強面のリカステさんが恐れる者
騎士長とたわいもない話をしていると、目的の宿屋に着いた。
闘技場近くにある美しい噴水広場が見える宿屋だけあって、かなり大きい。
馬車を止める場所も広く、宿屋の従業員が馬車を案内している。
観光客が多く利用しているようで、様々な人種の人が行き交っていた。
この宿屋の利用料金は、かなり高そうだ。
カトレア先生、俺達をお詫びに誘おうとしていたけれど、この宿屋の代金リカステさんに全て払って貰うつもりだったのではなかろうか?
とてもじゃないけれど、金欠の人が払える宿代ではないと思うよ?
俺が思わず立派な宿を見上げていると、騎士長が俺を下に降ろした。
騎士長の顔を見上げると、額に汗が出ていた。
「リリーちゃん、この宿屋で良いのだよな?」
カトレア先生に聞いているのは、闘技場が近く噴水広場が見える宿屋なのでここで間違いないはずだ。
あとは、宿屋にいる宿泊受付の人にでも確認すれば分かるだろう。
それにしても、大きな噴水広場だ。
噴水の散水効果があるので、暑くても何も無い所より涼しく感じられる。
ここまで俺を抱っこしていたが、騎士長は暑くはなかったのだろうか?
騎士長の服を見てみると、俺が腰掛けていた辺りにお尻の跡がくっきり付いていた。
俺の服には汗の跡は付いていないが、騎士長の服に残るお尻の形の汗染みが少し恥ずかしい。
恥ずかしさのあまり頬を染め、騎士長を見上げ
「騎士長さん、ありがとうございます」
とお礼を伝え、宿屋の入口に向かおうとするとカトレア先生が出てきた。
カトレア先生、その服水着ですか?
下はショートパンツですが、上はいつもより際疾いですよ?
「ふぅー。風は有るけれど……リカステ、やっぱりこの国は暑いわね。宿屋の前が噴水広場だから、他の宿より増しだけれど、買い出し行くのが億劫ね」
「カトレア? お前それ以上、服を脱ぐなよ。まさか、下着姿にでもなるつもりか?」
「リカステ? そんなの、もうここに来た時に脱いだわよ。下は、穿いているけれどね」
「……お前な? 少しは、恥じらえよ!」
相変わらずカトレア先生は、布の少ない服を着ているがやっぱり上は下着を着けてないんだ。
汗ばむと、透けるかもしれないよ?
まあその辺りは、父親みたいに気遣ってくれている、リカステさんが何とかするだろうけれどね。
「リリーちゃん? まさか、あの破廉恥な服を着ている人が冒険者学校の先生ではないよな?」
「騎士長さん……周りの子供に悪影響がある服を着ているのが、私の学校の校長先生なのですが目の毒なので帰りましょうか?」
「いや、済まない。言葉を謝った。涼しげな装いの……」
「騎士長さん、謝らなくてもいいです。カトレア校長先生は、どこへ行く場合でも布が少ない服を着ていますが、早さを厳守している戦闘スタイルなので仕方がないようです」
「成る程な。それは仕方がない。うむ」
騎士長はカトレア先生の服装に、目のやり場に困っているようだ。
カトレア先生の服装について、騎士長と話をしていると俺に気がついたようで手を振っている。
「リカステ、リリーちゃんがいるわよ。私、行ってくるわね」
「おい、カトレア! 走るな! 出ちまうぞ」
先生、布の面積が少ない上に下着をつけて無い状態で走ってくると、ロベリアさんに悪戯される前にポロリしますよ?
それに、隣の騎士長の顔が真っ赤になってきたじゃないですか?
あと、なぜ両手を広げて近づいて来るんですか?
俺は思わず、騎士長の足に隠れた。
「リリーちゃん、宿に来てくれたのね。寂しかったでしょ? 先生が、抱っこしてあげよっか?」
そう言って先生が側に来たので、俺が騎士長に先生の事を紹介する事にした。
だって騎士長の事が眼に入ってないし、俺を捕まえようとしているのが分かるからね。
「騎士長さん、こちらが冒険者学校の校長先生、着ている服の布の面積が少ない破廉恥なカトレア先生です」
寂しかったのは、カトレア先生の方でしょ?
変な紹介のしかたされているのに、抱っこしようと身構えないで下さい。
遂に捕まった俺は、カトレア先生に対して頬を膨らませた。
「リリーちゃん? 酷い紹介のしかた、しないでよ。もおー!」
そう言いながら、抱っこして頬を人差し指で触れてくる人は誰ですか?
俺がむくれた状態で、カトレア先生に頬を触られていると、我慢できなくなったリカステさんが吹き出した。
「ぶふぉ! カトレア、リリーちゃんに酷い言われようだな」
吹き出す顔が怖いよ、リカステさん。
本当の幼児だと、きっと泣き出すよ?
