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封印されていた魔物26

 澱みの蜘蛛を探していると、ユグドラシルから『心情』が伝わる。



『リリー様、右腕に』



 右腕を見ると、小さな澱みの蜘蛛が乗っていた。

 あまりにも、小さい……だけど、チャンスだ。

 俺は、クナイを操作して澱みの蜘蛛を切りに行く。



 シュン シュン シュン シュン シュン シュン! 



 しかし、異常に早い。

 クナイの速度でも、澱みの蜘蛛に追いつけない? 

 そして、消えた? と思った瞬間、俺の背中に衝撃が走る。



 ドゴゴゴォォ ドゴゴゴォォ ドゴゴゴォォ ドゴゴゴォォ! 



 澱みの蜘蛛が、爆裂魔法を放ってきたのだ。

 咄嗟に、三十本のクナイを平たく配置させて盾のようにしたが、今のは危なかった。

 その爆発の衝撃で上空に俺は吹き飛ばされた。


 だけど、あれが本体か。

 まさか、本体があれほど小さいとは思いもしなかった。

 今まで倒してきた魔物は、全て俺よりも遥かに巨大だった。


 しかし澱みの蜘蛛の本体は、俺の手の平サイズ。

 例外は、いるが……黒いあれは、思い出したくない。

 因みに、角兎は可愛いくて倒せないので当てはまらないからね。


 吹き飛ばされた俺とは違い、澱みの蜘蛛は地上に素早く降りて上空から落ちてきた土に近づくと再び巨大化した。

 だが、先ほどよりも明らかに小さい。


 どうやら、自爆して灰と化した土は使用出来ないようだ。

 澱みの蜘蛛の攻撃は、単純なので躱しやすい。

 しかし、俺の攻撃が当たらなければ話にはならない。


 だけど、これなら……。

 俺はユグドラシルに切り札を託し、ワールドマップで確認しながら澱みの蜘蛛に肉薄する。

 だが、澱みの蜘蛛は予想していたようで無数の糸を吐いてきた。

 しかも、小型になって素早さが増したせいか糸を吐く早さも尋常ではない。



 シュババババババ! シュババババババ! シュババババババ! 


 シュン シュン シュン シュン シュン シュン! 


 ズバ ズバ ズバ ズバ ズバ ズバ! 



 その糸を三十本のクナイで対処するが、近接し過ぎたせいか三十本のクナイでは数が足りなかった。



「くっ!」



 近くに来た糸は触れられる前に、天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)で切り裂くしかない。

 そう思った瞬間、天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)が巨大な刀へと変貌した。

 俺は、次々と放ってくる蜘蛛の糸をクナイを舞わせて切り裂き、切り裂けなかった糸を無我夢中で巨大な刀へと変貌した天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)を振るって切り裂く。



「ヤァァァァァァ!」



 ゴォシャ ゴォシャ ゴォシャ ゴォシャ ゴォシャ ゴォシャ! 



 刹那、五体の獣が刀から現れたかと思うと、クナイが舞う早さを越える速度で残りの糸を全て食いちぎった。



 グガァー! グガァー! グガァー! グガァー! グガァー! 



 ジャキン ジャジャキン ジャジャジャキン ジャジャジャキンキンキン! 



 俺は思わず、マウスLV2を使用して一端距離を取る。

 早すぎて、状況が分からない。

 一体、何が起こったんだ。

 すると、五体の獣も俺と同じように距離を取った。



 グリュルル グリュルル グリュルル グリュルル グリュルル! 



 そして、甘えるように五体の獣が俺に擦り寄って来た。

 どうやら、天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)から出た獣のようだ。

 でも、この獣の姿は……


 顔が龍に似ていて足には馬のような蹄があり、尻尾がそれとなく牛の尻尾のようだ。

 身体(カラダ)には鱗があり、立派な角が生えている。

 それに身体(カラダ)の色がそれぞれ違って、青、赤、黄、白、黒なのだ。

 もしかして……俺がそう勘考していると、ユグドラシルが声をかけてくる。



「リリー様の法具のお陰で、どうにかこの者達の心情が読み取る事ができました」

「えっ? ユグちゃん、この子達のこと分かったの?」

「はい。この者達は、天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)から具現化された者達のようです」



 ユグドラシルと話をしていると、青い子と赤い子と白い子と黒い子が澱みの蜘蛛と戦いだした。

 しかし、黄色い子が俺に顔を擦り寄せてくる。



 グリュルルルル! 



