王子を追いかけるのは良いが、後ろには気をつけようね。
俺は五歳の容姿になって、思わず近くの木箱に隠れた。
この木箱は小さいが、五歳の容姿だと上手く隠れることが出来る。
それに幼女が木箱で隠れていても、隠れん坊でもして遊んでいると思われ、不審に思われない筈なのだ。
様子を眺めていると、どうやら第三王子と第三騎士団長は商店を見て周り、商店の人達と交流をして商店街や町の治安維持に努めているようだ。
確かに、物を売っている店の周りが治安が悪化しやすい場所でも有るからね。
巡回騎士達に任せずに、自身で商店の人達と交流して情報を集めている所も、この国の民のことを考えて行動していることがよく分かる。
俺が助けられた時も、恐らくごろつきの情報を商店の人達に聞いてたのかもしれない。
第三王子で王位継承順位は不明だが、王になればきっと良い王になるのだろう。
そう勘考しつつ、第三王子と第三騎士団長が移動する度に、木箱から木箱に
「うんしょ」
と言って移動し様子を窺っていると肩を叩かれた。
「ふぇっ! 今、第三王子様の良いところを見ているので待って下さい」
肩を叩かれ少し驚いたが、商店の重そうな荷物を第三王子と第三騎士団長で一緒に運んでいるのだ。
王族が、ここまで親身になっているのは珍しい光景である。
しっかりと眼に焼き付けて、スミレちゃんがまた王子の事を好きになれば、応援の為に王子の行動を伝えてあげるのも悪くは無い。
「――――」
それに、肩を叩いてきた者が何も言って来ない所を見ると、大した用事ではないのだろう。
大方、
「木箱を片付けたいので、幼いお嬢ちゃんそこを退いてくれるかい?」
とでも言いたいのだろう。
幼女には、丁度いい遊び場になる木箱だからね。
なので、第三王子が次の場所に行こうとしていたので俺が追いかけようとすると
『「リリー様、そのまま立つと、第二の門にいた騎士長に首根っこを捕まれますよ」』
とユグドラシルから『心情』が伝わって来た。
因みにユグドラシルは、杏ちゃんと別れた時から姿を消している。
『「ユグちゃん、教えてくれてありがと」』
とユグドラシルに『心情』でお礼を伝えたが、一歩遅かったようだ。
俺は五歳の容姿になると、なぜか発動する【何にも無い所で転ぶ】スキルを発動した。
そして前に転びかけると、子猫のように装いの首元を騎士長に捕まれた。
「はう!」
「済まない。癖で、逃げようとする子供の服を掴んでしまうのだ。それに、上より話しは伺っているので警戒しなくてもいいぞ?」
上からって、この国の国王陛下やフォレストムーン王国の国王陛下の事でしょ?
ユグドラシルがいるんだから、隠していても分かるよ。
それに、国王陛下達から事情を聞いているのならサッサと降ろして欲しいです。
未だに俺は、装いの首元を持たれて宙ぶらりんなのだ。
まるで、悪さをして捕まった猫のようだ。
「しゃー!」
なので、猫の真似をして騎士長の顔を引っ掻こうとするが手が届かない。
しゃー! しゃー! 言って、俺は何度も引っ掻こうとした。
そして、宙ぶらりんで猫の真似をする幼女は案の定
「ひゃう! 脱げちゃう」
装いだけを捕まれているので、ズルズルと下に落ち子供パンツが見える状態になるのだ。
「……服が脱げるので、騎士長さんソロソロ降ろして下さい」
と言って、装いの首元から涙目で訴えた。
十五歳の容姿になれば足をつく事が出来るのだが、大人っぽい下着が露わになるので容姿を変更しなかった。
だって、十五歳のサービスシーンは五歳のサービスシーンとは訳が違うからね。
「あっ! 済まない」
そう言って、下に降ろしてくれた。
それにしても、騎士長の俺に対する扱いがあまりにも酷いのだが一体どう聞いているのだろうか?
「騎士長さん、因みに私の事をどう聞いているのですか?」
「私は歩哨達を束ねる騎士長なのだが、騎士団の副部隊長からはフォレストムーン王国の国王陛下が甚く気に入っている天空より舞い降りた舞姫の娘だと聞いておる。それに、容姿が変わるので注意しろと」
騎士長さん、ちょっと待ってほしいよ。
第三王子の言っていた話しとは、微妙に? いや、かなり違うと思うのだけれど?
一体どこで、変わったのだろうか?
伝言ゲームじゃ、ないんだからね!
