封印されていた魔物7
【葵SIDE】
孤島が近くに見えたときに、炎龍の叫び声が聞こえて来ましたわ。
距離から考えて、恐らく闘技場内に侵入したものと思われます。
ですがなぜスノー様は、炎龍の件をスミレ様へお伝えする際に、クレマチスちゃんで例えたのでしょうか?
確かに、元の龍種の強さから考えると黄金龍>>黒龍>>白龍>>>>>>炎龍>氷龍>風龍>地龍>>>>>>他の龍種となりますわ。
ですが今は、黄金龍>クレマチスちゃん>黒龍>>>>>>>>炎龍ですのよ?
「スノー様今更ではありますが、スミレ様にお伝えしていた炎龍の強さについて、クレマチスちゃんの例えは如何なものかと葵は思いましたが?」
炎龍の説明の際、スミレ様にお伝えした件を伝えると、スノー様は私達を乗せているクレマチスちゃんをチラッと見ましたわ。
「――――」
そして、しばし無言で少し申し訳なさそうに俯くと
「スミレ様には、一番身近な龍種で、例えましたぅにゃん」
と小声で答えた。
その答えに、クレマチスちゃんが振り向いた。
「葵様、恐らくその説明の際、私が後ろからリリー様に抱きついていたからだと思います」
成る程、あの時ですか。
確かあの時は、巨大な檻が運ばれてきたかと思うと布が掛けられており、その布が風で少し捲れると龍種の赤子の悲しそうな匂いが漂ってきましたわね。
それに檻を包んでいた布は、私やスノー様ですら魔物の存在を感知出来ない特殊な布でしたの。
このような事が可能なのは、恐らく澱みの力を有する者?
または、その関係者しかありませんわね。
そして、クレマチスちゃんがそう指摘すると、スノー様の頬が赤くなりなぜか魔力を集め始めましたわ。
スノー様、どうしたのかしら?
「そうでしたの。ですが、あの時はクレマチスちゃんが炎龍の赤子の事を心配しての行動でしたので、仕方なかったと思いますわよ?」
私がそう伝えると、スノー様の頬と耳がより一層赤くなり、クレマチスちゃんの巨体が揺れましたわ。
まさか、何か飛ぶ魔物にでも衝突したのかと思い当たりを警戒して感知を広げましたの。
すると、
「ビエーン! 葵様、スノー様に抓られました。助けて下さい」
といって、クレマチスちゃんが暴れ出しましたわ。
そんな巨体で暴れると、空を飛んでいますのに危ないですわよ。
「クレマチスちゃんも、一々そんな事で泣かないで下さい。っと言いますか、スノー様もクレマチスちゃんの背中から手を離して下さい。本当に、世話が焼けますの」
そう言ってスノー様の手をクレマチスちゃんの背から離れさせると、クレマチスちゃんが落ち着き孤島の海岸に静かに降りました。
恐らく、またスノー様に怒られないよう静かに着地したのでしょうね。
着地後、クレマチスちゃんが人型になると白い肌の一部赤くなっていましたわ。
スノー様? 最近、照れ隠しや嫉妬、それに色々な感情が態度に出すぎです。
それに、相当強くクレマチスちゃんの背中を抓られましたのね?