「ユグちゃんこの黄色い子、他の子より甘えん坊さんだよ」

「その者は、名を麒麟(キリン)と申します。土属性では有りますが様々な攻撃手段を持っています」



 俺に顔を擦り寄せて来たので、麒麟(キリン)を撫でると満足したようで、澱みの蜘蛛を攻撃しだした。

 成る程、どこかで見たことが有ると思ったらそういう事か。

 でも、この天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)は確か日本の神話に出てきた神武具。

 この子達は、中国の? 

 いや、日本の神社でも祭られていたか。

 俺の世界の管理者の事だから、色々と混ざっているのだろう。



「リリー様、今澱みの蜘蛛に体当たりをした者は聳孤(シヨウコ)と言い木の属性を持ち合わせています」



 澱みの蜘蛛に、青い子が体当たりするまで早すぎて見えなかった。

 俺の斬撃の速度を、超えているかもしれない。



「青い子ね」

「はい、その通りです。そして今糸を切り裂いた、赤い者が炎駒(エンク)と言い火の属性を持ち合わせており、次に糸を切り裂いた黒い者を角端(カクタン)と言い水の属性を持ち合わせています」



 この二匹も、尋常ではない早さだ。

 ユグドラシルは俺の眼を通して見ているが、この子達が仕掛けるまでは全く見えていないよだ。



「ユグちゃん、澱みの蜘蛛の本体を追いかけ回している白い子は?」



 澱みの蜘蛛が慌てるように逃げ出したが、どこにも逃げる場所はない。

 それをあざ笑うかのように、白い子が追いかけ回している。

 何て、早さと強さだ。

 俺の斬撃事態が、そのままあの子達のようだ。



「名を索冥(サクメイ)と言い、金の属性を持ち合わせております。

 全ての麒麟は、リリー様が振るった天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)の神速と神力を有しており、異常に速くなった澱みの蜘蛛の早ささえも捕らえる事が可能で、同時に力を削ぐ事も可能なのです。

 ですので、あのように追い詰める事が可能なのです」



 成る程、そういう事か。

 つまり、あの子達自体が俺の斬撃。

 ならば……



「ユグちゃん、これって私攻撃する必要ないかも?」

「いえ、ソロソロ具現化の時間切れです。

 相手が強ければ強いほど、天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)の消耗も激しいのです。

 ですがあちらも、守護していた土が全て無くなったようです。

 それと、麒麟は吉兆を呼ぶそうです」

「そうなんだ。ユグちゃん、説明ありがと」



 成る程、強力すぎる力であるが故に、あの子達は暫く休息が必要ってことか。

 ユグドラシルの説明が終わると、五色の麒麟が全て俺の元に帰った来た。



「皆、ありがと」



 そして、俺にすり寄って来る。

 俺が全ての麒麟を撫でると、黄色い麒麟(キリン)が上を見上げ天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)に消えていった。

 すると、急に空が暗くなった。



「えっ? 何?」

「リリー様、スノー様と葵様がクレマチス様に乗って来られたようです」



 上空を見上げると、クレマチスがスノーと葵を乗せて旋回していた。

 あれ? クレマチスが、かなり小さくなってる。

 俺が上の神結界を解除すると、スノーと葵がクレマチスから飛び降りてきた。



 クルクルクルクルクルクル シュタッ! 



「リリー様、遅くなり申し訳ありませんぅにゃん」



 スノーが殆ど音を立てずに着地すると、俺に謝ってきた。



 シュルシュルシュルシュルシュルシュル シュタッ! 



