封印されていた魔物5
【スミレSIDE】
炎龍が、遥か上空から急下降してきている?
だけど、勢いを殺さずに接近している気がするわ。
まさか炎龍は、闘技場に体当たりするつもりなの?
ここには、貴女の赤ちゃんがいるのよ?
あの距離から、勢いそのままで急降下してくるなんて正気を失っているわ。
あんな距離からの降下速度も合わされば、レモンちゃんの障壁があっても闘技場が破壊されるし炎龍もただでは済まないはず。
そうか……匂いでは感じていても、怒りで眼に見えている物が分からなくなっているのね。
ズドォ! ズドォ! ズドォン! ズドォン! ズドォーン! ズドゴォーン!
ギィーヤー! ギィー! ギュー! ギィーヤー! ギィー! ギュー!
今の轟音と鳴き声は?
あっ、そうか。東側で、ワイバーンがアイビーちゃんの能力で。
「スミレちゃん、今の音は?」
カトレア先生が、控え室の椅子の下から顔を出し、お尻を摩っていた。
地面が揺れた時に、椅子から滑り落ちてお尻をぶつけたのだろうか?
「今のはー、私も驚いたわー」
ロベリアさんも、遅れて姿を現した。
あれ? だけど、ロベリアさんは普通に立ち上がったよ?
「今のは恐らく、アイビーちゃんの能力でワイバーンを地に平伏せた音でしょう」
私が説明を終えると、カトレア先生がロベリアさんの手を払っていたので、若しかするとロベリアさんに悪戯されたのと同時に、地面が揺れて尻もちを付いたのかもしれません。
だって、カトレア先生がロベリアさんに
「ちょっと、ロベリアちゃん? 急に、肩紐ずらさないでよ! 地面が揺れたから、滑り落ちて尻もちついたじゃない!」
と言っていたもの。
二人とも仲が良いのは分かったけれど、ソロソロ戦闘なので変な事して遊ばないで下さい。
私もカトレア先生の薄着を見ると、思わず何度も紐に手をかけたくなる衝動にかられます。
ええ、ロベリアさんのその気持ちは私にも分かりますよ。
そもそも、カトレア先生の装いに問題があるのかもしれませんね。
人はなぜか、眼前に紐があれば思わず引っ張り、ボタンがあれば押したくなりますものね。
ですが、ロベリアさんは大人ですよね?
もう直ぐ炎龍と、戦闘に入ろうとしている生徒達が眼前にいるのですから我慢して下さい。
そうは思ってみたものの、ロベリアさんは未だにその衝動のまま、カトレア先生に悪戯をしようとしている。
ロベリアさんは、気儘な猫のような性格なのかもしれません。
可愛い子猫は大好きですが、ロベリアさんを見ていると、大きな大人の雌猫は苦手になりそうです。
私はそっとカトレア先生達から眼を逸らすと、召喚精霊達と遊んでいたレモンちゃんが炎龍を指さした。
「ディーネちゃん、ルフちゃん、水と風の混合障壁を展開して、炎龍が降下してくる勢いを鎮めてもらっても良いかなー?」
「「はい、レモンちゃん」」
ディーネちゃんとルフちゃんがレモンちゃんに返事を返すと、炎龍に向かって手を翳す。
炎龍が降下してくる先に、水と風の合わさった障壁が現れた。
しかし、その障壁を破壊して炎龍が突き進んできた。
「ふうーん。二人の混合障壁一枚で、速度の低下はそれ位なんだー。ディーネちゃん、ルフちゃん、五枚でお願いしまーす」
「「はい」」
ディーネちゃんとルフちゃんはレモンちゃんの指示に従い、両手を翳し五枚の水と風の混合障壁を展開した。
すると、炎龍は四枚の障壁を突き進んだが残り最後の一枚に跳ね返された。
「にひひ。炎龍ちゃんの落下速度と合わせて、それ位ねー」
「レモンちゃん、何をしていたの?」
私がレモンちゃんに尋ねると、レモンちゃんが笑顔を向けてきた。
「炎龍ちゃんの物理的な攻撃力が、大凡分かったよー。同時に、レモンの障壁を増やさないと炎龍ちゃんの攻撃に耐えられない事も分かったよー。スミレちゃん、今から増やしておくねー」
「うん……」
レモンちゃん? もしかして、遊んでいたように見えていたけど考えていたのね。
スミレお姉さんは、レモンちゃんを見直したよ。
