドラシルはこんな時の為に俺に同行する様に伝えてきた筈。
やはり、ユグドラシルは気遣いができる良い子だな。
後で、労ってあげないとね。
俺の腹は、決まった。
今からウォータスライダーで出現する魔物を見て判断し、カトレア先生達が対処不可能だと判断すれば俺が対処すればいいだけの事。
『大丈夫。何か有ったら、私が対処するよ。ディーネちゃんは、魔物の数だけ……あっ! それも、もしかして?』
『はい。一度リリー様に、来て頂かない事には……
ドンガラガッシャン! ミィー!
ケットちゃん、捕まえたよー!』
『えっと……こっちで何とかするから、ディーネちゃんとルフちゃんは片付けをしておいてね』
『リリーちゃん、ごめんなさい。もうレモン、ケットちゃんを連れて来ないから許してね』
『あははは。レモンちゃん、心配しないで。大丈夫だからね』
俺はコソコソと、通信を終了させた。
だけど、これは非常に不味い事になった。
ある意味、カトレア先生達でも楽しむ事ができる魔物が出る可能性はあると思うけれど、その魔物の数が一切不明だ。
制限はかけてあるが、最大で九十九体出る。
まあでも、龍種は俺とユグドラシルが秘密のパワスワードを入れないと、出現しない筈なので問題は無いはずだ。
つまり、SS以上の危険種は出現しない。
しかし設定が変わっている筈なので、S級の危険種は普通に出現する筈だ。
当初、第十一関門から第十四関門までA級の下位の魔物を出現させ、最後の第十五関門でS級危険種を一体出現させて、カトレア先生とロベリアさんに楽しんでもらう計画だったのだがもう何が出てくるか分からなくなった。
しかし、考えている余裕は無い。
なぜなら、もう出現しちゃったからね……。
ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ!
グガアー! グガアー! グガアー! グガアー! グガアー!
「数が、多い……皆、今すぐ下がりなさい!」
カトレア先生は、ウィリディスム王子とエレモフィラ君とバレリアン君を下がらせた。
この魔物の数に対して王子を守りながら、エレモフィラ君達では倒すのは困難だと判断したのだろう。
確かに、火焔ゴーレムが十五体と熱波を放つドレイクが十体は多いよね。
俺も第十一関門から、この数の魔物が現れるとは思わなかったよ。
まあ、ケットちゃんが踏みつけて数の設定がおかしくなったのだけれどね。
だけど、カトレア先生達が倒せない数ではないよね。
だって火焔ゴーレムは炎を纏った攻撃を仕掛けてくるけれど、近接攻撃が中心だ。
稀に火山の噴火のような石を降らせてくるけれど、戦闘が長引かなければ放ってこない。
それに、足も異常に遅い。
なので、まず注意する魔物は熱波を放つドレイクだけなのだ。
つまり、熱波を放つドレイクを倒してから火焔ゴーレムを倒せば良い。
特徴として、熱波を放つドレイクの皮膚にはビッシリと、硬い鱗で覆われているのでワイバーンよりも遥かに防御力がある。
それに、その硬い鱗から熱波を放っている。
その熱波は、戦闘が長引けば長引くほど高温になってくる。
高温になれば、その熱波を放ち攻撃を仕掛けてくるようになる。
つまり、時間をかけず熱波を放たれる前に、一番鱗が少なく急所である額を貫き倒す必要が有るのだ。
次に火焔ゴーレムだが、背部の一部に僅かな隙間が有る。
そこに剣先等を思いっきり突き刺し破壊すれば、自身が常に排出している火焔の行き場所が無くなり数秒後には自爆する。
ただ、リカステさんの様な怪力でないと硬くて突き刺すことができない。
まあでも、今のカトレア先生ならスピードで補えば問題は無いだろう。
つまり、全ての魔物はカトレア先生が最も得意とする戦術に適した魔物なのだ。
「リリーちゃん、こんな数がいると王子やエレモフィラ君達では対処できないわよ?」
あれ?
もしかして、カトレア先生はこの先の関門もウィリディスム王子とエレモフィラ君達に学ばせる為に戦わせようとしていたのかな?
「もしかして、私が物足りないって言ったから?」
カトレア先生が少し俯き加減にそう言ったので、励ます為にケットちゃん事件の事を、少し変えて言ってみることにした。
「うーんと……可愛い子猫ちゃんが、先生達の願いを叶えてくれたようです」
「ぷっ、リリーちゃん面白いことを言うわね」
ある意味、本当の事なんだけど。
それに、これは思わぬ事故とも言うけどね。
でも、先生が良いように考えてくれたならそれで良いと思うよ。
「だけど、生徒達に知見させるのも良い勉強になるわね」
カトレア先生がそう言って、笑顔になった。
これって、不幸中の幸いとも言うのか?
「カトレアちゃーん、さっきの技を使えば良いじゃなーい」
ロベリアさんが、手を叩いて思い出すようにそう言った。
「この魔物は全部、ワイバーンよりも硬いのよね」
カトレア先生と話をしている間に、熱波を放つドレイクが三体急降下してきた。
「カトレアちゃーん、それよりもードレイクが来たわよー」
グガァー! グギィー! グゴォー!