「リリー様遅ればせながら、今より葵とスノー様とクレマチスちゃんが蜘蛛退治に参戦致しますわ。ですが、スノー様がクレマチスちゃんに圧をかけすぎて余計に遅くなりましたの」



 葵も、スノーと同じように静かに着地した。

 まあ、スノーの愚痴は言っていたが。

 でも、家族が来るとこんなにも心強いんだ。


 胸の奥の、嬉しさが止まらない。

 少し、泣きそうだ。

 俺は涙を堪え、スノーと葵に笑顔を向ける。



「スノー、葵、来てくれたのね。ありがとう」



 そして、暴風が舞い降りてきたかと思うと



「リリー様ー!」



 クレマチスちゃんが大きな声音で、俺の名を叫んだ。

 俺は、急いで上空の神結界の穴を閉じた。

 これで、澱みの蜘蛛は逃げられない。



「クレマチスちゃん」



 俺は嬉しくて、クレマチスを迎えるように両手を広げた。

 だけど、クレマチスちゃん? 

 その大きさで来られると、潰れちゃうよ? 


 刹那、スノーが俺を抱き抱えクレマチスを避けると、その場に俺を置いて葵の元に行った。

 どうやら、澱みの蜘蛛に対し警戒して、葵と共に睨み合っているようだ。



 ズドォォォォォォーン! 



 クレマチスが巨体のまま降りてくると、地響きと轟音を立てた。

 そして急に小さくなると、人型になり俺の後ろに隠れた。

 どうやら、スノーが無言の圧をクレマチスにかけたようだ。


 スノーからすると、こんな時に乱暴に降りるな! とでも、言いたかったのだろう。

 確かに俺が下にいた訳だし、神結界がなければ擂り鉢状の大穴に、更なる大穴が開いていたからね。



「クレマチスちゃんも、来てくれてありがと」



 俺は、後ろに隠れたクレマチスちゃんを撫でた。

 心強い家族であり仲間が増えたことで、これなら一気に倒せる筈だ。



「リリー様、葵達が先に攻撃を仕掛けます。ですので、リリー様はその直後に攻撃をお願いしますの」



 葵が俺に顔を向けると、そう言ってきた。



「だけど、澱みの蜘蛛は小さくなった事で異常な早さになっているわよ」

「でしょうね。先ほどから横に反復して移動しているようですが、私達の眼ではブレて追い切れていませんもの。ですが、スノー様の能力で恐らくは」



 葵が眼で合図をすると、スノーがジャンプした。

 そして、クレマチスが葵と共に駆け出した。

 俺は三人に答えるように、天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)を握りしめた。

 そして、鞘に収めた自身の魔力と神力を一気に高める。



 キィィィィィィン! 



 すると、鞘から溢れんばかりの光りが漏れ出した。



「クレマチスちゃん、私に合わせなさい。行きますわよ」

「はい、葵様」



 葵とクレマチスがそれぞれの神武具を手に取ると澱みの蜘蛛に一気に肉薄。

 そして、荒ぶる神武具の切っ先が澱みの蜘蛛を襲う。



「「【【ドラゴン ボイスタラス ダンス!】】」

「【【龍乱(リユウラン)神楽(カグラ)!】】」」



 シャキィーン シャキィーン シャキィーン シャキィーン! 



 しかし、二人の攻撃を全て澱みの蜘蛛が躱す。



「アブソリュート ゼロ フィールド! ぅにゃん」



 ピキ! ピキ! ピキ! ピキ! ピキ! ピキ! ピキ! ピキ! ピキ! 



「私達の攻撃は、囮ですの。本命はスノー様の絶対零度の空間により、ありとあらゆる物の時を凍らせて全ての攻撃を防ぐ魔法。これは、攻撃にも使えますのよ」



 葵とクレマチスが、スノーの空間魔法の影響を避けるように躱すと葵がそう言った。

 俺は魔力と神力が溢れる力を鞘に収めた状態で、一気に澱みの蜘蛛に近づく。

 しかし澱みの蜘蛛は自身の炎で、スノーの氷をも溶かした。

 やはり、スノー達では権限の差が有りすぎるか? 