と言うか、ちゃんと報告書にあげて伝えなさいよ。
……成る程、そう言うことか。
フォレストムーン王国の国王陛下の取り計らいにより、極秘扱いで文章にあげてはならないと。
確かに、国王陛下の取り計らいではあるが、真実ではなく口実な訳で報告書になると残っちゃうからね。
ユグドラシルからの心情で、報告書として騎士長に伝わっていない意味が分かった。
まあでも、どこかの国の王女のように騎士長に扱われては困るので良いのだけれどね。
「で、騎士長さんはどうしてここに?」
「幼女が一人で遊んでいるが、迷子では無いだろうかと通報があったのでな」
「――――」
五歳の容姿は、幼すぎたか……フォレストムーン王国では、問題なかったのにね。
これも、国による違いなのだろう。
周りを見ると、俺のような大きさの子供は母親が抱きかかえている。
周りで遊んでいる子供は、もっと大きな子供だ。
年齢を十歳にしていれば、周りの子供に紛れて良かったのだが木箱の陰に隠れるのには五歳の大きさが最適だったのだ。
そう勘考していると、急に目線が高くなった。
どうやら騎士長が、俺を抱き上げたようだ。
まあ、手を引くにしても身長差が有るので無理があったのだろうし、逃げるとでも思ったのかもしれない。
それに今容姿を十五歳にしたら、騎士長が周りからどう見られるか分からないので、控えることにした。
「リンリンちゃん、他の少女達はどこに行ったのだ?」
「騎士長さん、リンリンちゃんって誰ですか?」
「お嬢ちゃんの、名前だろ?」
「違いますよ。私は、リリーです」
「私は、そう聞いたのだが?」
やはり騎士組織の中でも、下位の部類に入る歩哨の騎士長までには、時間と齟齬が生じたのだろう。
「じゃー、人違いですよね? 私の名前は、リリー・ヴァリーです。人違いだと分かった事ですし、騎士長さん降ろして下さい」
むくれた顔で騎士長にそう言うが、降ろしてくれない。
「いや、それは無理な話だ。それに、ここにはどうして?」
「みゃ?」
「いや、そんな可愛い顔で猫の真似をされても、私には理解出来ないのだが?」
ここで、独りでお散歩ですと言い訳をしようものなら不審がられる。
況してや、お買い物と言っても信じてもらえない可能性がある。
それに、時間的にソロソロお昼なのでカトレア先生が宿屋にいるはずなのだ。
ならば、カトレア先生に俺の身元引受人になってもらえば良い。
別に悪いことはしていないのだが、フォレストムーン王国と違って幼女の独り歩きは無視できないようだ。
フォレストムーン王国は、恐らく王族や城に携わる人達が俺の事を知っているので、幼女であろうと少女であろうと自由にさせてくれているのだろう。
「騎士長さん、闘技場近くの噴水広場がある付近に宿屋が有ると思うのですが、連れて行ってくれませんか?」
「それは良いが、どうして?」
「フォレストムーン王国の冒険者学校の校長先生と、その宿屋で会うことになっているのです」
「ふむ。他の少女達達も、そこにいるのか?」
「いえ、後で合流予定です」
「仕方ない。なら、宿屋へ行くか」
こうして俺と騎士長は、宿屋に向かう事になった。
宿屋に向かっている途中、色々と声をかけられている所を見ると、騎士長は親切なんだろう。
子供達まで、騎士長を見ると手を振っていた。
そして、男の子が二名騎士長の所にやって来ると、騎士長の下げている皮袋に石や虫を入れていた。
どこにでもいる、悪戯真っ盛りな男の子達だ。
女の子達は恥ずかしそうに手を振っている子や、笑顔で手を振っている子が多かった。
もしかすると、女の子の中には騎士長の事を格好が良いと思って恋心を抱いている子がいるかもしれない。
そう言えば、騎士長に沢山持たせた料理やお菓子はどうなったのだろう?