レモンちゃんが両手を広げ手を交差させ自ら回ってみせると、闘技場の壁側へ更に障壁が五重に展開され、地面にも新たに障壁を六重に張った。
そして、頭の上に乗っているケットちゃんの尻尾を指で触っていた。
「炎龍ちゃんが攻撃すると、ディーネちゃんの水の障壁が先に蒸発して脆くなったよねー。ケットちゃん、どう思うー?」
そう言って、ケットちゃんの尻尾を指に巻き付けては離して、巻き付けては離してを繰り返していた。
まるで、自身の長い髪の毛で遊んでいるように見える。
私のお姉様も、考える時同じ仕草をする事があるわ。
レモンちゃんの場合は、それがケットちゃんの尻尾なのね。
「ミィー、ミィ?」
「みゃー、だよねー」
「レモンちゃん? ケットちゃんと相談しているようですけれど、何か分かったの?」
「うん。炎龍ちゃんの身体から、異常な熱が出ているみたいなのー」
もしかしてレモンちゃんは、ケットちゃんの尻尾を触っていただけではなく、ケットちゃんと通じ合っていて、ケットちゃんの魔眼で熱量でも確認したのかな?
確か、ケットちゃんの魔眼には様々な事ができると学校の資料に書いてあった。
だけれど、希少精霊すぎて全部は載ってなかったのよね。
ケットちゃんの不思議な魔眼の事を考えていると、ディーネちゃんがレモンちゃんの方を向いた。
「レモンちゃん、水をどのような状態にも変化可能なディーネにお任せ下さい。この闘技場を、氷のフィールドにする事も可能です。そして、ルフちゃんと協力して皆様に炎に耐性がある氷と風の混合の加護を付与致します」
「混合の加護は、ディーネちゃんとルフちゃんに任せるね。だけど、炎龍ちゃんが闘技場にピョンって入ってきたら、この西側だけに氷のフィールドを展開してね」
そうか、この闘技場は繋がっている。
だから、東側には氷のフィールドを張らないように指示したのね。
炎龍の熱が伝わるとしたら、密閉に近いこの西側だけですからね……。
恐らく、ディーネちゃんはその事も計算には入れていたと思うけれど、レモンちゃんは注意を怠らないようにという意味合いも込めたのでしょうね。
「はい、ディーネに任せて下さい」
「ルフちゃんは、炎龍ちゃんの熱で氷のフィールドに貯まる水蒸気を天外に逃がしてねー」
「レモンちゃん、ルフにお任せを」
「それとー、炎龍ちゃんが入ってきたら天井部をレモンが障壁で覆うけれど、一部は開けておくので、そこから必要な物は取り込んで、いらない物は逃がしてねー」
成る程ね。
天井部は、炎龍が逃げられない程度に障壁を網目状もしくは一部を開けるようにして覆うという訳ね。
天井部の障壁の開け方はレモンちゃん次第だけれど、そこから私達が必要な空気を出したり入れたりする。
そして暑くなりすぎないよう氷のフィールドで部屋の温度を管理し、冷やした空気を取り込み風で循環させたりすると……。
耐性がある私達は必要無いかもしれないけれど、カトレア先生達は耐えられないですものね。
だから、ディーネちゃんが先ほど氷と風の混合の加護を付与すると言っていたのね。
色々と、納得いったわ。
「「はい」」
ドゴォォォ! ドゴォォォ! ドゴォォォ! ドゴォォォ!
レモンちゃんの指示に召喚精霊達が応えると、東側から炎龍が障壁を破った時の轟音が聞こえて来た。
炎龍は空中で停止し、爪で水と風の混合障壁を切り裂くと再び降下してきた。
降下する時の加速と強固な身体での体当たりで、ディーネちゃん達の障壁を破壊したのは理解出来たけれど、あの爪も一撃でディーネちゃん達の障壁を切り裂けるんだ。
爪も警戒しないと、いけないわね。
それと炎龍は先ほどの障壁に警戒したようで、速度を調節して降りてくるみたいだわ。
「炎龍が、まもなく来ます。カトレア先生達は、衝撃に備えて下さい」
私はカトレア先生達に、注意を促した。
カトレア先生達は、炎龍の赤ちゃんが気になるようで、赤ちゃんの様子を頻りに見ていた。
炎龍の赤ちゃんは、炎龍の親のように高熱を放っていないようで、カトレア先生達が近づいても平気なようだ。
「ええ。ロベリアちゃん、控え室に戻るよ」
「はーい」
炎龍が、来る!