「花楓院流(カフウインリユウ) 役枝(ヤクシ) 神(シン)の型!」



 抵抗して放ってくる糸は、三十本のクナイに変化した天羽々斬(アメノハバキリ)で切り裂く。



 シュン シュン シュン シュン シュン シュン! 



 ズバ ズバ ズバ ズバ ズバ ズバ! 



 しかし、糸を吐き続ける澱みの蜘蛛がジワジワと逃げようする。

 刹那、気配と存在を消して背後に回っていたユグドラシルが、切り札の魔虫蜜を澱みの蜘蛛の直上の空間から出して打ちまけた。

 小さくなっていた澱みの蜘蛛は、ドロドロの魔虫蜜を真面に浴びほぼ全身が溶けて動けなくる。


 その瞬間を狙っていた俺が、一気に肉薄。

 刹那、神速を越えた早さと鞘から溢れるほどの神力で天之(アメノ)尾羽張(オハバリ)を抜刀し露わになった澱みの魔石を切り裂く。



 シュッ――――! 



「【【神魔(シンマ)一閃(イツセン) 一輪(イチリン)開花(カイカ)】】」



 俺は刀を鞘に戻して、そう呟いた。

 早すぎて何が起きたか分からない澱みの蜘蛛は、魔虫蜜で溶かされた身体(カラダ)を再生させようとするが再生できない。

 その瞬間、自身の本体である澱みの魔石が切り裂かれている事に気づいたようだ。



「――――」



 そして、かき消される様に澱みの中魔石は黒い霧となって消えていった。



「ふー……」



 俺が息を吐き出した瞬間、封印されていた魔風(マカゼ)喰らいのキングスパイダーの身体(カラダ)がアイテムボックスに収納され、システムの説明が眼前を流れる。



【システム 中位管理者案件を解決しました】

【ピピッ! 限界突破スキルにより上位管理者案件に進化しました】

【システム 上位管理者案件を解決しました】

【ピピッ! 女神システムサービスのポイントアップ加算が、10割アップしました】

【ピピッ! 限界突破スキルにより女神システムサービス加算が向上しました】



 ……あれ? 今回はこれだけ? 

 今までは澱みの魔物を倒す度に、レベルが上がっていた。

 しかし、今回はレベルアップをしなかった。


 もしかすると、第二級中位管理者と第一級中位管理者の間にある、経験値のようなものがかなり多いのかもしれない。

 暫く考えていると、



「リリー様、お疲れ様でしたぅにゃん」

「リリー様、今回は大変でしたわね。ご苦労様ですの」

「お疲れ様でした、リリー様」

「リリー様、お疲れ様でした。ユグの能力で、山の自然を元に戻そうと思いますが、お力を貸して頂いても良いでしょうか?」



 スノー、葵、クレマチス、ユグドラシル皆から、労いの言葉をかけられた。



「皆、お疲れ様。それと、本当に来てくれてありがとね。ユグちゃん、もちろん良いよ」



 今回は、本当に考えさせられる戦いだった。

 もしこの世界で俺の家族と呼べる者達がいなければ、澱みの魔物を一体倒せたとしても、他は何も出来なかっただろう。


 本当に、家族の皆には感謝しかないな。

 今日は帰ったら、皆でゆっくりして美味しい物でも食べよう。

 こうして皆のことを考え、ユグドラシルに魔力を与えていると、また空が暗くなった。



「えっ? 何?」

「リリー様、皆が心配して来てくれたようです」



 ユグドラシルの答えに上空を見上げると、小さな炎龍と大きな炎龍が上空を旋回していた。

 その炎龍二匹の背から、シルク達とカトレア先生達が手を振っていた。

 俺は神結界を解除して、皆に無事を知らせた。

 こうしてウインドウォーター王国は、リリーとその家族や仲間達によって未曾有の危機から救われたのであった。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。


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