封印されていた魔物15
【カトレアSIDE】
全ての鎖と布を炎龍の赤ちゃんから引き剥がし、入口に眼を向けた時にはもう檻から出られない程に高圧縮ブレスが迫っていた。
だけど、私はシルちゃんを信じている。
私が、なぜここまでシルちゃんを信じられるのか?
それは初めて冒険者学校のシステムとして組み込まれてから、私の事をいつもサポートしてくれたのがシルちゃんだったからよ。
誰もいない冒険者学校の教室の椅子で、私が疲れて眠っていると、リクライニングの機能を使って椅子を自動で倒して私が風邪をひかないように教室の温度を調節してくれたり、次の授業は何を教えようかと悩んでいる時は助言もしてくれた。
今までは、独り悩んで自作人形に話しかけたりしていた。
だけど自作人形は、何も答えてくれなかった。
当然よね。
自作人形ですもの。
けれど、今は冒険者学校に行けば必ずシルちゃんがいる。
シルちゃんが、必ず答えてくれる。
つまり、危機的状況で有ってもシルちゃんが何も言ってこないと言うことは、必ず手段があると言うことよ。
「シルちゃん」
私は信頼しているシルちゃんに、声をかけた。
すると、待っていたかのように語り出す。
「イエス マイマスター。ブラックアブソープション人形とホワイトエミッション人形の双子を、転送済みです。ですので、ご安心を」
やっぱり、ユグちゃんの能力を持っているだけあって私の行動はお見通しね。
私が再び炎龍の高圧縮ブレスを見ると、白と黒それぞれの衣装を纏った可愛らしい人形の双子が前に立っていた。
そして黒い衣装を纏った子が手を翳すと、炎龍目掛けて駆け出した。
駆け出したかと思うと、炎龍が吐いた高圧縮ブレスと、まだ少し残っていたオーラまでも全て吸収した。
残っていたオーラまで吸収するなんて、これで炎龍も全力を出せなくなるわね。
そして気がつくと、黒い衣装を纏った子が白い衣装を纏った子の元に戻ってきていた。
この黒い衣装を纏った子、まるで私の能力の疾風迅雷が備わっているかのように動きが素早いわね。
「マスター、双子の能力で炎龍の高圧縮ブレスとオーラを変換し増幅。
増幅後、ホワイトエミッション人形で、ダブル リタリエイション プラズマ レールガン を放ち炎龍の両足を撃ち抜き、縫いぐるみ人形の ドレスアーマーに武装されている ホーミング フュージレイドゥ アナイアレイション キャノンで煉獄の裁きを全て破壊する事をお勧め致します。
煉獄の裁きが破壊された衝撃は、再びブラックアブソープション人形が吸収致しますのでご安心下さい。
尚、全て終了後に緩慢の微笑の能力解除をお勧め致します。リリー様の補助魔法が解除されるまで、残り十五分です。お急ぎ下さい」
シルちゃん?
レールガンとかキャノンとか言われても、私は見たことも聞いたこともないわよ?
だけど信頼できるシルちゃんが、技なのか魔法なのか分からないけれど、それを使用するとこの現状をどうにか出来るのならお願いしたいわ。
「じゃあ、シルちゃん。お勧めの、攻撃をお願いするわね」
私がそう伝えると、白い衣装を纏った子が両手を翳した。
縫いぐるみ人形の方は、白く美しい羽が生えてきて頭には光りのリングが現れた。
この子リリーちゃんの姿を模しているけれど、羽と光りのリングが有ると天使のようね。
そして天使のような縫いぐるみ人形が浮遊し、ドレスアーマーから数十体の同じ姿をした小さな人形が出てきて両手を隕石に翳した。
それは、さながら大天使が率いる天使の軍勢のようだった。
「ラジャ! オール スタンバイ オーケー。マイマスター?」
私が見入っていると、シルちゃんが声をかけてきた。
もしかして、私の指示待ち?