「騎士長さん? この前あげたバスケットの中身はどうしたのですか?」
「ああー。リリーちゃんが、私に無理矢理持たせた料理とお菓子か」
「その節は、済みませんでした」
「いや、良いんだ。料理やお菓子だったので、私の部下達が喜んで食べていたぞ。私は騎士団の副部隊長に呼び出しを受けていたので、そのまま副部隊長の元へ向かったがな」
「騎士長さんは、食べなかったの?」
「私が帰った時には、全て空だったからな。まあでも、宿直明けの部下達や宿直する部下達の顔が生き生きしていたので感謝している」
成る程ね。
今までは俺の料理を食べた人は虜になる人が多くて、会うと必ずと言って良いほど料理の事を帰り際に言ってきたが、騎士長はお菓子の話を振っても乗ってこないのは、食べていなかったからなんだね。
「騎士長さん? 甘い物は、好きですか?」
「疲れている時に、リンゴを囓る程度だな」
そうか、甘い物と言えば平民は果物を想像するか。
当然だよな。
この世界の甘味料は、俺の元いた世界より遥かに高いからね。
ならば、先ほど果物屋のおじさんや杏ちゃんが絶賛してくれたアップル ミルフィーユ モンブランを、食べさせてあげると良いかもしれない。
絵面的に幼女が騎士長にお菓子を食べさせても、微笑ましい光景にしか見えないと思うしね。
「騎士長さん、あーんして下さい」
「リリーちゃん、あーんとは何だ?」
もしかして、騎士長恥ずかしいの?
成長した少女から食べさせて貰うと恥ずかしいかもしれないけれど、幼女から食べさせて貰うのなら微笑ましい光景でしょ?
「口を、開けることですよ? 騎士長さんは、したことがないの?」
「いや、有るが。なぜ、ここでする必要があるのだ?」
騎士長が、俺の装いのポケットを頻りに眼で確認していた。
そんな所を見ても、何も無いのだけれど?
「決まっているじゃないですか。騎士長さんに、私が創ったお菓子を食べて貰うからですよ」
「そんな物、持っていないだろ?」
あっ! そういう事か。
そう言えば、収納魔法が使える者は極少数派だった。
「よく見て下さい。私の右手に一口サイズのアップル ミルフィーユ モンブランが有るでしょ?」
俺は小さな装いのポケットを手で叩いて何も無いことを示し、笑顔を向け右手を差し出した。
「どこから、出したのだ?」
騎士長が、安心するよう笑顔を向けて差し出したのに、そんなことを言われると台無しだよ。
「もぉー! 騎士長さんは、疑い深いですね。収納魔法ですよ」
「えっ? 小さいのに、収納魔法を使えるのか?」
「良いから、あーんして下さい」
「虫や石は、入ってないよな?」
騎士長、もしや食べた物に虫や石が入っていたのだろうか?
そう言えば、周りで遊んでいる子供は石や木箱、それにアリンコを見て楽しんでいる子もいた。
先ほども、騎士長の下げている革袋に男の子が石と虫を入れていたからね。
成る程、警戒するわけだ。
だけれど、周りの子と一緒にされても困るよ。
まあ、騎士長から見れば俺も同じか。
だけど、折角美味しいお菓子なのに少し腹が立つよ?
ちょっと、猫の真似をして悪戯でもしようかな?
「しゃー! 騎士長さん、そんな事を言うと顔引っ掻きますよ?」
「いや、済まない。冗談だ……」
そう言って恐る恐る口を開けたので、一口サイズのアップル ミルフィーユ モンブランを騎士長の口に突っ込んだ。
「おふっ! モグモグ――――ゴクン。う、上手い!」
「でしょ?」
「ああ、初めて食べた美味さだ。それに、宿直の疲れが消えていくような気がするよ」
騎士長とたわいもない話をしていると、目的の宿屋に着いた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「リリー? みゃーみゃー言って踊っているけれど、もしかしてケット
ちゃんの真似しているの?」
リリー「違うよ。実はね、騎士長さんに舞姫の娘って言われたので、本格的に
スノーダンスを皆で踊って、歌でも歌おうかなと思っているの。でも
歌詞が思いつかなくて……ケットちゃんに、教えてもらっていたの」
シルク「ケットちゃんの、言葉が分かるの?」
リリー「分かるようにする事は出来るのだけど、文字言語自動変換LV2を使おうと
すると、スノーが尻尾を絡ませて来たり、カラダを寄せて来たりするの
で、分からない方がスノーにとって良いのかなと思って変換していない
から分からないのだけどね。何となく、みゃーみゃー言っていると
ケットちゃんと心が通じている気がするの」
シルク「へー、そうなんだ」
魔眼のケットシー「ミィミィ! ミィーミィ?」
リリー「みゃーみゃー? 本当に?」
魔眼のケットシー「ミィミィミィ!」
リリー「みゃー! ケットちゃん、ありがと」
シルク「私はアイビーの言っている事しか、やっぱり分からないわね」
リリー「ねえ、シルク? 私が冷蔵庫の奥に隠しているお菓子の家、また分から
ないように前半分だけ食べたでしょ?」
シルク「ギクッ!」
魔眼のケットシーに、みゃーみゃと告げ口をされるシルクであった。