ビュゥゥゥゥゥゥ!
「ショック アブソープション!」
風と轟音が入り交じる中、私は身構えると再びレモンちゃんが手を翳し魔法を唱えた。
ズドォゴォォォォォォン!
レモンちゃんが、魔法で衝撃を吸収したようだ。
しかし、巨体であるが故に炎龍が闘技場内に着地した瞬間に轟音が響き渡った。
その瞬間、闘技場の空をレモンちゃんが六重の障壁で封鎖した。
レモンちゃんが先ほど魔法名を言ったのは、私と杏ちゃんに特殊な魔法を知らせてくれる為だったみたい。
近くで見た炎龍は巨大で、尻尾の先まで合わせると氷獄の悪魔ドッペルゲンガーの五倍は有ると思う。
この異常に大きな闘技場でなければ、炎龍は入れなかっただろう。
炎龍の赤ちゃんは尻尾も何もかも縛られているので、檻はワイバーンより巨大なのだが、正確な大きさは不明だった。
グガァァァァァァー! フゥゥゥゥゥゥ!
炎龍が叫んだかと思うと、息を吸い込んだ。
不味い! いきなり、ブレス攻撃?
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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リリー「スミレちゃん、杏ちゃん、スイカ割り楽しそうね」
スミレ「はい。リリーちゃん、レモンちゃん百発百中なんですよ。お陰で私達
は、苺味のかき氷とリンゴ味のかき氷を、レモンちゃんに譲りました
けどね。クスッ!」
リリー「凄いね」
杏「まるで、見えているみたいに、棒をスイカに振り下ろすんです。クスッ!
今からレモンちゃんが始めるので、リリーちゃんも如何ですか?」
リリー「うん。じゃー、見ているね。そうだ、次も割れたら宇治金時ミルク
かき氷白玉付きをレモンちゃんに作ってあげるね」
そう言ってスミレちゃん達と一緒に、レモンちゃんの後ろに立つと、
ケットちゃんが振り向き、レモンちゃんの頭の上で方向転換した。
そして俺が笑顔で手を振ると、ケットちゃんは何か伝えたいらしく
ケット「ミィミィ、ミィー」
と訴えてきた。
だけど、ごめんね。スノーがいないと、ケットちゃん分かんないよ。
レモン「ケットちゃん、リリーちゃん見なくて良いから前向いてー」
今の言動からして、レモンちゃん? 完全に、見えているよね?
レモン「ケットちゃんが前見ないと、レモンはスイカが見えないよー」
ケット「ミィー……」
そう言ってケットちゃんは溜め息をつくと、ケットちゃんは前を
向いた。
そして、レモンちゃんはスイカを見事に割った。
レモン「えっへん!」
いや、レモンちゃん?
今の、明らかにケットちゃんの能力を使った不正だよね?
スミレちゃんと杏ちゃんを見ると、二人ともレモンちゃんが
ケットちゃんの不正使用は、承知しているようであった。
二人とも大人だね。偉い!
リリー「スイカも沢山割れたことだし、冷やして後で食べましょ。っとその前
に、スミレちゃん杏ちゃんケットちゃん、お疲れ様。
暑かったでしょ? 宇治金時ミルクかき氷の白玉餡子マシマシ付きを
創るから、一緒に食べよっか」
レモン「レモンも、食べるー! あっ、ケットちゃんもー!」
リリー「別に良いけれど、かき氷食べすぎるとお腹壊すよ? ケットちゃん
は、美味しいミルクあげるね」
ケット「ミィ!」
レモン「かき氷はレモン大好きだから、大丈夫! それに、回復魔法で
バッチリ!」
レモンちゃんのお腹が、少し心配なリリーであった。




