封印されていた魔物4
【シルクSIDE】
リリーに使用許可をもらった劣化型神武具である神の杖グリダヴォルの封印の布を外してみたけれど、私の魔力が異常な状態になったじゃない。
だけど、これは無理。絶対に、扱えないわよ?
私の魔力が安定しないばかりか暴走しそうで、封印を解いた瞬間すぐに最封印したし。
アイビーも爪として装備したけれど、歩く度に闘技場の足下が爪痕状に陥没するので劣化型神武具であるミストルテインを外したわ。
私はそれを見て、劣化型神武具であるミストルテインを装備しなかったけれどね。
神の杖グリダヴォルを使用して、光りの障壁を張ろうとしていたけれど……扱えない劣化型神武具で、もし光りの障壁が暴走してしまうと困るじゃない。
どうすれば良いか考えていると、闘技場の壁を覆っていた障壁が消えてしまった。
慌てた私はリリーにテレパシーをしようとすると、今度は先ほどよりも遥かに強固な障壁が張られた。
恐らく、レモンちゃんが障壁を張ったのだろうと思うけれど、スミレちゃん達もリリーから使用許可をもらった劣化型神武具が変に働いたのかもしれないわね。
扱えない劣化型神武具よりも、子供の頃お父様から頂いたこの杖の方がましよ。
「シルクちゃん、障壁を張ってくれたのね。闘技場の障壁が消えたけど、邪魔だったかしら?」
ホワイト王妃が障壁の内側から、声をかけてきた。
「あっ、ホワイト王妃様。この障壁は、レモンちゃんが張ってくれたようです。この闘技場の障壁が消えたのは不明ですが、闘技場全体に張ってくれたようですよ。それに、私が張る予定だった光りの障壁や、控え室を覆っていた障壁よりも遥かに強固なので」
「そう、なら安心ね。シルクちゃん、ありがと」
「いえ」
そう言うと、ホワイト王妃は国王陛下達のいる奥へ戻っていった。
王妃は私やアイビーの事が心配で、声をかけてきてくれたみたい。
私とアイビーも能力が以前よりかなり向上したとは言え、本格的な戦闘なんて始めて。
況してや、今回はワイバーン達を殺してはならないという条件付きだし。
信用してくれるのは有り難いけれど……リリー? 多少ワイバーンが傷ついても、文句を言わないでよ。
あっ、そうだ!
私が、傷ついたワイバーンを回復してあげたら問題は無いわよね?
殺さない程度に、痛みつけて平伏させる。
だけど、出来れば傷をつけたくはない。
睡眠魔法を……ただ、魔力消費が激しいのが難点で耐性がある魔物に、効果が有るかも不明。
アイビーは優しい所が有るので心配だけれど、どうなのかしら?
「アイビー? どう? 能力でワイバーンの群れを押さえ込めれそう?」
『僕もシルク同様に以前より能力が増したけれど、恐らく先行してくる群れ二十体を押さえ込むのが精一杯だね。残りの人が乗っているワイバーンは、シルクに任せるよ』
「ええ、四人と四体位なら私でも押さえ込めるわ。多少は相手が、傷つく事になるでしょうけどね」
『でも、油断しないでね。リリー様の劣化型神武具を扱えない今は、僕たち自身の能力だけだからね』
「そんなこと、分かってるわよ」
私はアイビーにそう言うと、身を引き締めた。
アイビーの言っている事は、正しい。
実力差がかなり無い限り、手加減をして殺さないようにするのは難しいものね。
リリーから聞いているワイバーンの数は、二十四体。
二十体が先行し、四体は人を乗せて遅れてこちらに向かって来ていると言っていた。
でも今のうちに、私やアイビーに身体能力向上魔法をかけておく必要が有るわね。
「アイビー、身体能力向上魔法をかけておくわ。それに、今回は魔力も使用するので魔力も上げておくわね」
『シルク、お願いするね』
アイビーに、期待の眼差しで見られると嬉しくなっちゃう。
ここは、期待に添えるように格好良く詠唱しないとね。
シルク、リリーの寝言を毎晩研究した成果を見せる時よ。
無詠唱や詠唱短縮なんて、戦闘時には便利だけど思い人へ聞かせるには格好は良くないものね。
「森を守護する風よ! 森を照らす聖なる光よ! 森の生命を守りし大地よ! 森を潤す恵みの水よ! 森の地中に眠りし力の根源たる炎よ! 我は妖精の王女シルク! 我の声を聞き入れよ! 汝らが力を合わせし時、我が力の源は増大する! 故に汝らを纏める我は、汝らの進化を導くものなり! 進化の時は今だ! 汝らは万物を司る精霊の王となる者! 我と彼の者に至高の加護を与え願いに応えよ! 願いに応え聖なる五光で全てを向上させるのだ! ソウル ザ ディベロップ オール アビリティ シュプリーム!」
五色の魔法陣から五色の光りと共に、風、光、地、水、火の五精霊が現れると、私とアイビーに手を翳す。
すると、五精霊の手からそれぞれの色を示した光りが点った。
その光りが、私とアイビーに吸収されたかと思うと全ての能力が向上された。
『シルク、身体能力向上魔法をありがとう。だけど、あんなに長く詠唱しなくても最後の魔法名だけで良い筈だよね? しかも、余計な詠唱も入っていたし。だけど、この前かけて貰った身体能力向上魔法より格段と能力が上がったよ? ……もしかして、リリー様の寝言の真似をしたの?』
「へへーん! 逃げるリリーを、追跡した甲斐があったわ。アイビー、どう? 詠唱が長い方が、格好いいでしょ!」
そう言って、先行してきたワイバーンの群れを見上げた。
だけど、なかなか降りてこないわ。どうしたのかしら?
