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封印されていた魔物14

 【カトレアSIDE】


 だけど逃げられないロベリアちゃんがいる状態で、もし炎龍が白獄(ハクゴク)の焔爆(エンバク)を放ってきたら私はどうすれば良い? 



 ガァァァァァァ! 



 私がそう考えていると、炎龍がもの凄い咆哮をあげた。

 その咆哮に振り向くと、赤黒い焔(ホノオ)を全身に纏う炎龍の異常な姿が見えた。

 刹那



「レモンちゃん!」



 スミレちゃんが、叫び声を上げた。



「多重障壁!」



 キュイィィィィィィン! 



 そのスミレちゃんの叫び声に、レモンちゃんが炎龍を筒状に包み込むように五枚の多重障壁を張った。

 炎龍が本来の能力を取り戻したから、白獄(ハクゴク)の焔爆(エンバク)を放つつもりかしら? 

 だけど私が習った知識では、白獄(ハクゴク)の焔爆(エンバク)を放つ時、必ず白い焔(ホノオ)を纏うと聞いている。

 なら、今の姿は何? 


 しかし、炎龍の変化はそれだけではなかった。

 炎龍の眼が焔(ホノオ)の様な真っ赤な色に染まり、交差していた両手と共に大きな羽を広げたかと思うと赤黒い焔(ホノオ)が吸収された。

 そして炎龍の赤かった全身が赤黒く染まり、全身に赤黒いオーラを纏った。

 まるで、黒龍を思わす見た目と存在感。

 嘘でしょ? 



「まさか、炎龍の切り札炎覇(エンハ)龍気(リユウキ)魂(コン)?」



 私がそう呟いた瞬間、炎龍が吸う動作をせずにブレスを放ってきた。



 ゴォォォォォォ! 



 ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ! ……



 炎龍の放ったブレスが、レモンちゃんの張った障壁を突き進む。

 レモンちゃんは瞬時に、五枚の障壁を追加する。



「多重障壁!」



 キュイィィィィィィン! 



 ドゴォ! ドゴォ! ピシッ! 



 レモンちゃんが張った多重障壁を、五枚破壊し新たに張った一枚目に亀裂を走らせ、ようやく止まった。

 溜め動作無しで、この威力。

 もし溜め動作をしたブレスを、連続攻撃で仕掛けられると、多重障壁で防げるかは分からない。

 私がそう考えていると、炎龍が尻尾を振った。



 ゴォォォォォォ! 



 パリン! ドゴォ! ドゴォ! 



 一瞬にして、新たに張った障壁を三枚破壊した。



「ディーネちゃん、ルフちゃん」



 レモンちゃんが叫ぶと、ディーネちゃんとルフちゃんが動いた。

 召喚精霊の中でも一際素早いルフちゃんが、両手を炎龍に翳す。



「トルネード ウォール」



 ブォォォォォォ! 



 すると、竜巻のような壁が炎龍を取り囲み炎龍をゆっくりと空中に持ち上げた。

 そして、ディーネちゃんが両手を翳す。



「ゴー トゥー ディープ クレバス」



 ガガガガガガガァ! 



 ビュゥゥゥゥゥウ! 



 炎龍の足下に氷の壁が出来たかと思うと、炎龍はルフちゃんの竜巻の壁ごと氷で出来た壁に落ち込み、風と氷の分厚い壁に飲み込まれた

 そして更に、レモンちゃんが両手を広げ交差させる。



「超重厚多重結界!」



 ギュイィィィィィィン! 



 レモンちゃんとディーネちゃんとルフちゃん達が協力して、結界を展開させた。

 しかしレモンちゃん達が展開させた結界の上部から、赤黒いオーラが天空に吸い込まれていった。

 これって? 