そう考えていると、白い衣装を纏った子と天使の縫いぐるみ人形達までもが私に小首を傾けてきた。
「私?」
そう言うと、皆頷いた。
私、まるで大天使を率いる女神みたいね。
少し、楽しいかも。
「コホン! では……目標は、炎龍の両足及び迫り来る煉獄の裁きによる隕石です。緩慢のロベリアと疾風迅雷の人形姫カトレアが、命じます。炎龍の両足を撃ち抜き、煉獄の裁きを破壊しなさい」
私がそう言って、左手で炎龍の赤ちゃんを撫でて、右手で前方を指し示すと
「「「「「「イエス マイマスター」」」」」」
と言って、シルちゃんだけでなく人形達までが答えてくれた。
ホワイトエミッション人形の白い衣装を纏った子の両手から、青白い光りが放たれたかと思うと、
キュウーン!
ドドシュ! パリーン!
一瞬で炎龍の両足を撃ち抜き、炎龍を覆っていたレモンちゃん達の超重厚多重結界までも破壊した。
そして縫いぐるみ人形達はというと、小さな縫いぐるみ人形達の両手から目映い光が放たれたかと思うと、
シュッシュッシュッシュッシュッシュッ!
――――――――――――ピガァ! キュゥィィィン!
煉獄の裁き一部である黒い焔を纏った小隕石群を消滅させた。
その破壊された衝撃を、その場で吸収していく黒い衣装を纏ったブラックアブソープション人形。
この世のものではないと思うほど、凄絶な光景だった。
だけど、それだけではなかった。
更に、大天使のような人形が両手を翳すと、周りに小さな天使の人形が両手を添える。
すると、リング状の目映い光が現れた。
キィーン!
甲高い音が聞こえたと思った刹那、煉獄の裁きの本体である黒い焔を纏った大隕石を消滅させた。
――ピィガァ! キュゥィィィン!
そしてその巨大な大隕石を破壊した衝撃すらも、その場で吸収していく黒い衣装を纏ったブラックアブソープション人形。
私、もしかすると神々の戦いに巻き込まれたの?
脳裏にそのような事が一瞬浮かんだが、
「マスター、脅威の破壊を確認。双子を送還し、縫いぐるみ人形の大天使モードを解除致します」
と言ってきた。
だけど、レモンちゃん達が炎龍の周りに張ってくれた超重厚多重結界さえも消滅させてしまった。
「シルちゃん? レモンちゃん達の超重厚多重結界まで、破壊しちゃったけれどどうしよう?」
超重厚多重結界は、高圧縮ブレスによって前方のみ破壊されたが周りは健在だ。
もしまだ使い道が有るのなら、どうしようかと思って焦ったのだ。
「マスター、計算済みですので問題はありません。撃ち抜いたのは炎龍の周りに張っていた超重厚多重結界までです。それに、前方を破壊された超重厚多重結界では意味がありませんので心配には及びません。それと、闘技場の壁にある障壁は撃ち抜いておりませんのでご安心を。尚、補助魔法解除まで残り十分です」
炎龍の足を撃ち抜いた事で、炎龍の戦力を大幅に低下させたと思うけれどこの後はどうすれば良い?
そう考えていると、炎龍の赤ちゃんが顔を寄せて来た。
そうだったわ。
この檻から、まず炎龍の赤ちゃんを出さないといけないわね。
「ねえ、ここから出ましょ。私に、ついてきてくれるかな?」
そう言うと炎龍の赤ちゃんは、頷き返事をする。
「キュウ」
檻から出ると、炎龍の赤ちゃんが再び顔を寄せて来た。
「グルルルルルル」
この子、可愛いわね。
私、あなたの母親の足を負傷させたのに気にしていないのかしら?
確かに、龍種は強い者に対して従うところが有るって聞くけれど……。
この子、甘えるように顔を寄せてきて撫でてほしいと戯れて来ているわ。
大きいのに、この子甘えん坊なのね。
「マスターが力を示したことで、炎龍の赤ん坊がマスター達を認めました。血の契約を、交わしたいそうです」
血の契約?