ほら、見てよ!
騎士長が、警戒態勢に入っているでしょ?
もぉー! 仕方がないな。
リカステさんの笑っている姿があまりにも怖いので、俺が騎士長にリカステさんの事も紹介する。
「そして、こちらが犯罪者のような怖い顔をしていますが、紳士的な行いをいつもしてくれるリカステ先生です」
「ぷぷ! リカステこそリリーちゃんに言われているじゃない」
「ほっとけ!」
二人の事を紹介すると、騎士長も自信の事をカトレア先生とリカステさんに紹介し笑顔で去って行った。
どうやらカトレア先生達と俺が、信頼しあっている上に仲が良い事が分かったようで、安心して任せられると思ったようだ。
「リリーちゃん、俺の紹介も酷くなかったか?」
「でもこの方が印象的で、騎士長さんはカトレア先生とリカステさんの事を忘れないと思いますよ」
それに、騎士長が思わず警戒態勢に入った位に極悪な笑い顔になったの本人気づいてないのかな?
吹き出した時は大丈夫だったけれど、その後に笑うの我慢したでしょ?
笑うのを我慢するから、極悪な笑い顔になるの!
カトレア先生、教えてあげたら良いのに。
「そうなんだけどよ? 可愛い子に言われると、流石に俺も傷つくぞ?」
「リカステ、顔の割りには繊細なのね?」
「カトレア、うるせえよ!」
二人とも、良いコンビなんだからカトレア先生教えてあげてよね。
リカステさんだけ、カトレア先生を気遣っている所が有るから、逆に言えないのかもしれないけれどね?
話を聞いていると、カトレア先生とリカステさんは今から買い出しに行くらしい。
生徒達は学園から食事代などが全てが支払われているので、当然この宿代と食事代も学園から支給される。
遠征費としてカトレア先生とリカステさんの宿代は出るが、食事代は出ないのだ。
それにロベリアさんの宿代と食事代も出ないので、リカステさんが支払う事になっている。
なので、少しでも食事代を減らすためにカトレア先生達は買い出しに行くという訳だ。
「カトレア先生、リカステさん? もし良かったら、私の家に来て食べます?」
「「えっ? へっ?」」
微妙に驚き方が違うが、二人の声が重なった。
リカステさんの驚いた顔は怖いので、カトレア先生の顔を見ると瞬きをしている。
「リリーちゃんのお家って、フォレストムーン王国にあるでしょ?」
カトレア先生の言葉に、リカステさんが相づちを打つ。
「だよな?」
二人が顔を見合わすが、やはり理解が出来ないようだ。
まあ、それはそうか。
フォレストムーン王国に家が有るのに、ウインドウォーター王国にまで家が有るのは、常識から考えると貴族しか有り得ない。
それに王族であるスミレちゃんがいる事で、王族とは特殊な関係であると思ってはいても、貴族の両親がいない時点で別の国に家が有るとは思わないよね。
「ホワイト王妃様所有の、浜辺と土地に家を建てる許可を王妃様から頂いたので、ウインドウォーター王国に別荘を建てました。昨日も王妃様と第二王女様が遊びに来ていましたが、今日のお昼にはウインドウォーター王国の城に戻られている筈ですので、カトレア先生達が良かったらと思ったのですが?」
「「ハァァァァァァ?」」
「部屋も沢山有るので、カトレア先生達が泊まることも出来ますよ。ここの場所も登録しましたので、テレポートでいつでも来る事が出来ますしね。ですが、この宿が良いと仰るのなら私はユグちゃんと一緒に帰りますが……」
「いや、リリーちゃん? 騎士長が、ここまで送りに来てくれたと言うことは一人で帰れないのだろ? 俺とカトレアが、家まで送っていこうか?」
リカステさんは俺の申し出に乗る気はあるようだが、カトレア先生の指示に従わなければならない。
なので俺の事を考えて、送ると言ってくれたのだろう。
それと恐らく、送っている間にカトレア先生の考えが纏まるとでも思ったのだろう。
「宿屋を今から断って、生徒達を一緒に連れて行くのは良い。だけど、ロベリアちゃんがこの宿を気に入っていて、夕食をリカステのお金で予約をしたでしょ?」
当の本人は、今必死に考えている様子だ。
俺を下に降ろして、両手を組んでブツブツと呟いてウロウロしている。
どうやらカトレア先生は、ロベリアさんの事で悩んでいるようだ。
でも考えが纏まったようで、リカステさんを指さしている。
「リカステは、生徒達とロベリアちゃんと一緒にいなさい。私は、リリーちゃんの別荘に行くから。それなら、ロベリアちゃんの食事代だけで済むでしょ?」
どうやらカトレア先生は、ロベリアさんが気に入っているこの宿を断る事に、戸惑いを感じているようだ。
確かに、勝手に断ってロベリアさんの悪戯が益々激しくなると、カトレア先生のポロリが確実になってしまうからね。
「おい、カトレア! ロベリア嬢ちゃんの事を、俺に押しつけるのは勘弁してくれ。昨日の宿で風呂上がりにロベリア嬢ちゃんから【カトレアちゃんにまだがーって言っておいてね。エヘヘー】って言われたんだぞ! 俺には意味不明だが、ロベリア嬢ちゃんのあの笑顔でのエヘヘーは非常にまずい! ロベリア嬢ちゃんが、昔何て言われていたかカトレアも知っているだろ? 微笑む小悪魔! 緩慢のロベリア又の名を遅緩のロベリアだぞ!」
また、偉い通りだよな。
しかも二つ目の通り名は、漢字が変わると……恐らく二つ目の通り名は、ロベリアさんの被害をよく受ける、カトレア先生が付けたのではなかろうか?