確かに龍種の中でも、黄金龍に次ぐ強さになりましたので、少々抓られた位ではクレマチスちゃんは何ともありませんわ。
ですが、スノー様ほどの者が相当量の魔力を込めて抓られては流石にクレマチスちゃんの背中もこうなりますわよね。
「葵様? 私の背中、血が出ていないですか? 弟の黒龍に、引っかかれた時より痛いです」
クレマチスちゃんが髪の後ろをたくし上げ、自身の白い肌を私に見せて尋ねてきましたの。
「赤くなってますわね……。ですが、出血はしていませんので心配いりませんわよ」
明らかな出血は無いものの、内出血は有ります。
ですが、クレマチスちゃんが泣き出すと困るので知らせないでおきましょう。
龍種の中でも最強龍種が一体なので、恐らく数分後には治るでしょうしね。
「葵様、ありがとうございます。グスン」
クレマチスちゃんが、最強龍種が一体であろうと、スノー様の前では形無しですわね。
スノー様とクレマチスちゃん、仲が良いのか悪いのか不思議ですの。
リリー様の事が絡まなければ、スノー様もクレマチスちゃんに優しいですのにね。
「この後の予定ですが、ドーナツ状の島の中心部に向かい、私達が何としてでも澱みの魔石を宿した海の悪魔ニューディブランクを倒す必要がありますの。そうしなければ、リリー様が山にいる澱みの魔石を宿した魔風喰らいのキングスパイダーを倒す事が難しいですの。スノー様も、承知致しておりますわよね?」
倒さなければ、今のリリー様では管理者権限の能力差で澱みの魔石の反応からして、山に封印されていた魔風喰らいのキングスパイダーは倒す事ができませんの。
私が応募した女神システムサービスで、毎週管理者ランクにポイントが付き、リリー様の信者が増えた事でポイントが増え、ランクシステムサービスで1割ポイントアップ。
そして、私の管理者としての元能力である限界突破。
それらを合わせて恐らくリリー様は、私共が澱みの魔石を宿した海の悪魔ニューディブランクを倒せば、レベルアップされると思いますの。
そうなれば、リリー様は権限の差が無くなり、澱みの魔石を宿した魔風喰らいのキングスパイダーの障壁を破壊しシュミーロの神武具までもが使用可能となりますわ。
それに、私達の劣化型神武具同様にシュミーロの神武具にも癖が有りますが、リリー様ならきっと使いこなせる筈ですの。
「承知していますぅにゃん。だからスノーは、全力で澱みの魔物を倒しますぅにゃん」
「葵様、私は知りませんでしたがリリー様の為に頑張ります。そして、スノー様に抓られた所を撫でてもらうのです」
クレマチスちゃんは、お馬鹿さんなのでしょうか?
そのような事を申しますと、
「ビエーン! スノー様、お尻を抓らないでください。グスン……葵様、助けてください。痛いです」
そうなる事は、わかりきっていたことですのに……。
「はぁー……。いい加減にして頂けますかしら、お二人とも? スノー様も、リリー様に言いつけますわよ?」
「……ぅにゃん」
「スノー様? そんな可愛い仕草さで誤魔化されても、葵も流石に堪忍袋の緒が切れますわよ? もう一度申しますが、今からは孤島の中心部に向かい澱みの魔石を宿した海の悪魔ニューディブランクを葵達が協力して倒しますの。ですが、私達の権限も不足しておりますわ。ですので、この劣化型神武具で上乗せするのですが……ギリギリと言うところでしょうね。それを肝において、戦ってほしいですの」
「「――――」」
無言で二人とも頷いてくれたところを見ると、今度は問題無さそうですわね。
あれがリリー様の元へ届けば話は変わりますのに、届くのが遅いですの。
ここまで話したからには、私とリリー様の秘密を語らねばなりませんわね。
リリー様は実を申しますと、二度転生しております。
一度目の転生は、リリー様が私のお兄様でいらした時の事ですの。
私は両親とお兄様とお姉様達と共に、澱みの最上位魔神と、平行世界と異世界における次元の狭間で戦っておりました。
ですが私がミスをして、愛するお兄様が私を庇い犠牲となり、私の魂の一部でお兄様の魂を復活させましたわ。
お兄様の魂は復活したものの、両親は管理者能力を失ったお兄様を異世界へ転生させました。
そして、転生先がこの異世界における最上位管理者様の世界でしたの。
お兄様はそこでも、最上位管理者様と澱みの魔神との戦いに巻き込まれ、今度は肉体を失いました。
肉体を失った兄は、最上位管理者様から一部を譲り受け肉体を再形成致しましたわ。