私が知っている知識にはないし、書物にも記されていなかったわよ?
書物には、認められた者は加護が宿るとしか書かれていなかったですし。
「どうやって、交わすの?」
「マスターと炎龍の赤ん坊が、口づけを交わすだけです。炎龍の赤ん坊の容姿が気になるようでしたら、この赤ん坊だけ特殊で見た目を人の姿に変化できるようです」
「えっ? 人の姿に、変化できるの?」
「イエス マイマスター」
「じゃー、もっと早く言ってよ。人の姿に変わっていたら、あんな苦労しなかったのに」
「いえ、炎龍の赤ん坊は通常人の姿に変化出来ません。ですが、マスターを――と判断したことで変化出来るようになったようです」
「だから、シルちゃん? 何で、言葉を濁すのよ?」
「マスター、炎龍の赤ん坊から直接聞いて下さい」
「この子、人の姿に変化したら話せるの?」
「イエス マイマスター」
シルちゃんがそう言ったので、私は炎龍の赤ちゃんに話しかける。
「ねえ? 君って、人の姿になれる? 血の契約をするなら、お願いしたいな」
「キュウ」
そう言って答えると、見る見るうちに炎龍の赤ちゃんは縮んでいき可愛らしい女の子になった。
角と尻尾は有るので、リリーちゃんの所のクレマチスちゃんみたい。
クレマチスちゃんが小さな白い龍になることは、幼女の秘密すと言っていたリリーちゃんから聞かされて知っていたけれど、後で実は白龍ですと聞かされた時はリカステと一緒に腰が抜けて動けなくなったわ。
だけど毎日リリーちゃんと会う度に、クレマチスちゃんが甘えている姿を見て、今ではもう腰を抜かさなくなったけれどね。
私、驚くことがあまりにも多すぎて麻痺しちゃったのかしら?
この子は、クレマチスちゃんより小さな女の子ですし見た目が丁度リリーちゃんの五歳の容姿と同じ位かな?
名前がないから不便だけれど、背丈もリリーちゃんに似ているし、今度リリーちゃんに名前をつけてもらおうかしら?
クレマチスちゃんは、リリーちゃんに名前をつけてもらったらしいですし、名前をつけるのが得意そうだわ。
でもとりあえず、名前をつけてもらうまでは炎龍ちゃんで良いかな?
そう考えていると、炎龍ちゃんは私を見つめてきた。
なので、腰を落としてあげると
「ママー、けーやくちよ?」
と言って、キスをしてきた。
チュッ!
「えっ? ママー?」
ママと言われて驚いた次の瞬間、左手の甲が焼けるように熱くなった。
「痛い……」
私が思わず、左手を押さえると炎龍ちゃんが小首を傾けてきた。
「ママ、だーぢょーぶ? ペロペロちゅりゅと、なおりゅよ?」
そう言って炎龍ちゃんは、私の手の甲を舐めてきた。
すると、不思議と痛みは消えた。
血の契約なんて初めてしたけれど、少し驚いたわ。
焼けるように痛かった手の甲を見てみると、赤い文様が刻まれていた。
これが、血の契約?
「マスター、おめでとうございます。炎龍の赤ん坊と契約したことで、新たな力を得ました。これより人形姫改め、龍人形姫となりました。尚、補助魔法解除まで残り五分です」
「えっ? もう、あと五分? それに、新たな力って? 人形姫に、ドラゴンって名前が付いただけじゃないの? 私は、全く変わらないわよ?」
「ママー、だーちゅき」
炎龍ちゃんが私の足にしがみ付いたことで、思い出した。
煉獄の裁きと高圧縮ブレスの脅威が無くなった今、緩慢の微笑を解除しないといけないわね。
それに確か炎龍が炎覇龍気魂を使用後に煉獄の裁きを使用すれば、暫くは炎覇龍気魂は使用出来なかった筈よ。
残っていたオーラも、全て黒い衣装を着た人形ちゃんが吸い取ったからね。
「なら、今が絶好の機会よ。スミレちゃん達と協力して、炎龍を倒すわ」
そう言って、私は緩慢の微笑を解除した。
すると、遅くなっていた時が通常通り動き出す。
カチッ、カチッ、カチッ!
