封印されていた魔物21
【リリーSIDE】
森に入ってから、ユグドラシルが極度の緊張状態であったのは分かっていた。
だからこそ、ユグドラシルの気持ちが解けるかと考え何度も戯けてみた。
……先ほど滑り落ちたのは、単なる不注意だけどね。
しかし、ユグドラシルは俺が戯けていた事も心情で知っていたので逆効果だった。
そして今は、森に入ったときよりも緊張している。
葵達に、澱みの蜘蛛から俺を遠ざけるよう指示されていたのに偶然とは言え、滑り落ちて見つけてしまったからだ。
こんな時は、どうすれば良い?
今考えていた事も、全て心情で知られている。
大阪ののりで、ユグドラシルを笑わせた方が良いだろうか?
「リリー様、気を遣わなくて良いですよ」
「はう」
ユグドラシルは、大阪ののりで笑わせる事はお気に召さないようだ。
魔虫蜜を補充するために、擂り鉢状の頂上に飛んできたけれど下に落ちている巣は少なかった。
上には沢山巣が有るのだが、上にある物は恐らく生きている魔虫の幼虫がいるはずなので取りには行かなかった。
飛ぶ魔法を解除して、落ちていた巣から死んでしまった幼虫を捕りだして土に埋めてやり、手を合わせてから早速魔虫の巣を切り裂いて蜜を包丁でかき集め出した。
この魔虫蜜が、なぜ澱みの蜘蛛の黄色い糸に効果があるかは不明だ。
でも恐らく、この山に封印されていた魔風喰らいのキングスパイダーの弱点だったのではないかと推測する。
それに、魔虫はこの山にだけ生息すると杏ちゃんの両親が言っていた。
杏ちゃんの両親も、この魔虫蜜を毎日食事で出して食べている事から、人体に悪影響は無いと考えられる。
それに、杏ちゃんの両親は病気知らずだと言っていた。
恐らく果物の花の花蜜だけでなく、薬花の花蜜も多く含まれているからだろう。
ともあれ、全て憶測だけなので、澱みの蜘蛛自体に効果があるかは不明だ。
でも一つの手段として準備し、澱みの蜘蛛に対して挑むのは間違いではないだろう。
そう考えつつ、魔虫蜜を舐める。
「美味しい。ねー、ユグちゃんも舐めて」
そんな思い詰めた表情で、考えを巡らせても何も浮かんでこないよ?
甘い物を食べると、頭の回転もよくなるし、沈んだ気持ちも軽くなるよ。
ほら、見てみて。
ユグドラシルの眷属達も、俺の周りで蜜を舐めているよ。
それに、ウンディーネの眷属やシルフの眷属達も魔虫蜜の薫りに誘われて集まってきたよ。
「やはり、リリー様は精霊達に好かれていますね。それに、小動物もチラホラと顔を覗かせていますよ」
「座って、魔虫蜜を舐めているだけなのにね」
「リリー様、私も魔虫蜜頂きます。宜しいでしょうか?」
「うん、良いよ」
森は本来、この子達皆の住処だ。
この世界に存在してはならない、澱みの魔物のものではない。
この子達の為にも、澱みの蜘蛛は倒さなくてはならない。
ユグドラシルや微精霊達と蜜を舐めて和んでいると、眼前の隅っこに新着メールの表示が一瞬流れた。
こんな小さな表示で素早く流れられたら、今のように魔虫蜜を舐めて和んでないと気がつかないよ。
このメール表示も、改善が必要なんじゃ無いかな?
だけど、今はそんな事をアンケートで送るよりも大事な事がある。
「ユグちゃん、メールが届いたよ」
俺はメールの内容を見る前に、ユグドラシルに知らせた。
するとユグドラシルも、俺の心情から既に読み取っていたようだ。
「リリー様、そのようですね。早速、アイテムボックスを見てみましょう」
「うん」
そう言って、ユグドラシルに返事をした。
返事をしたものの、なぜか俺の右後方に変な気配を感じる。
微精霊や可愛らしい小動物が、俺の周りに集まって来たのは知っている。
けれど、その小動物達が何故か逃げたのだ。
それに、シュルシュル?
小動物でシュルシュルと鳴く子って、いたかな?
そして、ペロリと顔を舐められた。
小動物で、ペロリと舐めてくる子いたかな?
兎は鼻をくっ付けてくる子もいるけれど、先ずはモフモフの身体が膝の上に乗ってからだ。
それに、ペロリと舐めてくる事はあまりない。
栗鼠の場合も同じに、尻尾が振れてくることが多い。
もしかして、ユグドラシルが舐めたのか?
「ユグちゃん? 魔虫蜜を舐めたいからって、私の顔を舐めても蜜は付いていないよ?」
でも、おかしい。ユグドラシルが俺の顔を舐めてくるとすると、舌の前に二つの膨らみが当たる筈なんだけれど?
それに、先ほどから耳元でシュルシュル言っているよね?
「リリー様、私はこちらですが?」
ユグドラシルが、俺の左肩に腰掛けている?
だけど、また顔を舐められたよ?
「ふえ? じゃー、こっちのペロペロは?」
「――」
ゆっくり顔を右へ向けようとすると、ユグドラシルに無言でゆっくりと左に向けられた。
そして、ユグドラシルが何かを掴むと放り投げた。
俺が何を投げたか振り返ろうとすると、ユグドラシルが俺の顔に胸を押しつけてきた。
どうやら、俺に投げた物を見せたくないようだ。
しかし心情で繋がっている俺は、ユグドラシルの心の内を読み取ればそれが何となく分かる。
そして、長細い物が舌をだしてシュルシュル言っている心情が伝わって来た事で、子供の頃に体験した心的外傷が蘇る。
「ふにゃぁぁぁぁぁー!」
「リリー様! 蛇はユグが投げ捨てましたので、もういません。落ち着いて下さい」
落ち着けと言われても、頬と首筋の感触と背中のゾワゾワが取れないのだ。
そうして叫びながら走り回っていると、
ズルッ!