 スミレちゃんが天空を見上げて、青ざめた。



「くっ! カトレア先生達は、直ぐにこの場から離れて控え室に行って下さい」



 スミレちゃんが叫んで、この場から離れるよう指示してきたが、私とロベリアちゃんにはこの場から離れられない理由がある。



「スミレちゃん、ロベリアちゃんが檻の格子に挟まって逃げられないのよ!」



 そして、私が空を見上げると信じられない光景が見えた。

 それは、黒い焔(ホノオ)を纏った幾つもの隕石。

 しかし、それだけではなかった。

 炎龍の方を見ると、結界の一部が赤くなっていたのだ。



「高圧縮ブレス?」



 私の言葉で気がついたスミレちゃんと杏ちゃんが、必死の形相で私達の元へ来ようとしている。

 同時に、レモンちゃんが多重障壁を前方に張ろうとしていた。

 でも私はこの時、走馬灯の様なものが脳裏に浮かんだ。


 楽しかった思い出、苦しかった思いで、そして今までの日々。

 私はリリーちゃん達と出会って、こんなにも楽しい時を過ごせたんだ。

 ……リリーちゃん? 

 この時、シルクちゃんが言っていたリリーちゃんの言葉を私は思い出した。



「【カトレア先生のアクセサリーに機能を追加したので、先生が本当に危ないと判断した時には叫んで下さい!】」



 と……。

 私はリリーちゃんの言葉を信じ、魂の感じるままにアクセサリーを握りしめる。

 そして、



「【【人形(ドール)姫(プリンセス)セットアップ!】】」



 叫んだ瞬間に、時が止まり私は光りに包まれた。

 眼が見えるようになると、美しいドレスが沢山ある部屋に私は立っていた。

 そして、小さくて可愛らしいメイドが私に会釈する。



「マイマスター、ドラシルシステムの特別なドレッシングルームにようこそ」

「もしかして、シルちゃん?」

「イエス マイマスター。時が動き出す前に、お伝え致します。ここは冒険者学校の地下にあるマスターの為のドレッシングルームとリンクしております。

 マスターに相応しい人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスをお選び下さい。時が動き出すと同時に、ドレッシングルームから転送された人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスがマスターに装着されます。ですが今回はその前に、マスターはパートナーをお選び下さい。

 アクセサリーを握りしめ、パートナーとする者の名を告げるだけで完了致します。

 パートナーを選ぶと自動的にコウリションされ、パートナーとの能力が共有されます。

 そして、今回転送される人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスは、コウリション専用の特別製です。

 リリー様が使用できる、全ての補助魔法がかかっております。

 ですので、パートナーと分散しなければ身体(カラダ)がもちません。

 現在お勧めのパートナーは、ロベリア様です。

 但し、分散してもなお強力すぎるので、二十分以内に危機的状況を解決するようお願い申し上げます。

 二十分を過ぎると、安全装置が働き人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスにかかっているリリー様の補助魔法が解除され、同時にコウリションも解除されてしまいますので。

 尚、人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスが装着されたと同時に、縫いぐるみ人形もコウリションされ、マスター専用の武器と縫いぐるみ人形にも補助魔法が施されます。

 つまりその二十分間だけは、スミレ様達よりも遥かに強い存在である人形(ドール)姫(プリンセス)マスターとなります」



 信じられない事が起きたけれど、それなら……。

 再び光りに包まれ眼が見えるようになると、私達は先ほどの危機的状況だった。

 そして、アクセサリーに名前を告げる。



「ロベリアちゃん」



 私が名前を告げたと同時に、



「緩慢(カンマン)の微笑(ビシヨウ)!」



 ロベリアちゃんが、固有能力を発動させた。

 ロベリアちゃんの固有能力は、炎龍と高圧縮ブレスと上空に見える異常な光景、そして私を含むこの場の者全てを巻き込んだ。


 しまっ……えっ? あれ? 私、普通に動けるわ。なぜかしら? 

 動けるとしたら、ロベリアちゃんだけなのに? 

 そして、先ほどまで檻の格子に挟まっていたロベリアちゃんが消えていた。



「キャウ! どうしよう。どうしよう。私逃げられないし、皆の時を遅くしちゃったわ。でもでも、能力を解除すると迫って来ている隕石や高圧縮ブレスが皆を……」



 私がそう考えていると、ロベリアちゃんは慌てふためくようにそう呟く声音が私の口からこぼれ出た。

 実は、固有能力が発動している間のみ、ロベリアちゃんは普通に話せるのです。

 ってえっ? なぜ私の口からロベリアちゃんの言葉が? 