そして、スミレちゃんと杏ちゃんが必死の形相で私達の元へ……
「先生ー!」
スミレちゃんが叫んだと思うと、レモンちゃんが炎龍に向かって手を翳し、
「多重……!」
多重障壁と言いかけた所で、気がついた。
刹那、
グゥッ! ギィヤァァァァァァ!
炎龍の悲鳴にも似た、咆哮が聞こえて来た。
その咆哮に、スミレちゃんと杏ちゃんが振り返ると
ズシィーン! ビュゥゥゥゥゥゥ!
地響きと衝撃の風が吹く中、炎龍が足から血を流して倒れる姿がそこにあった。
「カトレア先生……ですか? ロベリアさんは? その、女の子は? だけど、これは一体どういう状況ですか?」
一気に情報が流れ込んできたスミレちゃんと杏ちゃんは、混乱しているみたいだわ。
でもレモンちゃんは、ケットちゃんを頭に乗せて何か閃いていたみたい。
「カトレア先生とロベリアお姉さん、だよねー? この子は、炎龍の赤ちゃんかなー?」
ケットちゃんはお腹が空いて、完全な魔眼は使えなくても私達の事は分かるようね。
だけど、根本的に魔眼が使えなければ炎龍の能力制限が難しい。
今は全ての能力を使い切り、足を撃ち抜いて弱体化しているけれど……。
「レモンちゃん、よく気づいたわね。だけど、時間がないの。リリーちゃんの補助魔法が全てかかっている人形姫ドレスの残り時間は……シルちゃん?」
「イエス マイマスター。残り時間は、四分三十五秒です」
「だから、一刻も早く炎龍を倒すために、私達も協力するわ」
「よく分かりませんが、リリーちゃんの能力でそうなっているのなら、カトレア先生とロベリアさん? スミレ達に、ご協力お願いします」
「ええ」
「マスター、残り時間四分です」
「行くわよ」
「「はい」」
「うん。ミィ……」
こうして私達はスミレちゃん達と共に、炎龍を倒すために協力するのであった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「リリー、今度は何を作っているの?」
リリー「今回はね、女神らしく能力をフルに発揮して、カトレア先生のために
ドールシステムを構築していたの」
シルク「ドールシステム?」
リリー「うん。シルちゃんのシステムとリンクさせれば、カトレア先生が人形を
使用して様々な能力を発揮できるようになるの。それに、シルちゃんは
ユグちゃんのように感情のリンクや能力の共有も可能だからね」
シルク「私達は出来ないの?」
リリー「うーん。それがね、シルク達は特別みたいで難しいのよねー。恐らく
私の使徒・眷属・従者なのが関係していると思うの」
シルク「だから、カトレア先生なのね」
リリー「うん。でも完全じゃないから、シルちゃんのシステムで管理しながら
なのだけどね。今回は私の補助魔法を全てかけあるから、カトレア先生
と相性が良い人とコウリションする事で負担を分担させ、能力を上げる
ようにするの。完全調節できれば、時間はもっと延ばせると思う
のだけどね」
シルク「コウリションって何?」
リリー「合体や合併と言う意味だけど、私の場合は協力して力を合わせる
という意味合いが強いかな。シルちゃんには、カトレア先生と
パートナーになった人には、文字通り一身同体になると伝えて
ほしいと言っているわ。その方が、カトレア先生とパートナーが
強く結びつき、能力の共有がしやすくなるからね。実際は、
カトレア先生のパートナーとなった人は冒険者学校の地下に転送
されて、シルちゃんのシステムで管理されて、感情などを共有
するようになるのだけどね」
シルク「へー」
リリー「分かった?」
シルク「たぶん……つまり、女神の能力って事よね」
リリー「要約すると、そういう事」
全くリリーの説明が、意味不明なシルクであった。