ですが最上位管理者様は、元々管理者の魂であり更に私の魂の一部が入っていたせいか、その肉体に最上位管理者様しか解けない封印を施し一切の記憶を消去されましたの。
そしてお兄様は、最上位管理者様に異世界に転生させられ、お兄様が自信の元世界だと思われている世界に転生致しました。
転生前に、最上位管理者様から一部を譲り受けたという特殊な状況のお兄様は、肉体を赤子にして私の魂の一部を宿した状態で転生致しましたので、動物に愛され触ったものを癒やすという特殊な能力を持ち合わせていましたの。
そしてあの日、協力者である第二級中位管理者シュミーロ・リタ・コンプレック・ス・ヤロウ君と私と両親とお姉様達は、再び澱みの最上位魔神と、平行世界と異世界における次元の狭間で戦い、お姉様達は澱みの上位魔神に攫われ、魂が欠損している私は負傷し次元の狭間から異世界に飛ばされましたわ。
平行世界と異世界における次元の狭間での戦いは、私の両親と第二級中位管理者のヤロウ君が傷つきながらも、澱みの最上位魔神に勝利し戦いを終わらせました。
その後両親は、私を探してくれていたようですの。
ですが次元の狭間から異世界に飛ばされた私は、負傷し能力が極限まで低下しており自身で帰還が不可能でしたわ。
そして目覚めた時、運命の悪戯か私の魂の一部を感じ取り、お兄様であり鈴様である五歳のリリー様に出会う事が出来ましたの。
ですが、澱みの最上位魔神との戦いの影響なのか第二級中位管理者のヤロウ君の世界にも一部で異変が起こり始めました。
そして、五年後私は再び鈴様であるリリー様に夢の中で逢い、異変に対抗できるよう私の一部である限界突破を授け未来予知も授けましたわ。
しかし、安定している身体と魂に対して私の一部を授けたので恐らく魂と魂が交わる二十歳を迎えた頃に身体に異変が起きると承知してですが……。
魂と身体は別の異世界それぞれの管理者の一部を使って形成したものなので、その身体の異変は回避できなかったですの。
しかし、世界の異変に対しては対処可能であろうと。
更に十数年後リリー様の世界の神と交渉し、未来予知の回避とリリー様の家族にも異変が起きぬように約束を取り付けましたの。
ですがリリー様は運命なのか、未来予知と同じように神の暗号を解き明かし――異変が本格化したその日に、この世界へ。
そして、現在に至るという訳ですの。
つまり、私は葵本体の一部であり能力はスノー様と同じように、リリー様の管理者能力に依存している為、能力としては第三級下位管理者相当ですわ。
但し、孤島にいる澱みの魔石の反応は私達より一つ上ですの。
ですがスノー様達と協力し、葵は必ず澱みの魔石を宿した海の悪魔ニューディブランクを倒します。
私の愛する、お兄様であり鈴様であるリリー様の為に!
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
リリー「クレマチスちゃん、フワフワね」
葵「幼龍姿のクレマチスちゃんは、人気がありますわね。それにリリー様も、
クレマチスちゃんの尻尾がお好きなようですわね」
スノー「――――」
葵「スノー様、上にあるお皿を取って頂けるかしら?」
スノー「葵様、どうぞぅにゃん」
葵「あら、割れていますわね。危ないので、捨てておきますわ。スノー様、
もう一枚頂けるかしら?」
あら、クレマチスちゃん? リリー様に、撫でてもらっていますわね。
スノー「どうぞぅにゃん」
ピシッ!
葵「スノー様、力を入れすぎですわよ? もう一枚お願い致しますの」
ピシッ! ピシッ! ピシッ!
葵「スノー様、お皿を離して下さいまし。お皿が、無くなってしまいますわ」
スノー「葵様、ごめんなさいぅにゃん」
葵「これ位、良いですのよ」
リリー「スノー! モフモフしてあげるから、おいでー!」
スノー「うにゃん!」
葵「ハァー……最近スノー様、あからさまに嫉妬しすぎですの。葵のように
適度に発散しないのがいけないのですわ。このように、プニプニと手を
リリー様の……」
リリー「葵? まだ今朝のこと、反省してないの?」
葵「リリー様、今のは手の体操ですの。深い意味は、ありませんわ」
リリー「葵、今夜は別の布団で寝る事。スノー、今日は一緒にお休み
しようね」
スノー「うにゃん!」
葵「スノー様だけ、狡いですの!」
リリー この後葵は反省したようで、一緒に眠ってあげたのだが、結局朝に
なると悪戯幼狐になるようで、スミレちゃんにロープで縛られていた。
葵がロープで吊り下げられている姿を見て、悪戯幼狐の真似だけは
絶対にしないと心に誓ったスノーであった。