「ロベリアちゃん?」



 私がそう伝えると、ロベリアちゃんも戸惑っている。



「えっ? カトレアちゃん、なぜ普通に? って、何これ? 私が、カトレアちゃん?」

「話は後で良いから、今は早く……」



 私が力を込めて、檻をこじ開けようとすると



「マスター、人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスアーマーを転送します」



 と、ペンダントからシルちゃんの声音が聞こえて来た。



「ひゃっ! シルちゃん、吃驚するじゃない」

「カトレアちゃん、シルちゃんて? と言うか、この状況は一体どういう事?」



 私が驚いただけでなく、ロベリアちゃんの感情と驚きまでもが伝わり同時に、ロベリアちゃんの驚きの言葉を自身で喋った。



「時間が無いので、簡潔に説明致します。

 現在、マスターとロベリア様の身体(カラダ)は一身同一状態となっております。つまり、一つの身体(カラダ)に統合されている状態です。

 ですので、能力も共通されており、緩慢(カンマン)の微笑(ビシヨウ)の能力で見渡された範囲であっても通常通りなのです。

 人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスアーマーを装着後、リリー様の姿を模した縫いぐるみ人形にも同一の物が装着されますので、縫いぐるみ人形にその檻をこじ開けさせて下さい。

 若しくは、人形(ドール)姫(プリンセス)ドレスアーマーの機能にある、人形(ドール)の眼(アイ)をご使用下さい」

「シルちゃん、分かったわ」



 私がシルちゃんに答えると、私の口からロベリアちゃんが語り出す。



「私はよく分からないから、カトレアちゃんに全て任せるわね」

「ええ」



 私がロベリアちゃんの返事に答えを返した瞬間、私のドレスと縫いぐるみ人形のドレスに鎧のような物が装着された。



「それに、私では人形(ドール)姫(プリンセス)のカトレアちゃんほど、人形を使いこなせそうにないですし」

「うん、ロベリアちゃん分かったわ。この身体の主導権を私が持つわね」



 自身の口で、ロベリアちゃんの言葉も喋るので変な気分。

 だけど、この状況を変えられるのは私達しかいない。



「マスター、ご指示を……」

「取りあえず、人形(ドール)の眼(アイ)をお願い」

「イエス マイマスター」



 シルちゃんがそう答えた瞬間に、私の眼前に眼鏡のような物が現れた。

 その眼鏡のような物を通して、檻を見ると……。

 何これ? 

 先ほどまで、ロベリアちゃんの大きな胸が挟まっていた所にスイッチがあるわ。



「もお、恥ずかしいからカトレアちゃん変な事考えないでよ?」

「ロベリアちゃん? 私の感情を読み取って、ロベリアちゃんこそ喋らないでくれる? それに、感情も共有されているのだから、仕方がないでしょ」

「エヘヘー、やっぱりそうだったんだ」



 ゾクッ! 私が遅緩(チカン)の二つ名を広めた事を、ロベリアちゃんに知られちゃったわ。

 感情まで共有すると、こんな事まで知られちゃうのね。

 だけど、今はそんなことよりも……これは、もしかして隠蔽されていた鍵なの? 

 私は、直ぐにスイッチを作動させ檻の扉を開けた。



「大丈夫?」



 炎龍の赤ちゃんに声をかけて触れると、ロベリアちゃんの能力で極端に呼吸音が遅くなっている事に気がついた。

 だけど、ちゃんと生きている。



 キュゥ――――――――スゥー――――――――……



「私達が助けるから、もう少し頑張って」



 私はそう声かけをしながら人形(ドール)の眼(アイ)を使って、鎖と布を確認したがこの鎖と布だけは鍵などが見当たらなかった。

 なので、鎖と布を無理矢理引き千切ることにした。

 リリーちゃんの補助魔法で強化され、スミレちゃん達より能力が上なら絶対に引き千切れる筈だと信じて……。



「うーーーん。くぅーーん。ふににににぃ……ひゃっ! ち、千切れたわ。私、もしかして今凄い馬鹿力が有るのじゃないかしら?」

「マスター、縫いぐるみ人形をご利用されなかったのですね」

「もぉー。シルちゃん、教えてよ」

「先ほど、お伝えしていたので。それに、必死でいらしたので。ですが、お急ぎを。炎龍の高圧縮ブレスが、迫ってきていますので」

「ええ」



 私が巻かれた鎖を外し、布を引きちぎっていくと炎龍の赤ちゃんの身体が見えて来た。

 ロベリアちゃんの固有能力で、一部だけを解除とか触っている者を解除とか出来ないのかしら? 