「ふえ?」
足場が、無い?
そして、後ろ向きに転がった。
しかも先ほどの心的障害が蘇った事で俺は、自身の身体を抱える様に丸めた。
そして、ユグドラシルを抱きしめて必死に耐える。
「リリー様、抱きしめられると、ユグは何も出来ません。離して下さい」
離せと言われても、後ろ向きで転がっているので、無駄に柔らかい自身の身体が丸まってしまうのだ。
しかも、運良く先ほど滑り落ちた所を転がっているようで、澱みの蜘蛛の糸にも引っかからない。
転がり続けたことで、最後に足を踏ん張っていた所の窪みに引っかけて空中に放り出された。
そして気がつくと、ゴワゴワしているものの上に俯せになっていた。
「吃驚した。だけど、ユグちゃん? ここ、何かチクチクするよ?」
「リリー様、問題が発生しました。ここは、ユグが何とかします」
ユグドラシルの言葉に我に返ると、澱みの蜘蛛の上……そう、澱みの蜘蛛のお尻である縞々パンツの上だったのだ。
即座に俺が飛び退くと、ユグドラシルが劣化型神武具の神の杖グリダヴォルを握りしめた。
「神の杖グリダヴォルよ! 我の、声を聞け! 我は、中偉聖霊第一王女ユグドラシル! 聖霊の盟約により、今こそ世界の精霊達の魔力を集結させよ!」
そうユグドラシルが言葉を発した瞬間、森にいた微精霊と精霊達がユグドラシルに手を翳す。
それだけでなく、あらゆる所からユグドラシルに魔力が集まって来た。
集まる魔力が、まるで虹のようだ。
恐らく、属性の隔てなく協力してくれる全ての微精霊や精霊達の魔力を集めているのだろう。
「咲き誇れ、美しき花々よ! フラワー インペリアル キャッスル!」
花の王座が現れると、周りを取り囲むように千紫万紅の景色が広がって行く。
千紫万紅の景色が広がるにつれて目線が高くなり、眼前に広がる山の大地と澱みの蜘蛛の全体が露わになってきた。
何て、巨大な蜘蛛だ。
この蜘蛛が、巨大な擂り鉢状の大穴を開けたのは納得できる。
もしこの蜘蛛が城や城下町に降りて来たら、一瞬で蹂躙されるだろう。
澱みの蜘蛛がゆっくりと振り返えって行くと、ユグドラシルが言葉を発する。
「聖華の帝城を守護せよ! フラワー キャッスル パラディン!」
その瞬間、この華の城に匹敵する巨大な盾を持った華の巨大騎士が三体姿を現した。
巨大騎士を見た澱みの蜘蛛が後ずさりすると、ユグドラシルが更に言葉を発する。
「我らを守護せよ、フラワー インペリアル ガード!」
巨大な盾を持った華の巨大騎士の前を守護するように、騎士の軍勢が現れた。
騎士の軍勢は、巨大な盾を持った華の巨大騎士三体より遥かに小さいが、数が凄まじかった。
その軍勢に澱みの蜘蛛が後ずさりすると、ユグドラシルが王座に座り言葉を発する。
「我を阻む澱みの蜘蛛を破壊せよ、フラワー キャヴァリアー!」
すると、騎士の軍勢の前に騎馬騎士の軍勢が現れた。
「リリー様、この城は恐らく長くは持ちません。ですが、何とか時間を稼ぎます。スノー様と葵様に至急ご連絡して下さい。」
「分かったわ」
俺は直ぐにオープンテレパシーにして、葵が気にしていた物が届いた事を皆に知らせる事にした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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ユグドラシル「リリー様、最近ユグの前でよく転ばれますね」
リリー 確かに、五歳の容姿はお約束なので仕方が無いのだが、十五歳の容姿
でも、ユグドラシルの前ではよく転ぶのだ。
リリー「何でだろうね?」
シルク「リリー、ユグちゃんの前だと気を緩ませすぎだからじゃない?」
リリー「そうかな?」
成る程、ユグドラシルが側にいると俺の心情は筒抜けだ。
隠していたとしても、奥底まで突き進めば分かってしまう。
だからかもしれないが、知らず知らずに気を緩ませていたのだろう。
ユグドラシル「リリー様、口にクリームが付いていますよ。拭いて、差し上げ
ますね」
リリー「ユグちゃん、ありがと」
シルク「ユグちゃん、ちょっとこっちに来て」
ユグドラシル「はい。リリー様、シルク様の元に少し行ってきますね」
リリー「うん、行ってらっしゃい」
シルク「ユグちゃん、確かリリーと離れると心情が読めあえないのよね?」
ユグドラシル「はい、その通りです」
シルク「じゃー言うけれど、ユグちゃん最近リリーを甘やかしすぎよ」
ユグドラシル「そうでしょうか?」
シルク「ほら、見てみなさいよ。十五歳の容姿なのに、足を滑らせて下着が
丸見えになって、アザレアちゃんに怒られているでしょ」
ユグドラシル「クレマチス様のドジっ子が、移ったのでは?」
シルク「もしかして、ユグちゃんが感染源じゃない? ユグちゃんって、
クレマチスちゃんと一緒にいる事も多いでしょ?」
ユグドラシル「えっ? ですが、ユグは何ともないですよ」
シルク「リリーは、皆の変なところが移るのよ!」
リリー「クシュン! あれ? 誰か私の噂をしているのかな?」
シルクとユグドラシルに噂をされているとは夢にも思わなかった
リリーであった。




