封印されていた魔物1
【カトレアSIDE】
通路に繋がる扉が開かれたと思うと、アイビーちゃんの上にシルクちゃんが乗って私のもとに来た。
続いて、ウインドウォーター王国の近衛兵とフォレストムーン王国の騎士団が入ってきた。
「何だ何だ?」
リカステが驚いているけれど、一体これは何事?
両国の兵と騎士達が交流試合中に、私達とルバーブ先生達の選手控え室に入ってくるなんてただ事では無いわ。
あちらの選手控え室では、アバランチ君とオータムフラッド君がウインドウォーター王国の近衛兵ともめているし。
もしかして、ルバーブ先生が騎士達に命令して運んできた炎龍の赤ちゃんの件かしら? 炎龍はこの国の象徴だと誰もが周知している事で、変だとは思っていたけれど、やはりそういう事なの?
シルクちゃんが部屋の中心に飛んでいくと、入ってきた両国の兵に指示を出す。
「ウインドウォーター王国の王妃専属近衛兵及びフォレストムーン王国の騎士団は啓示の通り行動しなさい。避難誘導後、この控え室を警護。リリーから持たされている神武具で私の魔法を増幅し、この控え室とあちらの控え室に光りの結界を張ります。急いで下さい」
「「「「「「はっ!」」」」」」
シルクちゃんが近衛兵達に指示を出すと、驚いた事にウインドウォーター王国側の控え室から入ってきたウインドウォーター王国の王子達と近衛兵達が闘技場内に入りルバーブ先生達を捕縛した。
別働隊であるシルクちゃんが指示した近衛兵とフォレストムーン王国の騎士達が、貴族席にいる貴族や客席にいる観客やウインドウォーター王国の生徒達を外に誘導していた。
「シルクちゃん、これは一体どういう事なの?」
「カトレア先生、ロベリアさん、リカステさん、この闘技場に西の火山島から炎龍、それに東からはワイバーンの群れと、遅れてワイバーンに乗った人達が来るわ。リリーとユグちゃんは、封印されていた魔物が復活した山の奥へ向かい、スノー様、葵ちゃん、クレマチスちゃんは、封印されていた魔物が復活した海の孤島へ向かったわ」
シルクちゃんの言葉に、ウインドウォーター王が慌て出す。
「馬鹿な! 封印されていた魔物が、復活しただと?」
「はい。ですので、リリーとスノー様達が向かいました」
「いや、待て。あの二体の魔物は、先代の妖精王の教えを受け、海の孤島と山に幾つもの封印魔法陣を設け、国にいた全ての魔法士達で儀式魔法を行い、封印したものだと聞き及んでおる。封印せねばならぬ魔物を、そのような人数で倒せるのか?」
慌てているウインドウォーター王を、フォレストムーン王が呼んだ。
「ウインドウォーター王よ、私から伝えねばならぬ緊要がある。こちらに、来てはくれぬか?」
「封印が解かれた、魔物よりも緊要か?」
「それより遥かに、緊要だ」
「うむ。ならば聞こう」
※ ◇ ※
【ルーフス国王SIDE】
フォレストムーン王から聞かされた話で、私は肝を冷やした。
フォレストムーン王国の南西に位置する大洞窟で起きた魔物の大量発生と、その地に存在しない筈の魔物と元凶であた巨大ゴーレム。
魔物によるスタンピートが発生した場合、フォレストムーン王国だけに被害が出るとは限らないのだ。
もし西や北や南に向かった場合、我が国に大量発生した魔物が、海や山、それにフォレストムーン王国に向かう道から押し寄せて来ない保証はどこにも無い。
それを未然防いだのが、女神リリーだと言うのだ。
俄に信じられなかったが、証拠が有ると言った。
証拠は何だと尋ねると、薄すぎて透けており羽のように軽いが、鉱石のようで金属のような不思議な物を、フォレストムーン王は胸元から出してきた。
そして、これを何をしても良いから傷を付けるようにと言われた。
私はフォレストムーン王国の騎士の武器を借りて、体重をかけて突いてみた。
しかし突いても切ろうとしても何もできず、傷一つ付かなかった。
フォレストムーン王に確認を取ると、それは巨大ゴーレムの一部らしい。
しかも、フォレストムーン王国随一の剣聖と言われている騎士団総長が、ミスリルの剣で攻撃しても一切傷が付かなかったと申しておった。