だけど、リカステさんどれだけ怖がっているの?
って言うか、リカステさんの顔が怖い!
そもそも、リカステさんが恐れるエヘヘーって、フロックスさんが言っていた可愛い悪戯じゃなかったの?
カトレア先生が、身震いしているよ。
「リリーちゃん、作ってくれた?」
そんな泣きそうな顔で見られても、言われた通りちゃんと創りましたので安心して下さい。
まあ何となくこの国に来るまでに、何度も何度も脱がされそうになったのは想像できるけれどね。
「はい、創りましたよ。なので、カトレア先生もう心配いりませんよ」
「あぁぁぁ……良かったわ」
カトレア先生が、胸を撫で下ろして両手を組んで祈ってる。
それに、リカステさんまで安心した顔になっているよ。
「はー、それを聞いて俺も安心したぜ」
二人を恐れさせる、ロベリアさんのエヘヘーって一体何?
まあでも、俺はロベリアさんがお菓子を貰って喜んでいる姿しか想像出来ないのだけれどね。
それに、初めてロベリアさんに会った時も凄く親切たっだしね。
「カトレア先生、提案が有るのですが?」
「リリーちゃん、何ー?」
「この宿屋の宿泊を断る前に、一度皆で私の別荘に来ては如何ですか? 宿を断るのなら、それからでも遅くはないですしね」
「じゃー、行くー!」
蟠りが解決したようで、カトレア先生の返事が軽い。
リカステさんも調子が戻ったようで、カトレア先生の軽い返事に応えている。
「カトレア? お前、お金がかからないと分かると本当に調子良いな」
「だって、死活問題なのよ!」
「お前が調子こいて、人形や服を作りすぎたからだろ! それに、今月お前の食事代を全て払っているのは俺なんだが……」
そう言って文句を言いながらも、リカステさんが宿に行き、ロベリアさんと生徒達を連れてきた。
序でにロベリアさんとも交渉したようで、納得して宿屋と夕食の断りを入れてきたようだ。
リカステさん曰く、ロベリアさんに俺の家に今から行く事と宿屋や夕食の件を伝えると
「リリーちゃんの家で食べられてー、宿泊も出来るなら行くわー。だってー、この宿で食事をするよりもー美味しいのは分かっているものー。お菓子ー、凄く楽しみー」
だそうだ。
ロベリアさんとは、選抜試験が終わって帰る時にお菓子をお強請りされてから以降、会っていないからね。
それにしてもリカステさんは、やはり行動が紳士的なようだ。
宿屋から出てくる時や買い物をする時も、カトレア先生やロベリアさんだけでなく、アザレアちゃんやブルメリアちゃんにも自然にレディーファーストを心がけているし、服装はカトレア先生と違っていつも上品で身を引き締めているし、気配りも行き届いているし、褒め上手だよね。
まあ、カトレア先生と一緒の時は感情を制御出来ていない事が多いけれどね。
だけどエレモフィラ君とバレリアン君には、紳士的な行動を自然に振る舞えるよう指導しているし……後は、顔も紳士な顔立ちだったら良かったのにね。
リカステさん、ごめんなさい。言い過ぎました。
そんなわけで、カトレア先生達と生徒達と一緒に買い物をして別荘への家路につくのであった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シルク「リリー、悪魔が玄関から入ってきたわよ?」
リリー「悪魔なんて、いないよ?」
シルク「え? じゃあ、何なのよ? あれは」
リリー「えっ? でも、前も家に泊まった事が有るでしょ?」
シルク「泊まった事なんて、無いわよ」
リリー「リカステさんの事じゃ、ないの?」
シルク「リカステさんは、顔が怖いだけでしょ?」
リリー「じゃあ、誰のことなの?」
シルク「小さな悪魔の、囁きが聞こえないの? エヘヘーって……」
リリー 妖精のシルクにまで小悪魔だと思われる、ロベリアさんエヘヘーって
一体?
なぞの小悪魔になりつつある、ロベリアであった。