「えっ? 疾風迅雷! 蝶の舞い!」
カトレア先生が襲われたかと思った瞬間、先生は三体の熱波を放つドレイクの攻撃を舞うように躱した。
そして躱した勢いでそのまま、熱波を放つドレイクの鱗が最も少ない眉間を踏みつけていき、上空に舞い上がる。
「熱波を放つドレイクよ! 哀れに散りなさい!」
その言葉を発したかと思うと、カトレア先生の切っ先が全ての熱波を放つドレイクの眉間を捕らえる。
「【【篝火花乱れ突き!】】」
硬い鱗が最も少なく急所である眉間を、カトレア先生の鋭い突きで貫かれた熱波を放つドレイク達は、萎れた花が項垂れるように頭から墜落し息絶えた。
「ふぅー! やっぱり、少しでも強い魔物を倒せると気持ち良いわねー」
カトレア先生、ご満悦である。
硬いとか言っていたのに、一瞬で倒された熱波を放つドレイクの件は何だったの?
そうか、カトレア先生達が纏っているドレスが馴染んでいてすっかり忘れていた。
緊急時に纏うはずの龍人形姫ドレスを、既に纏っていたじゃない。
俺、気にする必要なかったやん。
「ロベリアちゃん、足の遅い火焔ゴーレムは任せるわよ」
「カトレアちゃーん、いいのー?」
「良いわよ。ロベリアちゃんも、スッキリしちゃって」
スッキリって……カトレア先生、何かストレス抱えていたの?
そう言えば、この国に来る前はロベリアさんのエヘヘーに苦しんでいた。
今は、その悪戯好きな小悪魔さんと組んで魔物を倒しているんだけどね。
「エヘヘー。火焔ゴーレムちゃーん、おいたするとー痛いよー!」
そう、このエヘヘーが怖いのだ。
ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ! ゴゴゴゴ!
「【【緩慢の風化!】】」
ロベリアさんがその言葉を発した瞬間、火焔ゴーレム達がいる場所の空間が靄に包まれたかと思うと、その靄から出てきた火焔ゴーレム達は崩れて塵となった。
「うわー……やっぱり、私慣れないわ。何度見ても、その範囲攻撃ができる特殊能力怖すぎよ!」
カトレア先生、俺もそう思います。
と言うか、魔物に対するエヘヘーは怖すぎる。
それにロベリアさん、今のも悪魔の所業かと思われるほどの能力でしたよ。
「だけどー、この能力が有効なのはー足の遅ーい魔物だけなのよねー」
そりゃー、そんな異質の能力に制限が無いわけ無いでしょ。
神様も、考えるよ……って、ロベリアさんの神様って邪神かな?
いやいや、ないない。
そう考えていると、幸いにも第十二関門と第十三関門は、火焔ゴーレムと熱波を放つドレイクに加えて、A級の危険種である虐殺のブレードシャークと水の悪鬼ケルピーが増えただけであった。
虐殺のブレードシャークはヒレが全て刃物で出来ており、水中ではかなり厄介な魔物だ。
そして、水の悪鬼ケルピーも常に水の渦を纏っており水中ではかなり厄介な魔物なのだ。
しかし、そのどちらも海中で無ければカトレア先生達の敵では無かった。
海中から姿を見せ襲いかかってきた所をカトレア先生が撃退、又は空中に誘き寄せた所をロベリアさんの異質の能力で倒すのだ。
この二人が冒険者の間で、二つ名が知れ渡っている理由が分かったよ。
二人とも綺麗な女性なのに、戦う姿は笑う殺戮者。
カトレア先生は、魔物を倒す時笑みを見せている。
ただ、ロベリアさんのエヘヘーが際立っていただけである。
ともあれ、第十四関門の少し手前まで巨大な浮き輪でやって来た。
カトレア先生達は慣れてきたようで、A級の危険種はお手の物のようだ。
俺はその様子に胸を撫で下ろし、障壁を繋げてスヤスヤ眠っているハイビスカスの頭を優しく撫でた。
「リリママ、だーちゅき」
ハイビスカスらしい、可愛い寝言である。
それに可愛い寝顔を見ていると、ここが暴風が吹き荒れて大波が荒れ狂うウォータスライダーの海路とは思えない情景だった。
……やはり、炎龍の赤ちゃんだね。
だって、こんな状況で俺絶対に寝られないもん。
その不思議な情景に心を癒やされていると、カトレア先生が慌てている様に見えた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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レモン「ディーネちゃん、ルフちゃん、差し入れにきたよー。ミィ……」
ディーネ「レモン様、お手数をおかけします」
ルフ「レモン様、感謝します。これは、リリー様の焼き菓子ですね」
レモン「そうだよ。レモン、二人とも昼食に来ないから心配したんだよ」
ケット「ミィ? プニュリ」
ガガガガ! ガガガガ! ガガガガ!
ディーネ「はっ! ケットちゃんいけません。それはこの管理室を覆うシャッターです」
バッシャーン! バッシャーン! バッシャーン!
ケット「ミィー!」
レモン「ケットちゃん、落ち着いてー」
バッシャーン! バッシャーン! バッシャーン!
ケット「ミィミィミィー!」
ルフ「ケットちゃん、そこにいっては……」
ディーネ「ルフちゃん、ケットちゃんを捕まえないと不味いです」
バッシャーン! バッシャーン! バッシャーン!
レモン「ケットちゃん、走り回ったら駄目ー!」
ケット「ミィー! ミィー!」
バッシャーン! バッシャーン! バッシャーン!
リリー『こちらリリー。ディーネちゃん、ルフちゃん、管理室の管理お疲れ様……』
こうして悲劇が、始まった。