実際、女神リリーが目の前で巨大ゴーレムを切って見せてくれたらしいが、フォレストムーン王の調査技師団や鍛冶屋では、切る事も砕く事も高温の火で溶かす事も何も出来なく、この得体の知れない物は結局調査する事が不可能だったらしい。
しかし、それだけではなかった。
フォレストムーン王国の王都を、魔物の軍勢約九百万体が覆ったと言うのだ。
しかも魔物の軍勢だけでなく、アンデットエンペラーとドラゴンゾンビまでもが……。
それに南の森に何者かが転移魔法陣を設置し、その転移魔法陣から氷獄の悪魔ドッペルゲンガーと氷眼のサイクロプスが現れたと……。
このどれもがフォレストムーン王国の結界に阻まれ、もし我が国に目標を変えたのなら、我が国は滅んでいたかもしれん。
つまり、我が国もフォレストムーン王国同様に女神リリーに救われたと言うことだ。
私は女神は、自ら戦わないと考えていた。
しかし、その全てを女神リリーが未然に解決したと言うのなら、封印されていた魔物さえも打ち倒すことが出来るやもしれん。
私は、フォレストムーン王の言葉を信じることにした。
※ ◇ ※
【カトレアSIDE】
フォレストムーン王は、自身の騎士達にウインドウォーター王と自身を囲ませ、私達に聞かれない様にしていた。
何を、話しているのだろう?
本当に、緊要なのだろうか?
いくらリリーちゃん達が私達より次元が違う強さを持っていたとしても、封印された魔物よ?
ウインドウォーター王が慌てるのは、私でも分かる。
「はー、続きを言っても良いかしら? 時間が、無いのよ」
シルクちゃんが溜め息をつくと、フォレストムーン王国の第一王女? がウインドウォーター王国の王妃に話しウインドウォーター王国の王妃が頷き言葉を発した。
「ええ。国王陛下達は、緊要を話されているのでシルク様お願いするわ」
「はい、王妃様。では続として、リリーの指示で西の火山島からやって来る炎龍は、スミレちゃんとレモンちゃんと杏ちゃんに任せます。これは、現時点でこの闘技場内にいる最大戦力が彼女達だからです。私達は、東から来るワイバーンの群れを相手にしなくてはなりません。ですが、決してどちらも殺さないようリリーから指示を受けているので、先生達も協力して下さい。国王陛下様達はリリーの指示で、城に戻るには時間が無いので、一番防御魔法が重厚な選手控え室のこの部屋に来てもらいました。ですので、カトレア先生達と生徒の皆で両国の国王陛下様達を守護して下さい。私とアイビーは、ワイバーンの群れを殺さないように押さえ込みます」
ルバーブ先生が、ワイバーンと炎龍の赤ちゃんを檻に閉じ込めて連れてきたかと思うと、緊急事態に陥った。
何もかも分からない事だらけだけど、どうやらあのワイバーンと炎龍の赤ちゃんはウインドウォーター王国側ではなく、ルバーブ先生個人が捕縛したものらしい事は分かった。
だけど、一個人が捕まえる魔物の範疇を超えているわ。
ワイバーンは無理をすれば貴族の騎士団で捕縛できるかもしれないけれど、炎龍の赤ちゃんはどう考えても無理。
今は動けないよう何重にも捕縛されているけれど、例え赤ちゃんでも炎龍だけあって炎のブレスや攻撃力も凄まじいですもの。
「ええ、シルクちゃんの指示に従うわ。リカステ、ロベリアちゃん、良い?」
私は二人の顔を見ると、リカステが頷いた。
「ああ……スミレちゃん以外は分からないが、スミレちゃんは俺達よりも強いからな。炎龍を抑える事が可能なのは、スミレちゃん位しか思い浮かばん。だが、危なくなったら俺も出るからな」
リカステの言うことは、分かる。
氷獄の悪魔ドッペルゲンガーを倒した時、スミレちゃんは魔法や技をリリーちゃんから禁止されていた。
にも拘わらず、上段から斜めに切っただけで私やリカステの技による攻撃よりも遥かに鋭かった。
それに正直いって、リリーちゃんとスミレちゃんの練習風景は常識を逸脱していた。
リリーちゃんはスミレちゃんの技を全て打ち消していたけれど、スミレちゃんの一撃一撃が、既にS級指定されている魔物を一撃で葬り去る力を持っていた。
「ええ、勿論その時は私も出るわ」
リカステも一緒に見ていたから、その事は分かっているようだけれど、私達は彼女達の先生ですものね。