 そう考えていると、ロベリアちゃんの感情から



「触っている者の解除は可能だけれど、操作が極めて難しいの」



 と言う感情が伝わってきた。

 だけど、



「私とロベリアちゃんの、二人なら出来るわ」



 私がそう感情を返すと、



「カトレアちゃん? なら、やってみる?」



 と、ロベリアちゃんから感情が伝わってきた。

 共有した能力で、炎龍の赤ちゃんを直接触って緩慢(カンマン)の微笑(ビシヨウ)を解除すれば難しくてもどうにか出来る筈と信じて。

 そして、鎖と布を外しつつ炎龍の赤ちゃんにかかっている緩慢(カンマン)の微笑(ビシヨウ)を解除していった。

 能力を解除すると、鎖と布が少しずつ外れたお陰か炎龍の赤ちゃんは眼を開けた。



「貴方、大丈夫? もう少しだから、頑張るのよ」



 私は炎龍の赤ちゃんを撫でながら、話しかけた。

 すると、可愛い眼を向けてきた。



「キュウ」



 そして、私の言葉に応えるように返事をしてくれた。



「マスター、炎龍の赤ん坊に気に入られたようです。そして、――だと思われたようです」



 炎龍の赤ちゃんに気に入られたのは嬉しいけれど、その後シルちゃん? あなた、何て言ったの? 

 言葉に、しなかったわよね? 



「シルちゃん、途中が聞こえなかったのだけど?」

「マスター、それよりお急ぎ下さい」



 シルちゃんに言葉を濁されたけれど、急がなければ能力で遅くなっているとは言え、私達……いえ、この国が滅ぶわ。



「うん。シルちゃん、分かったわ」



 そう言って高圧縮ブレスの方を見ると、高圧縮ブレスが檻にかなり近かかった。

 高圧縮ブレスを気にしつつ、炎龍の赤ちゃんを撫でると可愛らしい瞳を向けてきた。



「貴方、もう少しだから頑張りなさい」



 そう言って励ますと、炎龍の赤ちゃんは



「キュウ」



 と言って、答えてくれた。

 この子、やっぱり人の言葉が理解出来るのね。

 それに私が必死になって鎖を解いていると、尻尾を上げたり足を上げたりして鎖を解くのを手伝ってくれた。

 この子、賢いわ。


 私がこの子を、助けようとしているのも理解しているようね。

 この分だと、もう少しで全て鎖と布が外せるわ。

 そう考えていると、高圧縮ブレスは檻に更に近づいていた。

 私は、炎龍の赤ちゃんから鎖と布を引き剥がすのを急いだ。



「……よし、これで」



 全ての鎖と布を炎龍の赤ちゃんから引き剥がし、入口に眼を向けた時にはもう檻から出られない程に高圧縮ブレスが迫っていた。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シルク「あれ? これって、ケットちゃんのミルクよね?」

アイビー『シルク、きっとレモンちゃんが忘れたんだよ』

シルク「レモンちゃんも、仕方がないわね。お菓子や飲み物は、沢山持って

    いって食べたり飲んだりしながら、交流試合を見るのは常識でしょ。

    だって、あんなの見ても楽しくないし。私はお菓子を食べている方

    が楽しいもの」

アイビー『それは、シルクだけの楽しみ方だよね』

シルク「五月蠅いわね。ほら、アイビーは皆の飲みのもを沢山持ってね。私は、

    お菓子を沢山持つから」

アイビー『ちゃんと、皆の分のお菓子も持ってね』

シルク「アイビーも、飲み物を沢山持ちなさいよ。特に、ケットちゃんの

    ミルクは忘れないようにしないと、レモンちゃんがね……」

    シルクとアイビーは、温泉から慌てて出てきて、すってんころりん

    と見事に転んだ、リリーの事を思い出すのであった。

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