しかも、少し脅えたようにも見えるし。
そうか、近くに炎龍が迫ってきているから本能でそうなるわよね。
しかし、その中の一体が
「キィー! ギィー!」
っと叫んだかと思うと、一斉に闘技場内に降下体勢に入った。
「アイビー、頼んだわよ! 後から来る、ワイバーンと人は私が抑えるわ」
『うん。僕は、シルクの事を信じているよ。それに、僕もシルクを見習って詠唱するね』
何? 今日のアイビー、格好良すぎるのだけれど?
だけど、心強いわ。
『月の精霊よ! 重力の精霊よ! 磁力の精霊よ! 我は妖精狼の王アイビー・ゼラニウム! 月狼の始祖マナグルムの血を引きし者! 古の盟約に従い姿を現し力を示せ!』
アイビーが詠唱し終わると同時に、二十体のワイバーンが東の闘技場内に侵入。
『ムーン パワー グラビティ マグネティック アトラクティヴ フォース!』
そのアイビー叫びと共に、背後から三体の精霊が姿を見せた。
そして、アイビーに笑顔を見せたかと思うと、眼前の空間が歪み二十体のワイバーンが闘技場の地に落下した衝撃音と共に平伏せた。
ズドォ! ズドォ! ズドォン! ズドォン! ズドォーン! ズドゴォーン!
ギィーヤー! ギィー! ギュー! ギィーヤー! ギィー! ギュー!
くっ! 何よ、あの精霊達。アイビーに、笑顔を見せる必要無いでしょ。
アイビーに笑顔を見せるのは、私だけで良いのよ!
私が文句言っている間に見事に決まったけれど、私の身体能力向上魔法をかけて能力が増したとはいえ、抑えていられる時間は限られるはず。
睡眠に耐性があるワイバーンに効果が有るかは不明だけど、広域睡眠魔法でこの二十体を眠らせてアイビーの負担を少しでも減らさないと……魔力を多く消費してしまうけれど、そんなことは言っていられない。
「アイビー、睡眠魔法を行うので散らばっているワイバーンを出来る限り纏めて」
それに、範囲を少しでも狭めないと魔力消費が異常に多くなってしまう。
アイビーも苦しそうだけど、アイビーに頑張ってもらわないと、連続した多種の睡眠魔法がかけられない。
『うん。――――』
グギャー! グギャー! グギャー! グギャー! グギャー! グギャー!
『シルク、これでどうかな?』
アイビー、ありがとう感謝するわ。
だけど、恥ずかしいから正直に言えない。
「ええ、上出来よ! それにしても、ギーギーギャーギャー五月蠅いわね! だけど、三段構えの睡眠効果で眠らせてやるわ! スリーピング ピルズ ミスト!」
ギャー! ギィー! グギャー! ギュー! ギィーヤー!
やっぱり耐性があって、身体能力向上魔法がかかっている状態であっても、眠ったワイバーンは七体か……。
「次はこれよ! アネスシージャ レイン!」
ギィーヤー! ギャー! ギィー!
麻痺を伴う睡眠効果が有る魔法で、まだ六体も起きているわ。
だけど、状態異常の効果時に威力が増す睡眠魔法はどうかしら?
「そして、これで眠りにつきなさい! インヴァイト トウ ドゥラウジネス ヘイズ!」
ギィー!
嘘でしょ? この睡眠魔法で眠らないの?
……この一体だけ、他の個体よりも数段耐性が有るようね。
恐らく、こいつがこの群れのボスワイバーン……。
だけど、とっておきの睡眠魔法を見せてあげるわ。
「でも、これで駄目なら諦める! グレイト スリーピング フォグ!」
キュ――――――――。
「ハァー、ハァー。眠ったようね……耐性ある魔物は、これだから大変よ」
最後の睡眠魔法は、とっておきだけ有って魔力消費が激しかった。
この魔法が効かなければ、攻撃魔法やアイビーに頼んで物理的に気絶させるしかなかった。
だけど、多重睡眠魔法で眠りについている時間は長くて一時間。
個体によって違うけれど、今の私は身体能力向上魔法で魔力も大幅に上がった。
大幅な能力向上で時間が延びたけれど、延びた時間はおおよそ十分が限界なはず。
その間に遅れてくる四体のワイバーンと、このワイバーン達を指揮している四人の内の誰かを指揮できないようにしなければならない。
アイビーの特異能力の魔力を残すために、私が睡眠魔法を連続使用したけれど、再びアイビーと協力して、私が先ほどの魔法をかけるとして、魔力が足りるかどうか微妙なところかもね?