彼女達が危険に陥った時は、私自信の身を挺してでも絶対に守ってみせる。
「カトレアちゃーん? 私の固有能力をー、使いましょうかー?」
ロベリアちゃんも心配してくれているけれど、この子の能力が失敗すると、周り全てが影響を受けるものね。
一点集中で相手に食らわせれば、効果は絶大なのだけど……。
「それは止めて! 制御を謝ると、この付近の人達だけで無く何もかも纏めて同時に遅くなるでしょ!」
「えー! だってー、私も手伝いたいよー」
この場にいるSランク冒険者は私とリカステだけだから、Aランク冒険者のロベリアちゃんが手伝ってくれるのは正直言って嬉しい。
だけど、ロベリアちゃんの失敗が何より怖いのよね。
「気持ちだけで良いから、ロベリアちゃんはじっとしていてね」
「うー……」
唸って、どさくさに紛れて肩の紐をずらさないで。
「ちょっと、ロベリアちゃん服引っ張らないで」
危なかった。
手で押さえ無かったら、もう少しで脱げるところだったわ。
アクセサリーをリリーちゃんから貰ったのだから、もうロベリアちゃん悪戯しないでよ。
それに何でいつもいつも、私を脱がそうとしてくるの?
もしかして、私が遅緩のロベリアって二つ名を広めた事に気づかれた?
いえ、それは無いはずよ。
だって、名付けた事を知っているのはリカステだけですもの。
……まさか、リカステ?
「痛てっ! カトレア? なぜ、俺を叩くんだ?」
「何となくよ!」
リカステに憂さ晴らしをしていると、ウインドウォーター王国の王妃様の隣にいる王女様? が手を上げた。
あれ? でもよく考えたら、確か第一王女様は帝国に嫁ぎに行った筈よね?
第二王女様は、その隣にいるし……誰?
「シルクちゃん、少し良いかしら?」
「はい、ホワイト王妃様」
はい? ホワイト王妃? って、フォレストムーン王国の王妃様?
ちょっと、待ってよ。
第一王女様だと思っていたら、王妃様だったの?
でも確か、王妃様って三十代じゃなかった?
それに、この前見た時より明らかに若返っているわよね?
私の眼が、おかしいの?
リカステとロベリアちゃんに眼で合図をしてみると、二人とも私のように不思議がっていた。
だけど、今はそんな事を気にしている場合じゃないわ……と考えながら、今度リリーちゃんに聞いてみよう。
「シルクちゃん、この闘技場にある機能を使って東と西で戦力を二分しては如何かしら?」
「ホワイト王妃様、闘技場にそのような機能があるの?」
「ええ。お兄様、この闘技場の事を説明しても良いかしら?」
ホワイト王妃が、先ほどまで狼狽えていてフォレストムーン王と緊要な話をされていたウインドウォーター王に聞いている。
ウインドウォーター王は、フォレストムーン王と緊要を話されて、封印されていた魔物の件で、リリーちゃん達だけを向かわせた事に納得をしたのかしら?
私達は実際にリリーちゃんの能力を何度も見ているので、この布陣に対して何も言えないけれど……。
だけど、この巨大な闘技場の秘密も気になるわね。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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アイビー『リリー様、シルクが眼を何度も瞬きさせて来るのですが……』
リリー「ウインクじゃないの?」
アイビー『違うようなのです』
リリー「アイビーが聞いてみたら、良いのでは?」
アイビー『聞こうとすると、分かりなさいよ! っと言ってくるのですが……』
リリー「私が、聞いてあげるわね」
ウインクだと思うのだけど、両目で瞬きされても分からないよね?
リリー「シルク? アイビーに、ウインクしているの?」
シルク「違うわよ! アイコンタクトよ! リリー、聞いて。アイビーに
お菓子を持ってきてって眼で訴えているのに気づかないのよ」
必死に両目でウインクをしている姿を見て、アイビーに本当の
ウインクをする時の事を考えて、事前に決めておかないと瞬きに
しか見えないよ? と言えないリリーであった。