リリーの聞いていた距離から考えると、十分後にそのワイバーンに乗った者達が来るわ。
私の魔力が足りなかった場合、アイビーの重力、引力、電磁力を合わせた特異能力で平伏せさせた状態にしたいけれど……今のアイビーの魔力量を考えると、無理。
つまり、後は攻撃して気絶させるしかない。
手加減をした状態で、尚且つ殺さないようにして気絶させる。
そんな倒しかたが、私達で出来るだろうか?
私がそう悩んでいると、リカステさんが闘技場内に入ってきた。
「リカステさん、危ないわよ。早く戻って!」
「シルクちゃん、そりゃないだろ? 俺にも、手伝わせてくれよ。まあ、ワイバーン二十体を地に伏せさせた魔法や多重睡眠魔法には正直驚いたがな。あのちっさいのも、凄いな」
「アイビーよ」
「ああ、スマンスマン。アイビーだったか。だが、次に来る奴らはどうする? リリーちゃんに、殺さないように言われているんだろ?」
「ええ、だから最悪四体のワイバーンには犠牲になってもらっても、四人は殺さずに倒すわ」
「可愛い顔をしているのに、怖い事を言うなー」
「ほっときなさい」
「まあ、聞けよシルクちゃん。俺は人に対して、殺さずに気絶せる術はある。元冒険者だからな。その手の依頼は、何度もこなしてきた。だから俺の指示でもって、技を今し方覚えさせた生徒達で対処させる。どうだ? シルクちゃんとアイビー君は、殺さないようにワイバーンを倒してくれ。頼めるか?」
「……ええ、良いわよ。やり過ぎたときは、私が相手を回復させてあげるわ」
「なら、決まりだな。おい! お前らも、来い!」
「「「「はい! リカステ先生」」」」
そう言って、エレモフィラ君とバレリアン君、それにアザレアちゃんとブルメリアちゃんが闘技場内に入ってきた。
正直言って、リカステさん助かったわ。
四体のワイバーンとそれを操る四人、倒すことは出来て生かすにしても半殺しにしてしまう可能性が私は高い。
「じゃー、貴方達にも身体強化魔法をかけるわね」
「「「「お願いします。シルク先生!」」」」
はうっ! 生徒達に、シルク先生って言われるとなぜか気持ち良いわね。
「俺にも、一応頼む。何か有った時に、いつでも出られねえといけねえからな」
「ええ、リカステさんにもかけるわよ。皆、私の前に集まりなさい」
「「「「はい、シルク先生!」」」」
「おう」
はうっ! 何よ、もぉー。この子達、可愛いわね。
「詠唱破棄! ソウル ザ ディベロップ オール アビリティ シュプリーム!」
リカステさんを含む、生徒達皆に身体能力向上魔法がかかった。
「シルクちゃん、さっきの格好が良い詠唱はどうした?」
「あれは、少し格好つけたかっただけよ。別に意味は無いし。詠唱破棄の方が、生徒達には実践的でしょ?」
「まあな、でも生徒達が期待していたんだが……」
「そんなの、知らないわよ!」
アイビーと二人だけで対処しようと考えていたけれど、これならリリーの期待に応えられる。
私とリカステさんが話しをしていると、兵士達や騎士達が二十体のワイバーンを動けないように鎖で縛ってくれていた。
ただ次に来るワイバーンは、先ほどの魔法が通じるかは不明だわ。
気を引き締めないと……他の皆は、大丈夫かしら?
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
リカステ「お前ら、俺の話をよく聞け。いいか、人を気絶させるには幾つか
攻撃する場所がある」
エレモフィラ「先生! やっぱり、殺し屋だったのですか?」
リカステ「エレモフィラ君、前に来い」
エレモフィラ「えっ? あっ、はい。グフッ! ……」
リカステ「このように、一撃で相手を気絶させる場所は幾つもある」
バレリアン「先生、顔が怖いです。本当に殺し屋だったんですね」
リカステ「バレリアン君、技を教えるから、ちぃーっと来い」
バレリアン「はい。ガハッ! ……」
リカステ「なっ? お前ら、人を気絶させるのは簡単だろ?」
アザレア&ブルメリア「先生! 分かったので、エレモフィラ君と
バレリアン君を起こしてあげて下さい」
リカステ「おうよ」
こうして、生徒達は人を気絶させる技を覚えたのであった。




